本作品は、1950〜70年代に“世界で最も稼ぐエンターテイナー”、“世界が恋したピアニスト”と言われたリベラーチェという実在の人物の晩年を描き、当時決して明かされることのなかった彼の私生活と、生前に必死に隠そうとした同性愛者であるという事実に基づいて製作されました。そして、後に彼の愛人となり運転手を務めることとなる1977年の    スコット・ソーソンとの出会いから、1987年のリベラーチェの死の床での告白までの、お互いが認め合い、懸命に必要と していたほろ苦い関係に苦悩する姿を、名匠ソダーバーグ監督が見事に描き出しています。

$red オファーについて $
スティーヴンが企画について僕に持ちかけてきたのか、話をしてくれたのは2007年のことだった。だから、この映画に出演することになるのは分かっていた。だって彼とは7本の映画で一緒に仕事をしてきてるからね。この映画が7本目なんだ。基本的に僕は機会があればいつだって彼と仕事をするよ。
それから1年ほど経って脚本が送られてきた。それが僕が読んだ中でも最高の1本に数えられる脚本でね。リチャードはすばらしい仕事をしたと思った。その時点で僕はスコットの本を2〜3度読んでいたんだ。だからリベラーチェとスコットのすごく面白い関係をリチャードが見事に描き出してることに感心したんだ。



リベラーチェとスコットについて
「恋するリベラーチェ」は2人の男性の恋愛がテーマになっている。1人はかつて地球上で一番のエンターテイナーであったリベラーチェ。
もう1人は若い男性で、彼はリベラーチェの生涯最愛の人となった。
僕が演じているスコットは里親の家を転々として育ってきた若者だ。
彼がたまたま愛してしまったのは、地球上で最もビッグなショウマンだった。その時代、そういった恋愛を公にできなかったことが、2人の関係に重くのしかかった。彼らの間には特殊な力関係もあったから、ゲイであることを隠して生きることがさらなるプレッシャーになったんだ。

マイケル・ダグラスについて
この映画に出たかったもう1つの理由は、マイケル・ダグラスがリベラーチェを演じ、その彼と共演する機会を逃すわけにはいかなかったから。脚本を読んでる段階で、こんな役はめったに回ってこないとわかっていた。
スコットを演じるのもうれしかったけど、映画ファンとしてはマイケルがリベラーチェを演じるのを最前列で見る機会を逃したくなかったんだ。

スコットについて
スコットにとってはものすごい衝撃だった。いきなりヴェルサイユ宮殿みたいな所に足を踏み入れてしまったんだからね。彼はそんなものに触れたことのない若者だった。リベラーチェに出会ったことも彼にとっては大きかった。彼は賢く、自分の話に耳を傾けてくれる人で、自分も彼の話し相手になってあげることができた。結局2人は真剣に愛し合うようになった。彼らは何年か本当にいい関係を保っていたと思う。やがてその関係が悪化し、手が付けられないほどになってしまうまではね。

ステージ裏でのリベラーチェについて
彼の表向きの生活は、私生活とはまったく違っていた。それでも彼はゲイであることがバレるのではないかと常に怯えていた。
聞いた話によると、スコットとの関係が明るみに出たその夜、リベラーチェはステージ裏で怯えきっていたそうだ。彼はやじやブーイングを受けるんではないかと恐れていた。ファンは自分を許してくれず出ていけと言うに違いないと思っていたんだ。そして彼がステージに上がると観客は拍手喝采で迎えてくれた。その時彼は気づいたんだ。「大丈夫なんだ、受け入れてもらえるんだ」と。彼のように怯えて暮らすのがどんなにつらいことか僕には想像もつかない。

スティーヴン・ソダーバーグ監督について
これまで仕事をしてきた監督でスティーヴンのような人はいない。スピルバーグ監督は似たタイプかな。必要なショットしか撮らないし、はっきりした答えを返してくれるから僕らも質問がしやすい。ワンテイクしか撮らないことも多いね。彼のような撮影方法だとどう編集されるかがわかるんだ。そうでなければ僕はこの映画でうまく演じることができなかったかもしれない。デリケートなテーマを扱うタイプの作品なので、自分たちでテーマをしっかりと理解し、正しい方向性で観客に伝えたいと思っていた。

製作のジェリー・ワイントローブについて
ジェリーはハリウッドで最高のショウマンだ。だから彼はこの映画のプロデューサーにぴったりだった。ジェリーはリベラーチェとは長い付き合いで、何度もディナーを一緒にしたことがある。その頃ジェリーはラスベガスで仕事をしていて、リベラーチェの演奏シーンで使われたのと同じヒルトンの会場で、エルヴィスのショーを開いたこともあるんだ。撮影で当時のままに再現された会場を見て彼は「信じられない。1977年当時の会場とまるっきり同じだ」と言っていた。彼は当時の華やかさや雰囲気を知り尽くしていた。まさにその世界に身を置いていた人だからね。

衣装について
この映画で僕は初めて衣装合わせというものを楽しんだよ。それまでいつも着るだけで終わりという感じだったからね。でも今回は、どうかな、8〜10回くらい衣装合わせをしたんじゃないかな。僕たち、結構ハマっちゃってね。本当に楽しかったんだ。衣装は僕がそれまで着たことのある服とはかけ離れたものだった。その衣装を身に着けただけで違う自分になってしまうんだ。突然、立ち方や歩き方や身のこなしまで変わったのが自分でもわかった。あれには本当にハマったね。

本作品について
2人の関係はすごく複雑なんだ。でも愛にあふれていて、激しさもあった。そして滑稽でもあった。滑稽としかいいようのないこともあったんだ。でも、確かに恋愛というのは滑稽な面があるものだと思った。どんなカップルでもカメラで撮って見てみると、少し滑稽だったり、激しかったり、楽しそうだったり、そして悲劇的だったりするんじゃないかな。
夫婦関係を描いた話でよくある「身につまされて見るのがつらい」とみんなが思う瞬間が、この映画の中にはあるんだ。男同士のカップルを描いた話でそんなふうに感じさせる作品を僕は見たことがない。だからこそ、この作品に参加できたことを心から誇りに思ってる。

スコットの愛は本物だった。ただ、そう単純なものではなかったと思う。彼は里親に育てられ、本当の家族を求めていた。それを与えてくれたのがリーだった。彼らは心の底から愛し合っていたと思う。苦い別れとなったが、すばらしい瞬間をたくさん共にし、多くの喜びと悲しみを分かち合い、長きに渡る関係を築く中で誰しもが経験するような様々なことを共有した。スコットの気持ちに裏があったとは思わない。結局のところ、純粋にリーを想っていたし、だからこそ傷ついたんだ。
彼らの関係には馬鹿げた面もあった。誰の人生にもある、一種の不条理だ。ただそれが自分の人生だから、自身では不条理だとは感じない。2人の関係は滑稽だが、笑い話にするのではなく、すごく真剣に演じた。この撮影には、多くの映画に携わってきていい脚本に出会えた時に感じる面白さがあった。リチャード(・ラグラヴェネーズ)は2人の関係を複雑、かつとても興味深く、生き生きと上手に描いているように思った。彼の脚本には真実味がある。ラブストーリーであり、長期に渡る本物の関係を取り上げた映画であると感じた。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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