「ひまわりと子犬の 7日間」平松恵美子監督インタビュー
きっと守ってみせる—
信じる想いが、愛と希望をつなぐ奇跡の物語
◆『ハチ公物語』、『クイール』、『子ぎつねヘレン』、『犬と私の 10の約束』に次ぐ心温まる動物映画
保健所に収容された母犬が、7 日間の「命の期限日」を前に、子犬を必死に守ろうとする姿に心打たれる感動ストーリー!
◆『マリと子犬の物語』の柴犬がみせる名演技
母犬ひまわり役には、大ヒット作『マリと子犬の物語』の子犬でマリをつとめた名犬「イチ」が抜擢。ドッグトレーナー・宮忠臣さんも感服した喜怒哀楽を表現する難しい演技は、まさにオスカー受賞レベル!
◆山田洋次監督の愛弟子のデビュー作
『武士の一分』『おとうと』『東京家族』で共同脚本もつとめる山田組の女性助監督・平松恵美子の監督デビュー作。松竹映画に脈々と受け継がれてきた、<普遍的な家族の愛>を描いたヒューマンドラマ!
2013年8月7日(水) ブルーレイ&DVDリリースが決定し、平松恵美子監督にインタビュー。
$red Q1. この作品は宮崎県での実話が原案ですが、デビュー作にこのテーマを選ばれたのはなぜですか? $
もともと私が見つけてきた話ではなく、プロデューサーの方々が、原案である「奇跡の母子犬」の本を手にしたことからはじまったんです。シンプルだけれど、とても力強い命の物語に素直に感動しました。
実は、自分の中で、動物ものや犬ものは映画を撮るうえで禁じ手としていたんです。撮影では、どうしても動物にある種の負担をかけてしまうし、俳優さんにも動物の良いショットを撮るために余計な負担がかかる。だから、私は“可愛いだけの動物映画”なら、相互に負担をかけるという意味で嫌だなと思っていたんです。
ただ、今回の原案を読んだとき、自分の禁じ手を全部排除してでも、やるだけの物語性とテーマがあると思い、やることに決めました。
Q2. 脚本を書かれる際に、特別に意識したことはありますか。
原案がとてもシンプルなんです。
『保健所に母犬と生まれたばかりの子犬が収容される。母犬は子犬を守るため人間を威嚇し続ける。凶暴性のある犬は貰い手が見つからないため、救うことができない。しかし、母犬の子犬を守ろうとする姿に心を打たれたある保健所職員が、なんとか彼らを救おうと一生懸命世話をし、最後に母犬は人間に対して心を開き、救うことが出来た』それだけの話。
職員さんの方に物語はなく、檻の中で起こったことだけ。だから、職員さんの物語を考えなければならない。そのときに、まず母犬の母性の強さに注目しました。松竹映画も、山田洋次監督もそうですが、「家族」を描くことをひとつのテーマにしてきた。だから、母犬と子犬の“犬の家族”と、“職員さんの家族”をリンクさせることで、両方の家族が救いあい、投げかけあい、最後に大きなもっと違う次元のひとつの家族になっていく、そういうことを狙って書きました。つまり、犬の家族を救おうとすることで、逆に、破たんしそうになっていた人間の家族がもう一度強烈な絆を感じあうんです。そして、最終的に、犬と人間がひとつの大きな家族になっていくんです。
Q3. 母犬ひまわりを演じたイチの演技が素晴らしかったのです、撮影はどうでしたか?
イチは本当にセンスの良い犬でした。ただ、頭が良いだけに苦労したことも。
例えば、堺雅人さんと一緒のシーンの場合、最初に堺さんはぬいぐるみに対してお芝居するんです。その後に、イチの理想の動きをドッグトレーナーの宮さん(宮忠臣)に伝え、イチに対してどう指示をするかを考える。その後リハーサルを行い、いよいよ本番という段になって初めて、イチが登場するんです。だから、基本はイチの演技は本番一回勝負。
これで駄目だと、もうダメ。動きを覚えてしまい、2回目以降は段取りになっちゃうんです。
一回目は、イチも「あっ、そうきたか、こうきたか、おおっこうきたかっ」ていうストレートな反応なんです。でも、二回目になると、「ああ、そうくるんでしょ、あ、そうきたね、やっぱりこうきたねっ」ていう反応で全然表情も違う。本当に賢いんです。
だから、最初にだめなら、もうガラッとやり方を変えるしかない。コンテも変えることになる。何カ所かすごく苦労したところはありましたね。でも、基本的に、一発OKが多かったです。
Q4. 特に苦労したシーンはありますか?
ひまわりが主人公の神崎に噛みつくシーン。警察犬とかとは違って、普段は人を噛まないように訓練されてますから。だから、噛んだように見えるよう、イチの目線や動きを決めるのにずいぶん苦労しました。
動物は飼ってましたが、撮影は初めて。だから、試行錯誤しながらの撮影でしたね。
冒頭にひまわりが、おじいさんとの野山を歩くシーンがあるんですが、そういった割と楽なシーンから撮影を重ねていきました。ひまわり(イチ)も、田んぼや野山を走ってるシーンは楽しそうで。そうやって、徐々に、檻の中のシーンなど難しいシーンを撮っていくようにしました。
Q5. 舞台は、宮崎。主人公の神崎彰司の宮崎弁が印象的ですが、堺雅人さんは宮崎出身ですね。
実は、脚本の最初の段階から、神崎は堺さんが良いなぁっと思っていて。でも、出身地のことは知らなかった。だから、宮崎と聞いたときは驚きました。堺さんは、映画『ゴールデンスランバー』で、とても弱い人間が、突然おいこまれた状況下におかれ、何とか強くなろうとする主人公を演じているのですが、その過程がとても繊細でいいなと思ったんです。
この映画の神崎も、心優しいけれど、自分の仕事を胸張って子供に言えない弱い部分もある。そんな男が、ひまわりと子犬を守るために、少し強くなっていく。大きく変化するわけじゃないけれど、少しずつ変化していくところを繊細に演じられるのは、堺さんじゃなきゃって思ったんです。
あと、愛情とか優しさがテーマだから、堺さんの人柄とか、本来彼が持ってる優しい雰囲気みたいなものが、とても生きてくるんではないかなと。
Q6. オードリーの若林さんは、この作品が映画デビュー作ですよね。いかがでしたか。
若林君はね、プロデューサーから若林君っていうのがいるんだけどって言われて会いに行ったんです。
実際話をしたら、すごく良くって。お笑いの方には、売り込む気満々みたいな感じの人って割と多いのですが、全然そういうことがなくって。しかも、佐々木という役に対して「僕とすごく重なる部分があって、大体出来るんじゃないかと思います。でも、ひとつだけ自信がない所があるんです」って言われて。それは最後の方のあるセリフなんですが、「それは、ちょっと今の僕には言える自信がないんだけど」って。すごくきちんと考えて冷静に、ここは出来るけど、ここは自信ないみたいなことまで言ってくれる、それって凄いことだと思うんですよね。頭が良い人、それから真摯な人間だなって。引き受けていただけた時には、彼でよかったと心から思いました。
Q7. 撮影時の、若林さん印象やエピソードはありますか?
結構素だったんじゃないかな。
俳優さんて大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは役柄によってコロリと変えてくる、カメレオンタイプ。堺さんはどっちかっていうと、こちら。もうひとつは、その人自身が持っているキャラクター自体を役柄にしてしまうタイプ、高倉健さんが典型だと思うんですけれどもね。若林君も高倉健さんタイプ。彼自身が生きてる。
Q8. そういうお話はご本人とされたりしたのでしょうか。
高倉健さんっていうのは、今初めて言いました。高倉健さんにちょっと失礼かなあ。(笑)
Q9. 本作品を監督するにあたって、山田洋次監督からアドバイスはありましたか。
クランクイン前に言われたのは、「君の書いた本は、犬のことがたくさん書いてあるけれども、犬は芝居をしないんだから、犬の方に限られた撮影時間の中で力をあんまりかけすぎるな。あくまでも芝居をするのは人間、人間の芝居を撮ることにきちんと集中力と体力を使いなさい」って。
Q10. 監督として今後取りあげたいテーマはありますか。
そうですね、やはり市井の人々を描きたい。平凡な人が、ここぞという時にがんばらなきゃいけない、というようなそんな話が私は好きなんです。
神崎彰司もそうですが、人は 30 年生きてきて、30 年間中、毎年 365 日頑張るなんて不可能じゃないですか。でもその 30年のうち、ほんの 3ヶ月くらいめちゃくちゃ頑張るって時期あると思うんですよね。それは会社の中でのことかもしれないし、家族の中でのことかもしれないし、あるいは好きな人が出来た時のことかもしれないし、どんな時かはわからないけれど、小さいけれどその人の一生の中ではある大きなイベントになるような、そんな、頑張る人の姿に興味があります。大会社の社長が、より儲けるために頑張るっていう話は、あんまり興味がないんですよね(笑)。
Q11. DVD、ブルーレイでご覧になる方にメッセージをお願いします。
世の中には、今いっぱい嫌なことや酷い事件、戦争、テロリズムとかがあって、「憎しみの連鎖」って言われたりしますよね。この映画をつくる前に、スタッフやキャストに伝えたことは、多少ファンタジーな部分はあるかもしれないけれども、「愛情の連鎖」を信じて作っていこうと。大切な人には、大切なことを伝えなきゃいけない。愛情とかそういうことを伝えるために労力を使おう、と。その中身がなんであるかは、見た人がそれぞれに受け止めて、考えてもらったら良いなと思います。
ぜひ、親しい仲間や家族皆さんで一緒にご覧になっていただきたい作品です。犬を飼ってる方は、犬と一緒に(笑)。そして、これから飼いたいと思っている方は、ペットショップ以外の選択肢もあるっことを知ってもらえたら、尚嬉しいです。
執筆者
Yasuhiro Togawa