オーストラリアからハリウッド映画の頂点まで昇りつめたジョージ・ミラーと、日本から世界に挑み続ける三池崇史。エンターテイメント性と作家性を併せ持ち、映画にこだわり続ける〈映画屋〉2人の初対談が実現した。
 奇しくも、今年の第56回カンヌ国際映画祭に新作が出品された2人。伝説のヴァイオレンス・アクションシリーズが30年ぶりに復活したミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、文字通り全編にわたってノンストップでアクションが展開する超大作。一方、ヤクザ・ヴァンパイアの壮絶な戦いが繰り広げられる三池監督の『極道大戦争』は、監督デビューから4半世紀を経て原点となる“Vシネマ・スピリッツ”を甦らせたアクション大作だ。
 共に超低予算アクション映画からキャリアをスタートさせた2人が、原点回帰となるアクションにこだわり抜いた新作をメジャー大作として完成させ、6月20日に同日公開される。「若いころにすごく影響を受けた」という『マッドマックス』シリーズ直撃世代の三池監督は、「ミラーさんとお会いして話せるのがとても光栄。そんな繋がりが生まれるのが、映画の持つ力だと感じる」と言う。
 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観た三池監督は、「今回マックスを演じたトム・ハーディにしか出せない空気、カッコよさが出ているなと思いました。『座頭市』みたいな日本映画的美学を持っていて、それは監督やハーディの《マックスってなんだ?》という疑問への答えなんだと思います。ため息が漏れました」と絶賛を惜しまない。



ジョージ・ミラー監督=GM  (マッドマックス仕様KAERUくんを見て)コイツはなんていう名前だい?
三池   “KAERUくん”です。
GM  ミスター・フロッグ!? ファンタスティック!! このキャラクターのアイデアはどこから生まれたんだ?
三池   日本には「ゆるキャラ」というのがありまして(笑)。『極道大戦争』は偉そうなことを言う映画じゃないので、ゆるキャラを主役にしたんです。『ザ・レイド』というアクション映画に出演していたヤヤン・ルヒアンも、この映画に出てくれました。
GM  (『極道大戦争』のプレスシートを見ながら指さして)彼かい?
三池   いえ、それは日本の俳優で市原隼人といいます(笑)。

——  実は『マッドマックス 怒りのデスロード』と『極道大戦争』は同じ6月20日に公開されるんです。
GM  なに、本当か?
三池   はい、『マッドマックス』の影に隠れて公開されます(笑)。

——  『極道大戦争』は三池監督が久々に原点回帰したアクション映画です。
GM  私と一緒だな!
三池   本当はトム・ハーディと一緒に仕事をする予定だったのですが、クランクイン直前に彼の都合でできなくなって、自分のスケジュールが空いたんです。それで、何かやろうと思って作ったのが『極道大戦争』です。
GM  どうりで、ミスター・フロッグがトム・ハーディに似てると思ったよ(笑)。

三池   今年のカンヌ映画祭で『マッドマックス』がワールドプレミアで上映されましたよね?『極道大戦争』もカンヌの監督週間で上映されたんです。やっぱり常に僕の映画は『マッドマックス』の影にいるなと思って(笑)。
GM  カンヌは楽しかったかい?
三池   今回は新作を撮っていたので行けなかったんです。それで、せっかく来ていただいたお客さんへのお詫びに、僕が着物を着て女装したカードを配ったんです(と、カードを見せる)。
GM  これは映画の中で三池監督が演じた役かい?
三池   いえ、僕は出てないんですが、せっかく集まってもらった皆さんに、すいませんという気持ちをこめて作ったんです。
GM  ……とってもキレイだよ(一同爆笑)。

三池   僕は若いころジョージ・ミラーさんにすごく影響を受けたので、今回、こういう場を設けてもらって、とても光栄に思っています。『マッドマックス』シリーズのファンだった自分が今、こうしてミラーさんとお会いして、マックスを演じたトム・ハーディとも仕事の打ち合わせをしていた。そんな繋がりが生まれるのが、映画の持つ力だと感じています。
GM  そう、新たに『マッドマックス』を作ったおかげで、三池監督をはじめ世界中のフィルムメーカーから嬉しい言葉をもらえた。私もいい作品に出会うと非常にエネルギーをもらえる。この映画が皆さんからそういう言葉をもらえる作品になったのが、本当に嬉しいね。
三池   作品そのものも非常に楽しんだし、最高に興奮したんですが、同時に僕ら映画を作る人間からすると、『マッドマックス』を観てしまうと、世界中の映画人は物を作れない理由を状況のせいにできなくなったなと思ったんです。「作るか、作らないかだけ。それはアナタの問題だ」と、ミラーさんからエネルギーをがんと突きつけられたような気がしました。

GM  1週間前にスティーブン・スピルバーグから電話をもらって、今、三池監督が言ってくれたようなことを彼もすごく興奮しながら言ってたんだ。私もスピルバーグをはじめロバート・ロドリゲスやJ・J・エイブラムスといったアメリカのフィルムメーカーからエネルギーをもらって、もっと映画を作りたいという気持ちになったからな。
三池   ただ、最近の僕は、最初に映画を撮りだした頃の情熱はまだあるつもりなのですが、自然と湧いてくるわけじゃなくて(笑)、自分で自分を焚き付けないといけなくなっているところがあるんです。
GM  映画を作り始めたときは、みんな熱意と情熱だけだったからな!
三池   そうなんです。今回の『マッドマックス』を観て、これから映画を続けるには、辞めるか原点に戻ってもう一回ゼロからやるか覚悟しなきゃいけないと思いました。

三池   ところで、映画の中で、この演出は僕にもできるっていうのが一つだけありました。
GM  どこだい?
三池   (頭の後ろに手をやって鉄仮面を取り外そうとする仕草をしながら)カシャカシャカシャってやつです。
GM  ハハハハ!!!
三池   トム・ハーディが装着させられた鉄仮面を外そうといつも手を動かしているのは、脚本にも書かれていたんですか?
GM  そう、はじめからあった設定なんだ。とにかくマックスは自由になるために脱出しようとしているので、あの顔を覆う仮面が相応しいと思ったんだ。
三池   あれはヤスリさえあれば僕の映画でもできる(笑)。あれ以外は、とても自分には撮れないと思いました。
GM  三池監督なら他のシーンも撮れるさ!

(写真:金井尭子)
 
 
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執筆者

Yasuhiro Togawa

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