【ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015】のオフシアターコンペティション部門で、50歳にしてグランプリを受賞した森川圭監督『メイクルーム』が、5/9よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国6館にて一斉公開となる。

 『メイクルーム』は、AV(アダルトビデオ)の撮影現場を舞台にトラブル続きの1日を描いたワンシチュエーション・コメディだ。現在迄に1000本以上のAVの監督、撮影を務めてきた森川圭監督だからこそ描けるちょっぴりエッチな驚きのエピソードの数々を体現する女優達の活躍が見所だ。

 混乱を極めるメイクルームを回して行くヘアメイクの都築響子役に森田亜紀。現場の要として全てを受け止める包容力のある演技は、大畑創監督『へんげ』で見せた被虐性とは正反対の魅力を見せる。

 惜しまれながら引退するも企画単体女優としてパワフルにカムバックしたMASAKO役に栗林里莉、単体女優としてワガママ放題のまさみ役に伊東紅、本日がデビューの清純派・松子役に川上奈々美といった人気セクシー女優が共演。それぞれの立場で悩みを吐露する女優たちをユーモラスに演じている。

 スタッフや出演者達の人間関係、プロ意識、一緒に作品を作り上げる喜びを丁寧に描いた本作。観た人に、明日の仕事に向かう力が自然と湧いてくるような暖かい作品を作り上げた森川監督の人柄に迫ってみた。



















■ゆうばり国際ファンタスティック映画祭・グランプリの評価について
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——オフシアター・コンペティション部門でグランプリとしてお名前呼ばれた時はいかがでしたか?

森川:最初から松居大悟監督(『私たちのハァハァ』)が取ると思っていました。スカパー!賞で松居監督が呼ばれた時に、これはグランプリとダブル受賞だな、完璧に終わったと思ったので、ビックリしましたね(笑)。
 センスがいい映像とか今の若手の中で一番売れている監督で、やはり彼がもらって若者を牽引していくんだろうなと。そのつもりでいたので本当にビックリしました。

——逆にそこで評価されたことについてはどう思われますか?

森川:審査委員長の大森監督は、若い頃自主映画で出てきて素晴らしい作品を何本も残されていて、映画はワンカットずつ構築していくという昔ながらのセオリーを大切にしている方です。画角、ライティング、ワンカットワンカットに意味があってそれを重ね合わせて一本の作品にする。そんな正統派の構築の仕方を評価してくれたのではないかと思いました。

■舞台版『メイクルーム』が生まれたのは
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——AVの撮影現場のメイクルームという限定された場のお話ですが、ぶつかったり分かり合ったりする中で次の仕事に向けての気持ちが生まれる様子は、他の仕事にも共通するものだと思いました。

 『メイクルーム』は、2010年に森川監督が脚本・監督を務めた同名の舞台を映画化したとのことですが、当初、舞台の話が来た時にこういった話にしようと思われたのは何故ですか?

森川:ずっと映像をやってきて小劇場の舞台をやってみないかと言われたときに、いくつかお芝居を観て、どうせだったら場面転換がないような、メイクの都築が最初から最後まで居るようなものが作れないかなと思いました。

 観て頂いて分かるように音楽もほとんどない。音楽って悲しい音楽をかけると悲しくなったりしますから。音楽で方向性を決められる作品じゃなくて、そのままメイクルームを覗き見しているような感じに出来ないかなと思ったのと、こういう物語を誰もやってないかなと思いました。

 舞台は4日くらいの短いもので、パート1を6月に上演して12月に1と2をやりました。最高のものが出来たと思ったので、これで終わりにしようと思ったんですけど(笑)。昨年は『メイクルーム・パート3〜すかんぴんアイドル〜』という新作を上演しました。今年は6月4日〜14日まで八幡山のワーサルシアターで映画のパート1とパート3の再演をします。

■森田亜紀さんのちょっと怖い部分とは?
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——舞台と映画で演出の違いはありますか。

森川:基本的には同じですが、舞台と映像は全然違うものなので。芝居は何回も何回もやり続けて完成型に近づけていく。始まったらもう手は下せないので、完成型が舞台の上でどうなるかという面白さがありますね。映像はその場その場のカットを積み上げていきます。通してやるお芝居と、ワンカットワンカット構築していう映画はまったく違うものだと思います。
 ただお芝居であることに変わりはないので、自分が気持ちいいリズムや気持ちいいものを狙っていくというのが適切な表現かと思います。

——映画版の主演を務めた森田亜紀さんはお母さん的な存在としてメイクルームを回しますが、演出されていかがでしたか?

森川:すごい良かったですね!森田さんはすごい上手な人で、ちょっと怖い部分もあったり。この人、ふわっと受け止めているけどキレた時が怖いんだろうなっていう(笑)
 女優さん達の背景は説明しているけど、都築の背景は一切説明してない。だけどこういう人なんだろうなというのを観ている人たちに想像させるような作り方はしているんですが、それを上手く表現してくれたなと思っています。

——どの現場にもああいう方がいて、上手くフォローすることで現場が回るのかなという気がします。ヘアメイクさんを主役としてお話を作り上げたのは森川監督ならではの視点ですね。

森川:結局助監督や監督はとにかく撮らなきゃいけないから、どうしてもメンタルな部分の配慮が出来ず、出演者を物のように扱ってしまうこともあるわけです。その辺をフォローしつつ、現場と女の子の間でバランスを取って動いてくれる有難い存在です。
 女の子寄りになると現場で闘うことになっちゃうんですよね。「来てください」っていう時に、たまに「女の子が疲れてるんだから待ってください」って女の子側に付いちゃう人もいたりしますが、そうなって来ると現場がうまく回らない。だから中立の立場でやんわりやるべきことはやらせるみたいな。そういう感じですね。

■大人が観る映画に惹かれた子供時代
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——ではここで森川監督の子供時代の話を伺いたいと思いますが、初めて映画を面白いと思ったのはいくつぐらいですか?

森川:子供の頃から映画が大好きでした。昔は小学校の頃は田舎の方に居ました。母方の田舎が福島で震災でなくなっちゃったんですけど。

 当時は映画館がなくて映画が公民館に来るんですね。東映まんが祭りとか東海道四谷怪談みたいなのが。夏になるとそういうのが多くて昔はテレビも田舎だとチャンネルが少なくてNHK2CHと民報1CH。

それで映画が大好きになって。小学校高学年になるとお金貯めて1人で映画を観に行ったりしてましたね。

——その頃印象に残っているのは?

森川:『雲霧仁左衛門』とか好きでしたね(笑)

——それはシブいですね(笑)

森川:大人が観るような映画を観たいなと思っちゃうんですよね。友達が観てないような映画を観たいと思うようなませた子でしたね。(笑)

 中学生くらいの時はもう東京に引越していて、大好きな映画をたくさん観ていた訳です。ぴあで情報を仕入れたりして。中学生なので成人映画を観たい訳です。あの頃は規制が緩かったから、一般映画と成人映画が二本立てであるんですよ(笑)

 成人映画だけど入り辛いんだけど、顔合わせないでもぎりをしてもらうと入れるんで(笑)。そういう感じで映画をいっぱい観てましたね。

■AVを撮ってないと多分生きてなかったと思う
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 若い頃から好きだった監督は、寺山修司(『書を捨てよ町へ出よう』『田園に死す 』、その他実験映画)、長谷川和彦(『青春の殺人者』『太陽を盗んだ男』)、勅使河原宏(『砂の女』等)、今村昌平、東陽一、高林陽一などいっぱい!と語る森川監督。役者の中では、沢田研二(ジュリー)と仕事をするのが夢という。

——映画を撮り始めたのはいつからですか。

森川:学生の頃は自主映画を撮っていました。ピンク映画が注目されていた頃で、中村幻児監督、高橋伴明監督が、西の伴明、東の幻児と言われた巨匠で『おくりびと』の滝田洋二郎監督などが面白い作品をたくさん撮っていたので憧れていました。

 一般の映画では助監督で入ってもなかなか監督になれないけど、ピンク映画だと割合早く監督になれて、作りたいものを作らせてもらえると聞いて、学生在学中からピンク映画の助監督を始めました。

——ピンク映画の現場はいかがでしたか?

森川:大変でしたね。僕が助監督の頃は武闘派と呼ばれる人がいっぱいいたから、ボコボコに殴られたりする。助監督の役目は飲みに行くとなると監督が暴れたりするのを止めたり家に送り届けるのができないといけない(笑)。本当に短い時間の中でいかに寝ないで盛り上げていくかという配慮が必要でしたね。助監督として色んな監督ついたし、助監督以外にも呼ばれれば撮影助手とか制作とかスタッフとして働きました。

 その頃に僕の師匠である望月六郎と出会って、誘われたんですね。
「今アダルトビデオの制作会社を作ろうとメーカーと話をしているから」。生活も無茶苦茶な状態だったので。二十代前半のことです。

 それから会社がなくなっても、間でAV以外のものも撮りながらも、基本的にはAVに食わせてもらっているという感じですね。AV撮ってないと多分生きてなかったと思います。

■マグロが泳いでないと死んでしまうように、ずっと映画を撮り続けたい
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——仕事をしていく中で、映画を撮りたいという思いはずっとあったんでしょうか?

森川:最初から映画を撮りたいと思っていました。ホラー映画とかたまに撮らせてもらったりしてますが、自分が才能あるないは棚に置いてAVも映画も同じエンターテイメントとしての同じ土俵に上げられないかなとずっと思っていたんですよ。

 昔から、映画監督が仕事がないときにAVを撮るということがあった訳ですよ。○○監督も実は名前を変えてAV撮っていたんですね。AVを撮っているとどうしても一般作品を撮るのに支障が出てしまうというのがあるので。それで何か出来ないかなと思っていて。例えばAVに蛭子能収さんを出したり。接点を持たせようと常に模索していた時期がありました。映画も撮れてAVも撮れるような状況が作れないかなとずっと思っています。

 今回、監督の森岡利行氏(プロデューサー)から『メイクルーム』を映画にしようという話があったので、ゆうばり映画に出してみたらこんなことになってしまってという感じなんです。

——これからも作品を作られると思いますが、映画を撮っていきたいという原動力はどこから湧いてくるんでしょうか?

森川:僕は若い頃から他の媒体で仕事してことがなくて、映画やAVも含めてずっと映像の仕事だったんです。原動力と言うより、映像とか演出とか撮影とかしてないと多分死んじゃうと思う(笑)。マグロが泳いでないと死んでしまうような感じですよね。

 常に作り続ける。常に見てもらって評価があるのものを作っていきたいなと思ってるんです。それはAVでも映画でも同じです。今回賞を取ったことでAVの仕事が少なくなることが怖いなとは思ってます(笑)

『メイクルーム』公開初日舞台挨拶
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■日程 5月9日(土)
■劇場 ヒューマントラストシネマ渋谷(シアター3)
■時間 14:20の回 上映後
■登壇予定 森川圭監督、住吉真理子、森田亜紀、栗林里莉、伊東紅

執筆者

デューイ松田

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