『しあわせへのまわり道』イサベル・コイシェ監督オフィシャルインタビュー
サインを見逃さないで———
運転を習うことは生き方を学ぶこと。
『エデンより彼方に』等で数々の賞に輝くパトリシア・クラークソン。彼女がニューヨーカー誌に掲載されたエッセイを原作とした脚本に惚れ込み映画化された本作は、分岐点に立たされたヒロインが、傷つきながらもありのままの自分と向き合い、まっさらなしあわせへと再出発する姿を映し出す物語となっております。哀歓豊かな女性の本音と小粋なユーモアにあふれたハートフルな物語に、誰しもが爽やかな感動を覚えるに違いありません。
この度イサベル・コイシェ監督のオフィシャルインタビューが到着いたしました。
Q:ベン・キングズレーと再び仕事をされていかがでしたか。
「彼は最高の俳優よ。『エレジー』(08)をやった時に、“絶対にまた一緒に仕事しましょう”とお互い言っていて、この作品が完璧だと思ったの。彼は、何だって演じられるから、イスを演じて欲しいと言ってもできると思うわ(笑)。」
Q:本作でベン・キングズレーはシク教徒の役を演じていますね。
「この話しを持って行った当初、役の設定がシク教徒だったから彼は少し躊躇していたのよね。私も彼もシク教徒について何も知らなかったの。私が知っていたのは、ターバンを着用しているということくらいだった。だから脚本を読んで、これを機会にシク教徒について学んでみようと思ったの。」
Q:シク教徒を侮辱するようなことを言う人達が登場しますが、なぜダルワーンはそれに抵抗しなかったのですか?
「私は、彼がそこで言い返さないことのほうが、威厳のある行為だと思ったわ。あまりに馬鹿げた人達に言い返せば、自分もその一部になってしまう。彼は、そんな馬鹿げたことに自分は絶対に影響されない、と自分に言い聞かせていたのだと思うの。」
Q:ロマンティック・コメディというのは何百と作られてきましたが、あまり現実的でないもののほうが多い気がします。今作では主人公の男女の関係は、恋愛ではなくて、友情ですよね?
「私にしてみたら、ロマンチックなことが何も起きないことこそが、最もロマンチックだと思うわけ。私は、ヘンリー・ジェームスの小説が大好きで、むしろ言わないことの中に、または、そこに漂っていることの中にこそ、実は確かなものが存在すると思うから。」
Q:編集はセルマ・スクーンメイカー(マーティン・スコセッシ監督の編集で有名な人物)ですよね?
「本当に恵まれていたと思うわ。彼女は、自然児で、素晴らしい人なの本当に。思うに、彼女はマーティン・スコセッシの映画からちょっとした休暇が必要なのだったと思うわ。マーティン・スコセッシの作品と言ったらカメラが4台あって、4ヶ月かけて撮影、というような作品ばかりでしょ。私たちの映画は、カメラ1台で、5週間で撮影だったから。だから、彼女にとってこの映画は、スパに行ったような作品だったと思うわ(笑)」
Q:監督ご自身がカメラマンになって撮影していることが多かったそうですが?
「私は自分の映画の撮影はこれまでもほとんど自分でやってきたわ。監督と俳優の間で特別な親密感を作り上げるというのは、撮影する上で非常に大事なことだと思っていて、カメラマンをやることで、俳優たちは常に私がそこにいることが分かっているから、彼らへの敬意や、私がどれだけ彼らを大事に思っているのかが伝わると思う。もちろん監督によってやり方は違うわけだけど。私はカメラマンを自分でやるほうが、ずっと簡単なの。腰が痛くて死にそうになるけど(笑)。」
執筆者
Yasuhiro Togawa