主人公・マキのキャラクターは監督自身でもある


水着!アイドル!グラビア!ゴースト!POV撮影!
映像部に所属している高校生のマキ(梅村結衣)は、仲間たちと地元の観光PRビデオを撮影するが、平凡な仕上がりに不満を募らせ
る。新たな企画案を思いついたマキは、春休みの合宿で仲間と顧問を巻き込んで再度撮影に挑む。しかし、元映像ディレクターの博和の参加でマキの暴走に対する不協和音がマックスに!

明るく楽しい真っ当なアイドル映画かと思いきや、『グラキン★クイーン』(’10)『花子の日記』(’11)に代表されるように商業的な視点も持ち合わせつつ、ねじれていくストーリー展開とどこかいびつなキャラクターが癖になる松本卓也監督の作品なのだから、やはり真っ当な訳がない。

松本監督の最新作ミスムーンライトは、新潟県新発田市(しばたし)を舞台に、今まで観たことがないようなアナログかつ斬新な映像が展開される快作となっている。

6週間に及ぶイオンシネマ 新潟南のロングラン上映を経て9月には東京、神奈川、千葉のイオンシネマ3館で公開。引き続き、シネマート新宿で11/4(土)〜 11/10(金)、イオンシネマ和歌山で11/11(土)〜11/24(金)の上映も決定した。

 

――猪突猛進型の主人公・マキのキャラクターに特に思い入れがあるそうですね。

松本:最近映画祭で入選するようになって、感想として“うまい”とか色々言われることがあるんだけど、俺の映画の原点ってそこを目指して撮ったんじゃないっていうのがあって。自分はお笑いの脚本の延長で映画の脚本も書いていて、確かに “うまい”部分も狙ってやりたいところの一つではあるけど、楽しいから続けているし、楽しいことをやりたくて始めたことなんですね。
『ミスムーンライト』は群像劇なので、今まで以上に脚本にも時間がかかってます。“うまい”ところ以上に、“ぶっ壊れていて楽しいことやってんだ!”っていうことを劇中の彼女に重ねてて、心の叫びとして言ってもらってるんです。

――だからこそ生きたキャラクターとして感じたのかもしれないですね。松本監督自身が、過去に捉われて屈折しまくっている元映像プロデューサー・博和役で出演されていましたね。

松本:高校生の群像劇だけど、やっぱりエンターテインメントとして多くの人に見て欲しいって思いがあったんですね。企画が始まった時は具体的な上映が決まっていなかったけど、劇場にかけるってプロデューサーが言って。だったら金子先生とか博和、マキのお姉ちゃん、お母さんといった大人パートも、いわゆる大人の人が見ても楽しめるようにと考えて作りました。

博和役は撮影できる人が良かったから、監督仲間に打診したけど2週間の合宿となると難しくて俺が出ることにしました。
ちょっと引っ掻き回す役回りというか、“なんでお前が講師で来てんだよ”って言いたくなる奴がいても面白いかなと思って。

俯瞰で見てみるとやっぱり純粋に突っ走るだけだと、マキみたいにどっかでぶつかるだろうし。
『花子の日記』から一緒にやっている斉藤宣紀プロデューサーが、“松本監督みたいな人が全員じゃない。できる人できない人、色々な人がいて映画を作っているんだから受け入れなきゃダメだ”って口癖のように言っていて、それを結構拝借して劇中に盛り込みました。
本当にそうだと思うんだけど、それでもやっぱり自分の答えとしては、それでも進んだ方がいいんじゃないかって。そんな思いを雛形あきこさん演じるマキのお母さんに反映しました。

――雛形さんは、子どもたちを信頼することができる包容力のある大人の女性で素敵でしたね。

松本:めっちゃ良い役になりました。新発田の河沿いで桜の木があるで真っ直ぐの一本道があって、桜の季節とキャストとシナリオの方向が一気にあのシーンではまったと思います。

――私もあのシーンは凄く好きですね。

 

地方映画の醍醐味

『ミスムーンライト』は松本監督が『グラキン★クイーン』『花子の日記』で組んだプロデューサーの斉藤さんから、「田舎の女の子たちが頑張る話」をやってみないか?と再度声が掛かったことからスタートしたという。当初の仮タイトルは『カントリーガール』。
地方都市である新潟県新発田市が、様々な人が懐かしさや共感を得ることが出来る街だと考えたのがロケ地の決め手となった。松本監督は様々な地方で映画を撮り続けてきており、新潟では8本もの作品を撮っているため協力者も得やすかったという。

――地方で映画を撮る際に、もちろん今までの経験やつながりがある思うんですけど、どのように進めていくんでしょうか。

松本:ロケハンに行って地元で撮るのはもちろん当たり前だけど、地元の人にも出演してもらうことに結構こだわりがあって。東京からキャスト、スタッフを引き連れてドカンと行ってドカンと帰ってくるんじゃなくてね。宿とかロケ地でお世話になるといったことが地方で撮ることの魅力なのかな。

『ミスムーンライト』には総勢約60名もの老若男女が出演中、約半数が地元の人々だという。
――今回の映画で新潟の方が出ていたのはどの部分になりますか。

松本:メインキャストで言うと映像部では1年生のマッスル(金子みゆき)とアベちゃん(小林歩佳)、
先輩だと録音部のおフジ(坂井華) の3人が新潟だった。アイドルのストリングスムーン(坂元楓・小野桃花・新井花菜・入山智花・溝畑幸希)の中ではヒカリ(坂元楓)が新潟で。
後、新潟のお笑い集団NAMARAとお笑い活動時代からずっと繋がりがあって、それもあってよく新潟で映画を撮ってたんだけど、今回は代表の江口歩さんにクラの父親役、役場の広報・加藤役で中村博和くんに出てもらった。
中村くんの地元が新発田市で、ぜひ新発田市で撮ってくれとラブコールがあって。それが新発田市に決めた理由の一つでもありますね。彼は凄く頑張ってくれて、出演以外でも地元の人や場所を紹介してくれたり。彼の協力は大きかったです。

行政主導ではなく、完全なるインディペンデント映画である『ミスムーンライト』

松本:よく新発田市から資金が出てるんじゃないかと言われるんだけど 全く出てないんです。

――そうだったんですね!新発田市から依頼を受けての映画かなって思ってました。

松本:俺もプロデューサー的にも、あわよくば少しぐらいという気持ちがあったんだけど、水着で攻めてるせいか特に資金を出してくれたとかはなかった(笑)

――実は『ミスムーンライト』の公式ホームページの新潟版ポスタービジュアルを見たら、あまり水着はフィーチャーされてなくて。 水着をメインにした全国版と全然違うので、やっぱり気を遣ってるのかなと思ってました(笑)

松本:よくお分かりで(笑)。そうなのよ。プロデューサーもやっぱり全国版には水着出したいって、あのポスターになった。

――『ミスムーンライト』の制作体制はどのようなものですか?

松本:出資して貰ったお金で撮ってるから低予算の商業映画なのかもわかんないけど、インディペンデント系映画なのは確か。
元は斉藤プロデューサーが担当しているオーディション番組があって、若手女優やアイドルたちの映画出演を応援したいファンたちがクラウドファンディングのような形式で出資してくれて集まった資金に加えて、足りない分をプロデューサーがさらにプラスアルファで集めて制作しました。

オーディション番組で20位以内に入った人々がメインキャストとして参加したという。
――主役のマキを演じた梅村結衣さんはどんなところが決め手になったんでしょうか?

松本:プロデューサー判断で、ミュージカル経験のある期待の若手だって聞きました。初めての読み合わせでも上手かったですね。舞台の演技は出来ても自然な演技はあまり経験がなかったらしいけど、ワークショップで役をつかみ出すのが早かったですよ。

――目が凛としていて、何十人も女の子が出てるんだけども、埋もれない個性がありましたね。

松本:おお!ありがとうございます。

 

 

――公開規模は元々どのように考えていたんですか?

松本:インディペンデント系にありがちな計画性がないと言うか(笑)。作り終わってからプロデューサーが交渉しに行って。プロデューサーが頑張ってくれて新潟でまずイオンシネマ 新潟南が決まって。1週間の予定で始まったんだけど、結果的に6週まで行ってどんどん増えて行って、その成績があったからイオンシネマの東京、横浜、千葉へ広がっていきました。
9月に上映が初めてイオンシネマじゃないシネマート新宿が決まって。一館一館交渉して増やしていくやり方で『グラキン☆クイーン』と『花子の日記』の時と同じです。

――今回はもっと広がってきそうな感じですか?

松本:結構広がりそうな気が。プロデューサーが和歌山出身なもんで、関西では最初に和歌山に決まったけど、今後は大阪や名古屋も視野に入ってます!

 

 

ラストに込められた監督の思いとは?

――ネタバレしない程度に伺いたいんですが、何故あのラストの展開を選んだんでしょうか?

松本:いいところを訊いてくれてありがとうございます!

2016年の4月クランクインした『ミスムーンライト』。脚本に掛かったのは1月~3月。松本監督が新発田市で映画撮るという情報が流れ、好意的に受け止めてくれる人がいる反面、松本監督が以前手掛けた新潟県の離島・粟島(あわしま)の温泉「おと姫の湯」のオリジナルキャラクター“泡姫ちゃん”に言及して、新発田市で映画を撮ることに対してSNS上で非難されたこともあった。まわり回って松本監督について粟島の役場に問い合わせが入った際には、フォローしてもらったことを後で知ったという。
映画制作(4本)や上映活動の縁で毎年粟島に足を運んでいる松本監督は、粟島島民や役場の人々とのつながりが深い。キャラクターグッズは関係者の要望で再販もされており、その関係は良好だという。

松本:俺って本当に周りから支えてもらってるんだなって実感したし、関係を築き上げてきたんだなって嬉しかった。あと、それぞれの反応が面白いよなぁってなって。エピソード提供してくれてありがとうございますじゃないけど、映画だからこそストーリーに反映できる。昔から思ってきた“面白い限り続ける”っていうテーマに繋がっていて、例えば企画の発信がクライアントからだったとしても、インディペンデント系だったらなおさら自分たちがやりたいことやらなきゃいけないと思う。だから最終的には自分への鼓舞も含めて、何を言われてもやりたいものを最後まで貫き通すことを描いた映画になりました。

 

――今聞いて納得したのが、松本監督の映画の面白さは王道エンタメ系の要素もあるけども、インディペンデント映画ならではの挑戦がいびつな魅力になってるんでしょうね。

松本:ありがとうございます!エンターテインメントはプロデューサーの要望で必須だったから、プラスアルファ俺の持ち味を加えたら映画そのものの解体に(笑)。

――メタな構成が小気味良かったです。女の子達も、男性目線で見た可愛いだけの女の子達ではなかった。

松本:従来のアイドル映画のイメージで見られないように、できるだけ全員をインディーズ映画のリングに無理やりにあげたと言うか(笑)。みんな合宿で同じ合宿所で寝泊まりして、とにかく一本の映画を作るにあたって一つの釜の飯を食ってやって行こうぜっていう泥臭いスタイルで。ただ可愛くて綺麗に撮った映画にはしたくなかったんです。

 

『ミスムーンライト』というタイトル

――それでは最後になりましたが、『カントリーガール』という仮タイトルから、なぜ『ミスムーンライト』になったんでしょうか。

松本:プロデューサーから象徴的なロケ地の月岡温泉の「月」を入れようって言われて(笑)。
『ミスタームーンライト』って曲はビートルズがカバーしていて、俺の大好きな桑田佳祐の『月光の聖者達 (ミスター・ムーンライト)』って曲もあるから、『ミスムーンライト』って発想して、そこから脚本も走りました。
月は自分で発光しないけど、照らしてもらうと光るというところが丁度マキとクラ(かいり)の関係に当てはまる。クラはドキュメンタリーを撮っていて、何でも一人で出来るし周りからも一目置かれていてマキはうらやましく思ってる。マキから見たクラは太陽に見えるんですね。でも実はマキ自身も月として光っている。月明かりに照らされてストリングスムーンが踊るシーンがありますが、ミサコ(田中あさみ)も含めて映像部のメンバーもそれぞれがミスムーンライトなんですよ。

――そう思ってあのシーンを観るとまた感慨深いですね。ありがとうございました!

ヒミツの拘りポイントとして映画の中で画角が変わる訳を教えてくれた松本監督。これまでの上映では特に指摘されたことがないというから、ピンと来た方は映画を楽しみつつ、ぜひ劇場で松本監督にぶつけてみて欲しい。

【上映情報】
シネマート新宿:11/4(土)〜 11/10(金)
イオンシネマ和歌山:11/11(土)〜11/24(金)

 

(C)2017「ミス ムーンライト」製作員会

執筆者

デューイ松田