「日本の武術をベースにしたサムライ映画を目指しました」下村勇二監督、プロデューサー藤田真一・井上緑、映画『RE:BORN リボーン』を語る!
8/12より新宿武蔵野館で公開中の下村勇二監督、TAK∴(坂口拓)主演の『RE:BORN リボーン』。3週間の公開予定だったが1週間の上映延長が決定し、連日ファンを増やしている。
下村監督の初監督作品は『デス・トランス』(’05)。その主演を務めたのが坂口拓さんだった。今回久々の長編を監督するにあたり、2013年に引退した坂口さんと再びタッグを組んだ。
これまで『VERSUS -ヴァーサス-』(’01)、『地獄甲子園』(’03)『魁!!男塾』(’08)、『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(’10)、『極道兵器』(’11)、『地獄でなぜ悪い』(’13)など数々の作品に出演し、アクションスターらしい華が魅力でもある坂口さん。『RE:BORN リボーン』では、驚くような戦闘術を披露すると共に、キャラクターの持つ陰影を巧みに表現して“新生・坂口拓”を印象付けている。
坂口拓の復帰作を下村監督が撮る。周囲の期待以上に本人たちの意気込みも大きい。今までにないアクション映画を作ろうと新しい動きや技術を試行錯誤するが、どうしても今までのアクション映画の延長にしかならなかったと言う。
――どのような経緯で今回の『RE:BORN リボーン』のアクションが誕生したんでしょうか。
下村:今回久々に坂口拓と一緒にやることになって新しいものをやりたいと色々と模索している中で、出会ったのが稲川義貴さんです。
『RE:BORN リボーン』にスーパーバイザー、戦術戦技で参加した稲川義貴さんは、元々剣術家であり武道家でもある。海外の特殊部隊や日本の自衛隊の教官を務め、近接戦を得意としている。
下村:稲川先生の技を映画の中に取り込めたら面白いと思いました。
今回作品で出てきた肩甲骨を回すウェイブという動きは、日本古来の武術の身体操作がベースなんですね。そこが見えた時に現代版の侍映画を作りたいとなりました。
僕たちは今までアクションをやって来て、あらゆるアクションを見てきましたけど、初めて見る動きだったんです。人間の持っている動物的な動きと言うか。
稲川先生は映像の世界は初めてだったんですが、僕たちのやりたいことに賛同してくださって。坂口拓は稲川先生について1年ぐらい時間をかけて学びました。
2015年4月から撮影に入り一旦アップするも、アクションシーンの追撮を2回行った。撮影だけで実質8カ月ほどかかった。
下村:肩甲骨って普段あまり意識しないところなんですけど、人間の身体の中で唯一360度回転する場所です。ブルース・リーのワンインチパンチってあるですけど、3つの関節を使う。肩甲骨を使うとさらに4つの関節を使うことになって、しかも可動範囲が広がるんです。
大振りだとスピードもパワーも出るんですけど、肩甲骨を使って狭い空間でも最小限の力や動きで最大限の力を出せる動きなんです。
公衆電話の中で、篠田 麻里子さん演じる女性の殺し屋と坂口さん演じる敏郎がウェイブ使い同士、肩甲骨を使いながら見せる激闘シーンは見どころのひとつだという。
下村:日本の古流武術、合気道もそうですが、実は道衣や袴によって肩甲骨の動きや足運びを相手に悟られないようにしていて、そういった日本の武術が生かされてる動きだと思います。
新しいアクションに見えますが、日本の武術をベースにしたサムライ映画を目指した作品です!
プロデューサーの藤田真一さんは、『RE:BORN リボーン』のアクションを見たことがないものになっていると語る。
藤田:一つ一つを見てみるとすごくロジックな動きで、見せかけだけの新しさじゃなくて実際理にかなったものです。
――実戦と映画の見せ方の違いがあると思いますがどのような工夫をされましたか?
藤田:相手に気づかれずに動くのが基本なので、それがカメラに対しても同じなんですね。カメラの写ってない方向からの動きが多いので、その辺のギミックを観客にどう伝えるのかで悩みました。現場にいると凄いんだけど、後で撮影したものを観ると何やってるかわからないなんていうのが結構あったり。それも含めて撮影が長引来ましたね。
――予備動作がないようなものですか。
藤田:そうなんです。いつのまにか終わっていて、ブルースリーみたいな気合もない。感情がない機械的な動きでもあるので、演出に落としづらい。監督の奮闘で見たことない映像になってると思います。
――下村監督の魅力はどういったところだと思われますか。
藤田:演出の際に実際に動けるところですね。他の監督はもっと強くとか弱くとか説明することが出来ても、実際に動きを見せることは出来ないので。実践してみせることで、俳優に意図がすぐ伝わると思います。
――坂口さんの撮影時のエピソードで忘れられないものはありますか?
藤田:本気度が違いましたね。脚本に頬を切って血を出すと言うのがあったんですけど、それを坂口拓が本気で切るって言い出して。
僕はプロデューサーになんで、”NO”って。彼は”大丈夫だ。絶対痕に残らないから”って。
“じゃあ腕切ってみろ”って僕の腕を差し出して、彼に切られて。凄い痛かったんですけど、切って5分たっても血が流れて来ないんで”ダメじゃん”って(笑)。
――身体を張って止めた訳ですね。
藤田:そしたら坂口拓が”もう一回やらせてくれ。今度は血が出るから”って(笑)。”分かった。もう一回”言って、今度は深く入りすぎて血が出てきたんですけど途中で止まりまして。”見ろ。実際に切ってもこんなもんだから、顔切っても同じだよ”って言ったにも関わらず、目を離した隙にカメラの前で切りました(笑)。
――シーンのつなぎは大丈夫だったんですか。
藤田:メイクで隠してやりました。本当は止めるべきなんですけど、彼はこれで引退だって言っていて、その気概を受け止めるしかなかったですね。
もうひとりのプロデューサー井上緑さんも、下村監督の進化した作品に関わった喜びを語る。
井上:下村監督は20年近くこの業界で活躍していて、今まで手掛けて来たような『GANTZ』前後編(’11)、『図書館戦争』シリーズ(’13、’15)、『ストレイヤーズ・クロニクル』(’15)といった大作だからこそ出来ることもたくさんあるんですが、前作の初監督作品『デス・トランス』からこの10年の進化を踏まえて、自分が本当にやりたいアクションを追求したいと監督自身もワクワクしてるのが凄くわかるんで、私たちも嬉しいなって。
武器に頼らず自分たちの身体のフィジカルな可能性や可動域をどれだけ広げていくかというアクションなので、早すぎる動きをどう映像に捉えるのを課題に撮影に臨みました。
――坂口さんは素晴らしい復帰作となりましたね。
井上:2013年に引退宣言してるんですけども、この作品のために一時カムバックしたくらい下村監督と坂口拓の思いや強い熱量が詰まった企画なんですよ。
アクション映画の第一線で活躍して来た二人なんですけど、今回は 自分達の限界を越えようとしました。
坂口拓は肉体改造を1年近くかけて行ってきていて、1年前の体じゃないんですよ。簡単に人を倒せるようになってしまいました。動きも早くてその体で動くマインドになっています。
――その坂口さんを受ける相手の俳優さんたちは大変だったでしょうね。
井上:本当に大変です。普段一緒にトレーニングしているアクションマンやスタントマンは慣れているから、ある程度は出来るんですけど、そうじゃない俳優さんは事前のトレーニングだけでは大変だったと思いますよ。ウェイブが入ったパンチを受けたら、後から痛みが出て数日痛みが取れないぐらいの中から動かして行くものなんです。
――キャストの中で印象に残ったのが、キャスパー役の坂口茉琴さんです。キャラクターを生かした役柄も面白かったし、アクションも凄かったですね。
井上:彼女は坂口拓の弟子として数々の現場を共にし、『蠱毒 ミートボールマシン』(’17)などのアクションコーディネーターも務めています。坂口拓が認めた逸材なので、これからも楽しみにしてくださいね。
私はアクション映画は見るのは大好きなんですけど、初めて制作に携わって、アクション映画ってこんなに時間と人をかけて作るものだとわかりました。一つ一つの動きにちゃんと意味があって、みんなで一所懸命思考を凝らして行っている過程がすごく勉強になりました。
スタッフ、キャストの思いが凝縮された熱い男達の映画です。納得出来る絵が撮れるまで撮影を止めないというくらいの覚悟で取り組みました。ぜひ楽しんで頂けたらと思います。
最後に昨年のプチョン国際ファンタスティック映画祭で『RE:BORN リボーン』の舞台挨拶にて、影響を受けた人を尋ねられらた際の下村監督の言葉を紹介したい。
下村:僕たちが目に見えるのは、自分たちの狭い範囲での体験や、ネットやテレビ、本で読んできた事に過ぎません。稲川先生から聞く話は、僕たちの知らない想像を絶するような話なんですよ。平和の中で平和を求めるのと、地獄の中で平和を求めるのは、同じ”平和”という言葉でも中身が全然違うんですよね。
この作品はお客さんに委ねる事が多くてあまり説明はしてないんですけど、そういった事も感じて貰えたら嬉しいなと思います。
映画『RE:BORN リボーン』は、新宿武蔵野館は9/8まで上映、その他の地方は大阪のシネ・リーブル梅田に続き、石川・イオンシネマ金沢と沖縄・ミハマ7プレックスは9/9、愛知・シネマスコーレは9/16、京都シネマは10/21より上映。北海道・シアターキノ、神奈川・シネマ・ジャック&ベティでも順次公開予定となっている。
執筆者
デューイ松田