東京ファンタ2000の前夜祭ホラー・オールナイトでトリを飾り、ホラーにはちょっとうるさいファンタ・マニアにも、好評を持って迎えられたセバスチャン・ニーマン監督の『セブンD』。このドイツ製ホラー映画のレイト・ロードショーが、新宿ジョイシネマにて11月25日よりスタート、初日の作品上映前に、”冬の夜長の世紀末ホラー・ナイト”と銘打たれた、スペシャル・トークショーが開催されました。この日のトーク・ゲストは、当Webの連載コラムでも御馴染み、ジョン・カーペンター作品のオピニオン・リーダーであり、ファンタ作品をこよなく愛する映画文筆家の鷲巣義明氏と、”日本一の日本映画ファン”を自認する落語家の快楽亭ブラック氏。隣の『エクソシスト』よりも『セブンD』を選んだコア?な観客を前にして、『セブンD』の見所から最近のホラー・ブームについて軽妙でありながら濃い談義を語ってくれました。



「セバスチャン・ニーマンです、本日は私の映画にいらしていただきまして、ありがとうございます」と、いきなりベタな挨拶で舞台に登場したブラック師匠。なんでも、師匠がここの舞台に立つのは初めてではなくて20年ぶりということです。それはまだ、新宿ジョイシネマが新宿名画座といわれていた頃で、主演映画の舞台挨拶だったとか。その作品とは、『痴漢各駅停車 おっさんなにするんや』はい、ピンク映画です。でも、師匠曰く「その頃の、作品にしては珍しく大阪ロケを行ったり、予算がかかった作品だった」とか。当時と今回の違いは、舞台のつくりが随分と狭くなっていることと、何よりも隣が女優さんじゃないってこととで感慨深げ(笑)なブラック師匠です。
鷲巣さんから『セブンD』の魅力について尋ねられたブラック師匠は、「こけおどかしなホラー作品が多い中で、古典的で王道を行くホラー映画であり、また後味が悪くない点」だそうです。この後味のよさという部分は、お客さんを怖がらせたままで帰らしちゃいけない日本の寄席などの伝統文化とも通ずるものであると、映画マニアというよりも噺家ならではの興味深い意見も披露されました。また、自分たちの心が弱っている時に、”魔”に取り憑かれる感覚がリアルに感じられたそうです。確かに全編をおおう、ヒロインらの喪失感の深さ、悲しさを描くドラマと、それにつけこむかのような”魔”の描写は、説得力があります。
セバスチャン・ニーマン監督の経歴などを紹介された鷲巣さんが楽しんだ部分は、オーソドックスな心霊映画であると同時に、作品に溢れる70年代・80年代のホラー作品へのオマージュ感覚。代表的なホラー作品を観ている人には、「この場面は、あの映画の…」というお楽しみが沢山あるそうです。皆さんは、いくつわかるでしょうか?舞台となる洋館・沼地のロケーションとカメラワークの美しさが、観終った後にいい感じに残るのもポイントとのこと。また、単なる心霊ものじゃない心地よさもあるので、そのあたりのディティールを楽しんでほしい作品でもあるそうです。7日後に死ぬという”ダイイング・メッセージ”のサスペンス、渋い演技派の役者陣など作品に関してお二人の共通した見所がいくつも挙げられた中で、アマンダ・プラマー演ずるヒロインに関してだけは、「もう少し可愛い子が、ひどい目にあった方がいい」と、映画ならではの”嘘”を求めるブラック師匠、「生活感等のリアリティがあってよかった」という鷲巣さんと、意見が分かれたのがなんとも可笑しいですね。皆さんは、どちらのタイプ?
さて、心霊ものや日本の怪談映画が大好きだというブラック師匠。日本の怪談映画では、やはりと言うか、中川信夫監督の作品がお好きということで、なかでも代表作の『東海道四谷怪談』以上に好きなのは、パート・カラーの『亡霊怪猫屋敷』。「昔、この館で…」という設定が『セブンD』にも通じるというこの作品の物語を、池袋文芸座の元支配人が深夜に一人テスト上映された時のエピソードなども交えながら名調子で聞かせてくれた一幕は、ちょっと得した感じです。

今年も邦画はホラー作品が量産されましたが、最近の日本のホラー・ブームは、「ホラー=心霊という図式に固まり過ぎているのが、ちょっと…」とは鷲巣さんの弁。また「『リング』はビデオを観なきゃ終わりだと思えて…」と言うブラック師匠の今年のお気に入りは、「清水崇監督のVシネ『呪怨』がやたらと怖かった…」と、メジャー作品に留まらずカルト的な作品まで流石のフォローぶり。鷲巣さんからは、清水監督の新作はある人気マンガが原作のシリーズ最新作になるという情報もチラリ。うん、これは、シリーズ最恐の作品になりそうで、ブラック師匠のみならず期待しちゃいますね。
ところで、ホラー映画を楽しむことには人後に落ちないお二人ですが、現実では特に心霊体験はないとのこと。幽霊に逢ってみたいかといえば、「美人の幽霊が訪ねて来る話がありますが…やはり幽霊しだいでしょうね(笑)」とブラック師匠。もっとも「幽霊は美人じゃないとなれない掟がありますから」…と、まんざらでもなさそう?一方、鷲巣さんは「見たら、世界観が変わってしまうからかもしれませんね。観てないからこそ、ホラー映画を観続けていると思いますよ。みんなも、そうじゃないですかね」。はい、僕も確かに『セブンD』みたいな作品で、純粋に娯楽として恐怖を楽しんでいくためにも、現実の心霊体験は勘弁です(笑)。やはり、映画が一番!
なお、『セブンD』は、新宿ジョイシネマにて、日曜を除く連日午後9時よりレイト・ショー公開中です。

執筆者

HARUO MIYATA

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