『ナイトクローラー』ジェイク・ギレンホール オフィシャルインタビュー
L.A.では街が眠りにつく間、傍受した警察無線からけたたましく音が鳴り響くのをスタート合図に、猛スピードで車を走らせ、いち早く事件・事故現場に駆け付けて被害者にカメラを向ける者たちがいる。通称“ナイトクローラー”。報道スクープ専門の映像パパラッチだ。彼らは、死臭を求めるハイエナの如く貪欲に、刺激的な映像を求めて夜の街を這いまわる。そして、手に入れた映像をテレビ局に売り捌き、カネを得る。本作は、視聴率の為に倫理をも踏み外した映像を欲しがるテレビ業界の裏側と、それを非難しながらも求める現代社会の闇に迫る。
主演は、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞®にノミネートされたジェイク・ギレンホール。我々の隣にもいるごく普通の男に潜む底なしの狂気を恐ろしくも見事に演じきり、ロバート・デ・ニーロが演じた『タクシードライバー』のトラヴィスの再来とも言われている。
主演のジェイク・ギレンホールのオフィシャルインタビューが到着した。
Q:きわめてオリジナルな作品です。キャラクターはかなり邪悪ですが、同時に人間性も感じさせます。これはどうやって達成したのでしょうか?
G: まず何よりも脚本の力だね。それからルイスは、いわば複雑で微妙な道徳の一線を綱渡りしているんだ。どちら側にも容易に振れてしまう。もしくは社会病質的な側により多く振れていく。ダン・ギルロイ監督と僕が、制作中マントラのように唱えていたのは「観客が彼に共感できるように」ということだった。動揺しながらも、彼を応援して欲しかったんだ。
Q:そうです。応援してしまうのは、彼が非常にパワフルで、自らの必要に応じて現実を変化させてしまうという特異な傾向を持つからだと思います。
G: そうだね、彼がしていることはまさにその通りだ。それから彼は現実を取り上げて、ある種のフィクションに変えてしまう。一線が曖昧になってしまうと、非常に危険なことになるんだ。
Q:金融市場や失業、永続的なインターンシップ雇用の職業文化などが、こうした生存本能を生み出していると思いますか?
G: そうだね。ルイスは時代の産物だと僕は思う。情報への欲求、成功というアイデアへの欲求、我々が価値あるものとするアイデアへの欲求——そうしたものが彼を産み出したんだ。それと、「捕まらなければ、何をしても良い」という考え方だ。これは僕にとって興味深い問題だね。
Q:ルイス・ブルームにはどれくらい共感しましたか?
G: そうだね、彼の衝動と野心は理解できる。彼の選択については——とりわけ映画の最後の方で、彼が究極的に成す選択とそれを自分に対して正当化する仕方については——共感できない。でも僕は、それは僕らが普段行う選択のメタファーなのだと思うようになった。例えば、この前仕事で誰かをクビにする必要があった友人がいる。これはある意味、死を宣告するようなものなんだ。だから映画でこの種のことが起きる時は、僕はそれをメタファーとして捉えた。そして、映画は見方によっては、リアルな政治風刺劇とも捉えることができる。
Q:ルイスが鏡を壊す緊迫したシーンについて教えてください。あのシーンはアドリブだったとか。
G: あの鏡の前に立ったとき——その前にアパートメントで別のシーンを撮影してたんだけど——僕は何となく鏡に向かって叫び始めたんだ。単なる思いつきとしてね。鏡に映る自分の姿を見て、その場で叫び始めた。それから鏡を殴りつけ、さらにもう一度殴ったら、鏡が割れて手が切れた。予想してなかったことだけど、それは映画全体の振り子のようなものだった。ルイスが何らかの感情を発露するのは、あのシーンだけだろ? 目にするのがかなり恐ろしい感情だね。
Q:作品のプロデューサーも務めるのは重要なことでしたか?
G: 役者としては、楽しいことだと思う。なぜならプロデューサー的視点を持てるからね。自分がしっかりと準備するほど、リソースを節約できるし、多くを成し遂げられる。僕はこの映画を、舞台出演と同じように準備した。長い台詞もかなり早い段階で暗記したよ。そうすれば実際の撮影で、2、3テイク撮ってすぐに次に行けるからね。つまりどんどん撮影を進めて、スケジュールを達成できる。僕はプロデューサーの立場から、「スケジュール通り進んでいる。もっと撮影できる」と考えていた。「今日は2ページ分撮影しないと。すごく長い台詞があるなあ……」とみんなが怖気づく場面も、簡単に成功させて、別の部分に力を注げる。だから2役をこなすのはとても楽しかったよ。
Q:あなたはキャリアを通じてすばらしい監督と仕事をしてきましたが、ギルロイ監督がこの作品に持ちこんだものは何でしょう? 彼とのコラボレーションは非常に緊密だったと聞いています。
G: ダンは並外れた精神の持ち主だ。僕らは互いの直観を、直観的に理解するんだ。彼はアーティストとして最も高い水準にあり、また計り知れないほど大きなハートの持ち主だ。彼は怖いもの知らずで、恐ろしい場所に大胆に踏み込んでいく。つまり僕が好きなタイプのフィルムメイカーだね。以前一緒にしたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、自らの内面をよく理解しているから、暗い側面へと踏み込んでいくことを恐れなかった。それは究極的な意味合いで、啓示となるんだ。ドゥニに会ってみれば分かるけど、彼は類を見ないほど素敵な人物だ。「あちら側」を恐れないからこそ、そうした人間に成り得たんだと思う。ダンも一緒だ。彼は、他の人々を怖気づかせる場所へ踏み込むことを恐れない。結果として、彼は広く開かれた心を持つことになる。それを大きな皮肉として捉える人は多いけど、僕はそう思わない。それはただ彼が様々な意味合いにおいて勇敢であり、だからこそ脆いということなんだ。彼は本当に並外れた才能の持ち主だし、僕は彼を人間として深く愛している。言えるのはそれくらいかな。
Q:作品の制作過程で最も楽しんだことは何でしたか?
G: 僕にとってこの映画のハイライトは、台詞だった。ダンの書いた台詞を喋るのが大好きだったんだ。僕は彼の脚本にまるで教典のように忠実だった。文字通り、一字一句、句読点ひとつから単数形・複数形の違いに至るまで、すべて忠実にやったんだ。もしひとつでも間違えたら、やり直したかった。なぜなら彼の台詞は本当に特別だからだ。だから制作過程のハイライトは、ダンとの関係だけでなく、彼の書いた台詞そのものだった。彼がその台詞を口にする機会を僕に与えてくれたことだね。あるシーンの撮影を終えて、次へと移るとき、「もうこの台詞を口にすることはないのか」といつも寂しく思ったよ。
Q:ルイスというキャラクターは『タクシードライバー』の主人公トラヴィスの再来とまで言われますが、演技する際に意識していましたか?
G:それはノーだね。比較することを理解はできるけど、僕はそういうアプローチはしないし、トラヴィスに似せるということをモチベーションにして演技をしたりするタイプじゃないんだ(笑) もちろんあれだけの役柄、あれだけの映画と比べられることはすごく光栄だけどね。
執筆者
Yasuhiro Togawa