2014年2月27日から3月3日まで開催されたゆうばり国際ファンタスティック映画祭。
 ズバリ今年の見所は、若手対ベテラン組の対決!
新風となるか、ゆうばりファンタ史上最少年齢の現役高校生・上野遼平監督『瘡蓋譚』、現役大学生の中村祐太郎監督『ぽんぽん』『すべてはALL-NIGHT』、酒井麻衣監督『棒つきキャンディー』『神隠しのキャラメル』、そして学生残酷映画祭の面々!

 迎え撃つベテラン勢は、オフシアターコンペティション部門にてリベンジを誓う光武蔵人監督『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』!2年連続のショートフィルムショーケース部門入選に続き、オフシアターコンペティション部門に登場した竹葉リサ監督『さまよう小指』。
 招待作品では名優・笹野高史が孤独ウオッチャーと血まみれの死闘を演じる内田英治監督『グレイトフル・デッド』。今年もゆうばりに帰って来たキム・コッビが餌食に!
金子修介監督は花井瑠美、武田梨奈、清野菜名、加弥乃を主演に迎え、美少女ソード・アクション『少女は異世界で戦った』で参戦!
 商工会議所を血に染める恐怖の約16時間30分イベント(恐らく長引いても短くなることはない)西村映造プレゼンツ『復活!フォーラムシアター』、どんなメジャー映画でもフェチ魂は鋭意投入の井口昇監督最新作・最速ワールドプレミア上映『ライヴ!』!
 昨年度のゆうばり国際ファンタスティック映画祭スカラシップ作品・飯塚貴士監督『ニンジャセオリー』が完全版『ニンジャセオリー< EXTENDED EDITION>』として帰って来た!同じく昨年度『京太の放課後』でショートフィルムショーケース部門にて優秀実写賞を獲得した大川五月監督も続編『京太のおつかい』を完成!
 ピンク映画界で役者として33年、監督として23年のキャリアを誇るMr.Pinkこと池島ゆたか監督『おやじ男優Z』。ゆうばりファンタ常連の岩崎友彦監督『ややこしい関係』、堀井彩監督『スターチャイルド』。
 昨年に続いて登場の『ヨーロッパ企画ショートフィルム大連発2014 』。26人の映画監督たちが贈る「日本」をテーマにしたバカ映画オムニバス『フールジャパン〜ABC・オブ・鉄ドン〜』などなど。
 毎年のことながら何を選ぶか苦慮した方が多かったのでは。

■■■■■盛りだくさん過ぎるゆうばりファンタ2014におけるデューイ松田セレクション、第1弾はオフシアター・コンペティション部門で審査員特別賞に輝いた『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』光武蔵人監督と亜紗美さんです。
コンペ結果を翌日に控えてのインタビューの様子はいかに!?■■■■■




























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■5年前からリベンジは始まっていた!
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——2009年のオフシアター・コンペティションで『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』を出品されて2度目ですが、再度コンペに応募されたのは何故ですか?

光武:あの年は入江悠監督の『サイタマノラッパー』に負けてしまって。映画祭でリベンジ出来ないかなという思いがあったんです。昔はオフシアター・コンペティション部門は頭に“ヤング”が付いていたんですが、今はないんで白髪のジジイがもう一回出てもいいのかなって(笑)。

——復讐のため身体の中に銃を隠して潜入するという設定ですが、お話は長く温めておられたんですか?

光武:“身体の中に何かを隠す”というモチーフ自体は大学の頃からやりたいと思っていて、死体の中にダイヤモンドや金塊を詰めて密輸する話を書いていたんです。そこから色々な変化を経て、身体の中に拳銃を隠して闘うという話になりました。

——ヒロインを亜紗美さんにオファーされたのは?

光武:最初は友人の紹介で、4年前にたまたま彼女の作品と僕の『サムライ・アベンジャー』のソフトがドイツの同じ配給会社から出ていて、配給会社が呼んでくれたのでドイツのサイン会に行ったんですね。往復が一緒の飛行機で、亜紗美は自分が寝たい時には寝るんですけど、話したい時には寝てる僕を起こして話し掛けてくる(笑)。

亜紗美:意地でも起こす!みたいな(笑)。

光武:結局往復だから26時間くらい。その時に亜紗美の当時の悩みを聞いて。主演の代表作が今ひとつ自分で「これ!」と言えるものがない。

亜紗美:もちろん、『片腕マシンガール』といったような代表作は色々あるんですけど、主役という形で一本名刺代わりになるような『○○』に出ている亜紗美です!というのが欲しいと常々思っていて。それを光武さんに言ったんですよ。

光武:僕なんかでいいなららぜひやらせて欲しいと。すでに“女体銃”というアイディアはあったんでそのまま盛り上がって。

——飛行機の中でそこまで話が進んだんですね。

光武:「最後の30分は全裸でアクションを考えているんだけどそんなんでもやる?」って。そしたらかぶり気味で食い付いて来て。

亜紗美:「私の代表作にしてください!」って。

光武:「脱げてアクションもできるというところが売りなんですよ」って言ってもらったんで。
「じゃあ全然何も怖いもの無しなんで、作らせてもらえるかな」となったけど、僕も力不足なんでお金集めに長い期間がかかって、結局マクザムさんが出資してくれるということになりました。僕の最初の作品も『サムライ・アベンジャー』もマクザムさんで足を向けては寝られないですね。今回は制作から組ませて頂いてスタートできました。

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■みんなが知らない【亜紗美】像を!
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——光武さんの作品でどういう亜紗美さんを出そうと思いましたか?

光武:亜紗美はコメディも出来るじゃないですか。本人はコメディ寄りなんですね。

——それは実際に?(笑)

亜紗美:ハハハ!

光武:でもその裏には、実はちょっと引きこもりチックなところがあって。楽しい亜紗美、騒いでる亜紗美を知ってる人の方が多いと思うけど、本当は凄くダークなサイドもあるし。人と一緒にいる時が辛い部分もある。井口さんや西村さんが描かれて無いところの亜紗美を僕が描くことが出来たらなというのは凄くありますね。
 今日も上映の時にどなたかが、「『女体銃』って聞くとタランティーノやロドリゲス風で、それこそオッパイから銃が出てくるようなそっち系かと思ったら、ダークでシリアスでビックリした」と仰ったけど、そこがまさに狙いでしたね。

——亜紗美さんは【マユミ】というキャラクターについてはどう思われましたか?

亜紗美:光武さんはキャラクターやお話について相談してくれるんですよ。特に演じなくてもいいように書いて下さったのは知っているので、役に対してどうと言うことより、イロイロあったので話が形になった時に涙が出てきちゃって。脚本を読んで、私の役はこれで、こう思いました、というレベルのものではない感情が出てきちゃって。感動とも違うのかな。不思議な、決してマイナスの方ではない感情が出てきて。泣いて読めなかったという(笑)。「落ち着いたら読んでいい?」って

光武:そんな感じだったね(笑)。

——復讐者【マスターマインド】役の成田浬さんは、どうやってキャスティングされましたか。

光武:僕が日本に住んでいた時期に福島で撮影していた自主映画に俳優としてお呼び頂いたんですけど、成田浬も俳優として出演していてそこで意気投合しました。マスターマインドの役は色々説明しないといけない。成田は舞台で経験を積んだキャリアの長い俳優なので、この役をお願いしました。

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■アメリカ初日、宿のドアを激しく叩く謎の黒人女性!
その時亜紗美さんは…!?
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——撮影はアメリカで行われたんですね。

光武:全編アメリカで撮影しまして、ロサンゼルス郊外ですね。ラスベガスのシーンは本当にラスベガスに行って撮ってます。

——何日くらいの撮影でしたか?

光武:亜紗美がロサンゼルスにいた本体撮影が12日間で。プラス主役の日本人俳優がいないのを2日間。トータル14日間です。

——撮影の現場はいかがでしたか?

亜紗美:今まで色々な現場に行かせて頂いて…そんな超大作映画はなかったんですが、朝までやるスタイルが当然のようになっている中、アメリカでは何時までってかっちり決まっているんですね。スタッフさんもそれまで仲良くしていたのに、終わった途端ドライなって「See you tomorrow!」「あれ、帰っちゃうの!?」みたいな(笑)。
最初の2、3日はそれでちょっとさみしい思いをしたり。
 後は、本編で使っている銃は本物なのでセイフティ・ミーティングがスタッフ・キャスト全員集められて行われたりとか。そういう日本の現場との違いが楽しくて仕方なかったんです。心底、カメラ前でも外でも苦しいことはなかったですね。

光武:でも過酷でしたけどね。お金も時間もない中で。銃を体に入れる手術のシーンをやるために上半身の型取りも、空港に着いてそのまま向かったり。タイトなスケジュールでしたね。
 日本から来たのが、亜紗美と【マスターマインド】役の成田浬と【浜崎の息子】役の鎌田規昭だったんですが、一緒の安宿に泊まってもらって。

亜紗美:鎌田さんは遅れて参加だったので最初浬さんと2人で、初日空港に着いて型取りに行って、ご飯食べて「いよいよかぁ、がんばろう!」ってホテルに戻ってきて。遅い時間にドアがコンコン鳴る訳です。私馬鹿だから何も警戒心もなく、浬さんかな? 「ハイハイ」って開けたら黒人女性が立っていて。取り敢えず何があっても動きが取れるようにスタンスを開いて!(笑)

——そこでアクション・マインドが!(笑)

亜紗美:そしたらわーっとまくし立てて来て、「フォーン」という単語だけ聴き取れたので、「ジャストモーメント、フォローミー!」って浬さんの部屋に連れて行って。「浬さん助けて!」って(笑)。結局15、6歳の子供で両親が帰って来ないから電話を貸して欲しいってことだったみたいで。浬さんが全部解決してくれたという(笑)。
諸々お世話になりましたね。

光武:スタッフサイドは低予算ならではで、人間が疲弊して行ったり、人間関係が疲弊して行ったり。色々あったことはあったんですけど(笑)。日米のキャストは和気あいあいと。

——そういった様子だったんですね(笑)。

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■光武監督が熱く語る実銃へのこだわり!
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——本物の銃を使ったとのことですが、具体的な種類と誰がどの銃だったか教えてください。

光武:『女体銃』を制作する上で、僕の監督としてのテーマは「アメリカでしか撮れない映画にする」というものでした。
それで、ラスベガス大通りのゲリラ撮影を敢行したり、エンディングでの空撮にこだわったりしたわけです。
 
 劇中に登場する車も1982年式コルベット・スティングレーや、2010年式ダッジ・チャージャーだったりと日本ではなかなか走っていない車にしました。
「アメリカでしか撮れないもの」のある意味、究極が実銃を使ったアクションでした。
主人公【マユミ】が使用する拳銃 H&K USP コンパクトは、実銃です。
亜紗美はフィールド・ストリップ(解体)もコンバット・シューティング(実戦射撃)も実銃を使ってマスターしました。
 
 【ザ・ルーム】の管理人が使用するショットガンは、僕のガンマニア的思い入れのある銃です。ストーガー・インダストリーズ社が発売している水平二連式散弾銃なのですが、ピカティニー・レールにタクティカル・ライトとコンバット・グリップを装着しています。
 西部劇の時代から使われてきたクラシックなショットガンに、戦闘用小火器をカスタマイズするため近年開発されたピカティニー・レールが付いているという『北斗の拳』的近未来感が気に入って、僕が購入した私物です。
 マットブラックの塗装もイカしてて・・・あ、そろそろ皆さん付いて来れなくなりそうなので、銃の話はこのぐらいにしておきます(笑)。

——きっとマニアの皆さんは喜ばれると思います(笑)。
 『女体銃』が非常に面白かったのが、難攻不落の【ザ・ルーム】に侵入するために、「この体形の女性のこういう部分に入るからこの大きさの銃」、とか、「何分以内に銃を組み立てて何分以内に輸血したら助かる」というように細かく理論的に説明するところです。単なるアクションではなく、ディテールを踏まえながらやっているのにワクワクさせられました!

光武:大きな嘘を付くために、小さなディテールはどれだけリアルに理論的に聞えるように出来るか?というところにこだわりました。身体の中に銃を埋め込んでベリベリ剥がして闘うというのが元々の大ウソなので。

——亜紗美さんは、その大ウソをこの女なら出来そうというキャラを体現されていました。丁寧にトレーニングを積んで段々に変わって行くプロセスに映画のリアリティを感じました。最初は純粋な女の子から墜ちて行く感じも良かったです!

亜紗美:嬉しい!頑張りました。芝居しないと言ってた割に、何も出来ないところで凄い芝居したんです。

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■怪物【浜崎の息子】の作り方!
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——そして後は最大の悪役である【浜崎の息子】役・鎌田規昭さんの異様な(笑)。

光武:そうですね。あのキャラクターは僕と鎌田のいい意味でのコラボレーションで。お互いに自分の考えがあってその答え合わせをして、全部同じ答えだったという。一緒に作り上げていた感のあるキャラでしたね。

亜紗美:現場で暇さえあれば2人がハマちゃん(=浜崎の息子)の事について喋っているのを、よくクッキー食べながら見てました(笑)。「俺はこうだからこうだと思う」「なるほど。でも俺はこうだと思うんだ」って延々ずっと話している横でクッキー食べ終わってカップラーメン食べながら、まだ話してると思いながら見てました(笑)。現場が始まってからもそれはずっと変わらず。

光武:亜紗美とはそういう話はしなかったね。

亜紗美:逆にそうですね。4年という長い期間お互いの思いをぶつけて、光武さんが生み出してくれた役だけど、私もそこに参加して出来たものだから。

光武:亜紗美の【マユミ】というキャラクターは、僕は枠組みだけを作って中身は亜紗美が埋めてくださいという感じだったので。
【浜崎の息子】は下手するとコメディになっちゃうじゃないですか。笑いと恐怖の綱渡りのバランスを取りながらだったのでそれを理解していたのは僕と鎌田だけ。アメリカ人スタッフは笑いにしようとして、可愛らしい帽子を持ってきたり。そこのバランスを取るために僕と鎌田はよく話していたという感じです。
彼は『サムライ・アベンジャー』で師匠役で人格者的な人間をやって、今回モンスターの役で。しかも彼は『サムライ・アベンジャー』の後5年ぐらい個人的な事情で演技から遠ざかっていたんです。

——アメリカでずっと俳優さんとして活動されていたんですね。

光武:元々アメリカにいて、日本に今住んでいます。どうしても僕の作品には出て欲しかったので、最初は【ザ・ルーム】の管理人をオファーしたら、「脚本を読んだら【浜崎の息子】しか見えなくなって来てるんだけど」って。「是非やらせてくれ」と言ってもらったんです。

——倫理観が別の次元にあるキャラクターとして、非常に怖さを感じました。

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■亜紗美さんの危機に田渕景也アクション監督の熱い檄!
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——亜紗美さんはアクションで苦労したところはありましたか?

亜紗美:血糊と【ザ・ルーム】の養生シートが相性が見事に悪くて。滑って滑って踏み込めないし蹴り込めない。うおおーっ!って感じ(笑)。

——その必死さが逆に。

亜紗美:それが逆にリアルですよね。実際血が流れているわけですから。

——光武さんは亜紗美さんのアクション撮影で能力的に一番印象に残ったことはありますか?

光武:亜紗美と今回アクションシーンをやってみて、一番印象に残ったというか、感銘を受けたところは、常に全力投球なところですね。
 映画のアクションは、もちろん本当に戦っているわけじゃないので、俳優を強く見せたり優れた身体能力があるように見せたりすることは、そんなに難しいことじゃないんです。
 ただ、そのシーンが持つ意味を感じて、考えて、必死にアクションを演じるということは、誰にでも出来ることじゃありません。亜紗美は、全力投球、全身全霊で主人公の【マユミ】になってアクションシーンに挑んでくれました。

——事前のプランとは違って思いがけなく現れた面などありましたか?

光武:亜紗美とアクション監督の田渕景也の最高の化学反応ですね。
ふたりの顔合わせは初めてなんですが、もう初回のリハーサルからフルスロットルで旧知の仲のような阿吽の呼吸。
 ふたりががっつりタッグを組んでくれたおかげで、僕が思っていたものを遥かに超えるクオリティのアクションを撮ることができました。

亜紗美:謎の男役のアガタさんとの修行シーンで、私が失敗の連続で負の連鎖に陥りそうになった時、それをいち早く察知した田渕さんが、ブースから大声で『亜紗美ぃ〜!!!これは、お前の映画だろぉ〜!!!気合い入れろぉ〜!!!!!!』と檄を飛ばして下さったんです!!
 それがあったお陰で、厳しいシーンも素晴らしいものにすることができたんです!!!

——現場でその様子拝見したかったです!!!コンペの結果も楽しみですね。

光武:楽しみなのか不安なのかちょっと。

亜紗美:争いごとが苦手なんです(笑)競争が苦手で。

——上映の反応はいかがでしたか?

亜紗美:暖かいお客さんばかりで。有難かったです。

光武:最初は審査員上映だったので僕らももちろん緊張して。2回目はMCも学生ボランティアの方だったし、お客さんも本当に映画を見たいと思って来てくださって。ストーブパーティの裏だったのでお客さん居ないんじゃないかなと不安だったんですけど、多く来ていただいて。

亜紗美:結構盛況でしたね。有難い限りです。

——公開のご予定は?

光武:劇場公開は夏を予定しています。

——是非大スクリーンで亜紗美さんの死闘を拝見したいですね!

執筆者

デューイ松田

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■ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014・公式サイト