【2014年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭アーカイブ(1)】
 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014・フォアキャスト部門にて上映された『瘡蓋譚-カサブタタン-』。

 眠る妻の瘡蓋を衝動的に食べてしまう夫。それから夫は、こっそりと妻の瘡蓋を食べ続けるようになり、妻も夫の行為に気付き始める。夫は次第に罪悪感を感じるようになるが、妻は夫の期待に応える事に快感を感じる。行為はどんどんエスカレートしていき、二人の想いはすれ違ってゆく。

 そんな夫婦の秘密の営みと機微を捉えたストーリーを、ゆうばり映画祭・史上最年少である現役高校生・上野遼平さん(現17歳)が脚本・監督を勤め、河瀬直美監督のプロデュース作品ということで注目を集めた。

 その後『瘡蓋譚-カサブタタン-』は、“第6回沖縄国際映画祭 クリエイターズファクトリー”や大阪“シネドライヴ2014”、“第10回TOKYO月イチ映画祭”、“福岡インディペンデント映画祭”、渋谷UPLINKの“10代の映画祭”に登場。

 今後の予定としては、9月12日〜15日に開催される“なら国際映画祭2014”9月13日のプログラム<新進気鋭作家短編特集>、そして同じ日程で開催される“カナザワ映画祭2014”9月13日<期待の新人オールナイト>でも上映予定となっている。

 映画を撮りたい高校生が河瀬直美監督とワークショップで出会い、どのように作品が生まれたのか。
















■河瀬直美監督のワークショップで学んだ
映画づくりのざっくりとしたこと
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 発端は、鼻くそを食べる子供がいるのだから、かさぶたを食べる人もいるのでは?と気にかかったことだった。ネットで調べると自分で食べる人が結構存在するらしいと分かり、他人のを、それも夫婦で食べると面白いという発想が『瘡蓋譚-カサブタタン-』につながった。
 映画を撮りたいけど自分の周りの環境ではどうにもならないという焦燥感。大人になってからではなくて、今撮りたい!という気持ちが強かったという。

——どんなきっかけで河瀬直美監督のワークショップに参加されたんですか?

上野:奈良の僕の高校で、なら国際映画祭2012のワークショップの募集があって。5人以上集まらないとワークショップが開催できないってことで、自分が撮りたいために「面白いから!」「楽しいから!」って5人集めました(笑)。普段仲良くしていて、お互い何を言っても多少事は通る仲間が4人。あと1人は予備に全然しゃべったことなかったけど「あいつは絶対断れない奴や」って呼んだんですけど(笑)。結局ノリノリで今では仲良くしてます(笑)

 【東大寺学園×なら国際映画祭 映像ワークショップ】は4日間行われた。奈良県の天川村の人々の暮らしを撮ろうというもので、カメラはiPadを使用。1日目は森を撮映。2日目はインタビュー形式の短いドキュメンタリーに挑戦したという。

——河瀬監督からはどんなことを教わりましたか。

上野:短期間なので撮影に関しては最低限のことだけでしたね。インタビューに関しては話の聞き出し方とか。あとは編集にあたって何が必要で必要でないかといったことですね。話がそれたら映像を挟めば切れるとか(笑)。それはやってみないと絶対にわからない感覚だったし。なお映画をやりたいと思いましたね。

——作品は発表されましたか。

上野:なら国際映画祭で上映されました。僕は自分のギャグ作品はいくらでも観るんですけど、ドキュメントや『瘡蓋譚』は気取って撮ってるから、恥ずかしくて通して観れないんですよ(笑)。
奈良の市長さんかな?「上野くんのが一番良かった」と言って下さったらしくて。直接聞いた訳ではないからどこを評価して下さったのかは分からないんですけど、物を作るのはこういうことなんだな。というざっくりとしたことを学びましたね(笑) 

■初めて映画撮って自分の細かい欲を満たせる訳がない
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——ワークショップが終わってどのように映画制作につなげていったんですか?

上野:僕は自分の映画を作るのにつなげたかったので、半分恐喝みたいな感じでいろんな方の名刺を奪い取って、「こんなんやりたいんです!」と言いまくりまして(笑)。それで本当に撮ることになりました。

——とてもアグレッシブですね!入る前の準備はどのようにやりましたか。

上野:中3の時に撮った『自宅戦士Gタック』は脚本もコンテもなくて話を作りながら撮影したので、映画本来の作り方をしたのは『瘡蓋譚』が初めてです。脚本は、自分が生まれる前に両親が何をしてたか知らないし、聞いても本当のことを教えてくれるかわからないから(笑)。それを無理矢理覗くというイメージで書いていきました。

 全編手持ち撮影で、人の視点のように撮りたいと思いました。絵コンテは描かなかったけど、長回しで撮って俳優さんの動きは綿密に考えました。

——現場の演出はどのように行いましたか?

上野:人に伝わらないような細かい変なこだわりがあるんですよ。撮影は専門学校生の方がノーギャラで手伝ってくれはりました。セリフであえて“普通こんな返しせんやろう”という僕的にフェチな小細工を施そうとしたんですけど、「必要ある?」と言われると。「ないですかね…」みたいな。なかなか言いたいことが言えなかったんです。僕のフェチな部分はあまり出てなくて。
最後には喧嘩になってしまって、それから関係が改善されました(笑)

——それは(笑)!早く話し合っておけばと思いますが(笑)、始まってどれくらいのことですか?

上野:撮影は全体で一週間くらいで3分の2過ぎていたので絶望的で、編集の時はストーリーさえつながればという感じでした。

——編集しながら違う!という?

上野:泣いてました。家の壁に四つ穴が空いています(笑)。編集に9ヶ月かかって。最初は80分でした。出来てないなりに自分のやりたかったことを盛り込むと結構な長さになって。何を切ったらいいかもわからなかったです。

——河瀬監督の反応いかがでしたか?

上野:「もうちょっとスッキリしたら」と言われて、今から思えば短くしろということを遠回しに行ってくださったと思うんですけど。やけになって盛り込んだけど、ごっそりシンプルにしてまえ!と思って40分のバージョンを作ったらいい感じになって、やっと映画って楽しいなと思えました。
河瀬さんがラジオで、“想像の域を描くだけ描けているのではないか”“意外に夫婦的な細かい台詞回しが「あるある」で、中々私はいいものが出来たと思います”と言ってくれてはって嬉しかったです。

——上野さんがこだわったのはどんなところですか?

上野:意外性のあることがやりたくて。変なカットを入れたり。リアリティのあるカットを撮っていたけど、このシーンだけは取って付けたようにしたいなとか。映画の雰囲気をぶち壊さない程度に自分のフェチを反映させたかった。
でも、初めて映画撮って自分の細かい欲を満たせる訳がないと。
井口昇監督の映画を観ていると羨ましいです。『恋する幼虫』を観ながら、“はあ、悔しい…”と過ごしていました(笑)。

——ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では、憧れの井口昇監督に『瘡蓋譚』を観て頂けたそうですが反応はいかがでしたか?

上野:「いい」って言ってくださって。詳しくは聞けてないけど、井口さんの音楽の福田裕彦さんやたくさんの方々が「いいって聞いたから観に行くよ」って言ってくださって、嬉しかったです。井口監督は『瘡蓋譚』の舞台挨拶に出て頂きました。

——西村喜廣監督がプロデュースする“西造イベント 復活!フォーラムシアター”で上野さんの『自宅戦士Gタック』の上映もありましたね。西村監督は『瘡蓋譚』についてどんな感想でしたか?

上野:「出来がいいけど本当は気取って無い人間だろう」と。「もっと下品なネタ好きだろう」と。「河瀬直美ナイズされるなよ!撮りたいもの撮れよ!」と仰ってましたね。確かにテイストは僕のテイストじゃない感じはありますけど、撮りたかったものであることには変わりないんですけどね(笑)まあ結果論です。西村監督は
「お前の映画おっさんが撮る映画なんだよ!なんで乳首出さねーんだ!」
って(笑)。
 裸で踊っているシーンでギリギリ乳首が写って無いものを使ったんです。それは女優さんへの配慮もあったんですけど、
「気取り方が童貞っぽい。お前銭湯で執拗にチンコ隠すタイプだ!って」
って言われました(笑)

 河瀬直美さんとゆうばり映画祭で映画界の両端を見れたんで(笑)。まあ実際真逆という訳でもなくて、河瀬さんと西村さんは過激さと勢いに結構共通点がありますよ。真ん中なんて見る必要ないなと思いました。ゆうばりに来れて良かったです。

■長編の構想にショートフィルム連打!受験生の夢は膨らむ
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幼稚園の頃、“「映画監督になりたい」と言ったらしい”という上野さん。元々映画は好きだったが、中学生になると“中2病”の傾向が出てくる。イキがるといった方向ではなく、みんなが観ないマニアックな映画を観るという方向。中でも心を奪われたのが井口昇監督の『片腕マシンガール』。気に入った監督の作品はレンタルではなく、おこずかいを貯めてソフトを買うというユーザーの鏡に。

——観る方から映画を撮ろうとなったのは?

上野:血が出るにしても、CGにしても、映画の画面の裏のからくりに興味があって映画やりたいなと。『瘡蓋譚』はそういった仕掛けはないけど、撮影ではフレームの外ではギリギリまでマイクが来ていたり。そういうのが面白い。表現するのが好きやったんです。

——『瘡蓋譚』を撮る前に脚本を書いたりしていましたか?

上野:小学校5・6年の頃、クラスの演劇で脚本と演出をしてました。先生と一緒に放課後準備して、器用な方だったので大道具も指示したりやってましたね。
お話はパロディが多くて。桃太郎のパロディと、小六は『アンパンマン』(笑)。各学年が見世物をして送ってくれはるのをお返しにやる劇です。「僕達は晴れて中学生になります」、みたいなこと言う訳です。大人やのにギャップで『アンパンマン』(笑)。 反応は覚えてないけど、あんまりすべってつらい思いをしたことはないですね。

その後中学校ではバスケ部に入るも、馴染めず3ヶ月で退部。続いて入ったテニスも続かなかった。ものづくりをしたいと思いながら、小説に挑戦するが完成には至らずに、悶々とする3年間を送ったという。

——その思いが映像製作に向いたのは?

上野:中3の3学期に音楽の授業の課題で、班に分かれて劇でも歌でもいいから発表するというのがあって、映像を撮ったのが『自宅戦士Gタック』です。カメラは普通のホームビデオで。僕の親は運動会とか動画を撮らないんで、ビデオカメラがなくて、音楽の先生に借りてやりました。編集も自分でやって15分の作品になりました。友達が「面白い」って言ってくれて。音楽の先生も「来年の中3に観せられる」と喜んでくれはって。劇は一発勝負だけど映像って残るんだなって。楽しいって思ってそこからより興味が出てきました。

——どんなストーリーだったんですか?

上野:自宅に引きこもっているヒーロー気取りのGタックという奴がいて。インターフォンを鳴らして毎回敵が来てくれるんです。部屋の中で敵を倒して、“俺平和守ってる”と思いながらも、一方で“本当に守れてるんか?”と疑いを持ちながらやっている人の話です(笑)。コスチュームはダンボールで作りました。

——『瘡蓋譚』とは全く違うお話ですね(笑)。Gタックは上野さんが演じたんですか?

上野:主演は全く接点のなかった超真面目な子が参加してくれて、SMプレイとかやってくれて(笑)、そこから彼は変わったし僕も悶々としたものが吹っ切れて転機になりましたね。
今でも映像だけで食っていくかはわからないですけど、自分が思いついた物語に合うのが小説ならそうするし、TVドラマならそうしたいけど、映画を作りたいというのが根源だったので、映画は絶対続けて行きたいと思っています。

——上野さんが感じている映画の面白さはどんなところですか?

上野:映像って観てるだけで笑えるし、自然に涙がこぼれますよね。
涙がこぼれると小説は紙が濡れるけど、映画は濡れないという利点があります(笑)。

——なんだかとんち合戦みたいになってきましたが(笑)、次回作の構想はありますか?

上野:今、実は長編映画の企画をしています。もしかしたら『瘡蓋譚』よりももっと沢山の方々に観て貰えるものになると思います。あと、ショートフィルムを10本くらい撮りたいですね。小ネタめっちゃあるんですよ。やりたくてやりたくて仕方ないのが。

■自分の表現欲求と何が求められているかは分けて考えたい
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——トーク面白いですが、子供の頃からそんな感じですか?

上野:そうですね。子供の頃からこういうタイプなんで、映画がTV的な笑いにならないよう心掛けています。言葉で全部説明してしまうTV的な表現は避けたいです。逆に会話劇の楽しみもあるんで。

——会話劇と説明は全然違いますもんね。

上野:タランティーノの『デスプルーフ』とかはTV的じゃないと思うんです。ひょっとしたら今後TVをやることもあるかもしれないけど(笑)、その時はTV用の自分と映画用の自分に分けて、明確に違うものとして提示したいですね。自分の表現欲求とは別に、何が求められているか分かっていないとバカにされると思うので意識していきたいです。

——ゆうばりの上映トークでも、出演俳優の大人の皆さんを率いて司会として非常に楽しく会場を盛り上げていました。何が求められているのかと意識されていたんですか?

上野:いい映画を撮るのも大事ですけど、中々普通の人は監督で映画を観ないですよね。
作品が武器とおっしやる方も多いしそれもいいと思いますが、園子温さんのように僕は自分自身を武器に出来たらなと思います。

——下世話な話で申し訳ありませんが、上野さんはそのトークを武器にモテてますか?

上野:最近のジャーナリストの方々はすぐそういうこと詮索をするから警鐘を鳴らしたいですね。それは小保方さんに聞いたらダメだけど僕にしてもらうのは構わないです(笑)。だからといってその質問には回答しかねます(笑)

——どっちやねん!(笑)

上野:実際のところは友達はたくさんいますよ。逆に不安があって、面白いことを言わないと、自分が手綱を緩めると友達がいなくなるかなという不安感もあります。

——メンタリティが芸人さんのようですね(笑)

上野:と、いうのは恥ずかしいので書かないでください(笑)

——ハイ。しっかり書いておきます(笑)
話は真面目な方に戻りますが、映画を続けることを親御さんは賛成されていますか?

上野:最初はダメだって言ってたけど、「ここまでやっちゃったからもういいよ」って(笑)

——『瘡蓋譚』を観た感想は何か仰ってましたか?

上野:「うちの息子は変態に産んだ覚えはないけど、厄年に産んだせいかな」って(笑)

——お母さまも素敵な方ですね(笑)。次回作がどんなことになるのか楽しみにしています(笑)

執筆者

デューイ松田

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