『河童のクゥと夏休み』や『クレヨンしんちゃん』シリーズなど、オトナが泣けるアニメーション作家として評価の高い原恵一監督の最新作『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が5月9日(土)よりTOHOシネマズ日本橋、テアトル新宿他で全国ロードショーする。本作は、監督が敬愛してやまない杉浦日向子が20代後半に描いた「百日紅」を、主人公の葛飾北斎の娘、お栄に杉浦作品の大ファンである女優、杏を迎え、葛飾北斎を松重豊、ほか濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆、麻生久美子そして立川談春と日本を代表する演技派、個性派の豪華キャストによって、色鮮やかな江戸の街を蘇らせる。

#『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』原恵一監督インタビュー

・監督自身、杉浦作品のファンだということですが、アニメ化するにあたっての心境をお聞かせください。
—元々杉浦さんの作品が大好きで、いつかは映像化したいと思っていたのですが、自分にはまだその力がないと思い「いつかは」と思い続けていました。今回、ちょうどいいタイミングでこのような案を受けられ、夢のひとつが叶ったという気持ちです。

・では、監督が原作に対して特に魅力的に感じたシーンなどがあれば教えてください。
—好きなエピソードはたくさんありますが、特に単行本の最後の「野分」という、最初に原作を読んだ衝撃を受けたエピソードがものすごく印象的でした。なので今回映画化して、構成を立てるときも野分のエピソードをクライマックスに持って来ることは最初から決めていました。

・お猶さんの、盲目であるということが決してマイナスに描かれることなく、むしろプラスに描かれているという印象を受けました。
—野分のエピソードを最後に持ってくるというところで、逆算的に考えて、お栄とお猶のエピソードを描こうと考えました。

・お栄役を務めた杏さんも、元々杉浦作品のファンだったということですが、今回彼女をお栄役に抜擢したのにはどのような理由や経緯があったのでしょうか。
—山田太一さんの「キルトの家」というドラマがあり、それに出演していた杏さんがとても印象に残っていて、そこから女優としての杏さんを意識するようになりました。ドラマやバラエティ番組に出演している杏さんを見ていて、彼女の声をお栄に当てはめれば絶対によくなるはずだという確信がありました。

・杏さんだけでなく、他のキャストの声優陣もすごく役にぴったりでしたね。
—そうですね。基本的にアフレコは画に当てはめるので、普段から杏さんをはじめ役者さんのドラマなどを見て「この人だったら絶対に合うだろうな」ということを考えています。

・ただ映像が美しいだけでなく、リアルさまで描かれているという印象を受けたのですが、監督が特にこだわった点はどのようなところだったのでしょうか。
—前回の『カラフル』というアニメーション作品は、アニメの得意な自由さやいくらでも異世界を描けるという特性を極力封印してつくったのですが、今回はアニメの得意な技をなるべく駆使してつくろうと意識していましたね。

・プロダクションI.Gさんと初タッグを組まれたとのことですが、つくる上でこれまでと大きく変わった点はありましたか。
—初めて一緒に仕事をするスタッフさんも多かったのですが、みなさん優秀な方たちだったので、そのようなことはありませんでした。特に違和感もなく、むしろ楽な気持ちで仕事ができました。

・逆に、苦労した点はありましたか。
—私が杉浦さんの作品を好きすぎる、というところが一番苦労した点だと思います。絵コンテを描いていても、杉浦さんの作品の出来の悪いコピーを作っているような気分になって手が止まってしまうということもありましたね。

・それでもやはり完成した作品の出来には手応えを感じていらっしゃるのではないでしょうか。
—そうですね。完成した作品は、杉浦さんに見せても恥ずかしくない出来になったと思います。

・本作は日本の公開前にもかかわらず、すでに海外からの注目も集めていますが、今後どのような広がりを期待されているのでしょうか。
—北斎という存在は世界的にほとんどの人が知っている名前だと思うので、海外の人からも注目してもらえると思っていますが、やはりまずは国内で受け入れられたいという気持ちが強いです。今回特にどのような人に観てもらいたいかを考えたときに浮かんだのは、20代〜30代の女性です。お栄自身が23歳で職業を持った女性なので、色々な仕事上の悩みや恋、家族との関係など、悩みや喜びといった部分を現代の働く女性に共感してもらえたらいいなと思います。

・舞台は江戸時代ですが、いい意味で江戸時代というものを感じさせられることなく、世界に入り込むことができました。
—地続き感というものは意識しました。ただの昔話ではなく、私たちは何代か遡れば男はちょんまげを結い、女は髷を結っていたんですね。そういう人たちがどのような暮らしをしていたかを考えたときに、たぶんツールやインフラ的なことに違いはあれど、やはり似たような日々の楽しみ方をしていたのではないのかなと思います。杉浦さんの作品にはそのようなことが沢山描かれていて、むしろ現代の私たちよりものんびり楽しく生きていたような気がするんですよね。

・公開に先立ち、この映画を一言で表わしていただけますか。
—「華やかな映画」でしょうか。華やかな映画になったと思っています。

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<ストーリー>
百日紅(さるすべり)の花が咲く——お栄と北斎、仲間たちのにぎやかな日々がはじまる

浮世絵師・お栄は、父であり師匠でもある葛飾北斎とともに絵を描いて暮らしている。雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。今日も江戸では、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ち溢れている。恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ちこむが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる、嵐の予感とともに……。江戸の四季を通して自由闊達に生きる人々を描く、浮世エンターテイメント!時を超えて現代へ紡がれる人生讃歌の傑作が誕生しました。

監督:原恵一(『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『河童と
クゥの夏休み』、『カラフル』)
原作:杉浦日向子「百日紅」
出演:杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、麻生久美子、筒井道隆、立川談春
入野自由、矢島晶子、藤原啓治

製作:Production I.G 配給:東京テアトル©2014-2015杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会
sarusuberi-movie.com (リンク)

5月9日(土)全国ロードショー

執筆者

金子春乃

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『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』公式サイト

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