悲惨な家庭環境のもとで虐げられて育った少女の希望への道のりを描いた『プレシャス』で全米の映画賞レースに新風を吹き込み、作品賞と監督賞を含むアカデミー賞6部門にノミネート(うち助演女優賞、脚色賞を受賞)。この一作でアメリカン・インディーズの新たな才能として脚光を浴びたリー・ダニエルズ監督が、ザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザックというそうそうたる豪華キャストを迎え、待望の新作を完成させた。

主人公ジャックをザック・エフロン演じ、そのジャックが恋するシャーロット役はゴールデン・グローブ賞助演女優賞候補になった、ニコール・キッドマン。彼女の演技にも驚嘆せずにいられない。ノーブルな美貌と抜群のスタイルで名高いハリウッドのスター女優が、死刑囚の恋人でもあるファムファタールを淫らなまでに挑発的な色香をまとって体現。まぎれもなくこの役どころは、華麗なるオスカー女優のキャリアにおいて最も“罪深き”ヒロインとして観る者の脳裏に焼きつくことだろう。

ニコール・キッドマンへのオフィシャルインタビュー!




Q:今回の映画でのシャーロットという役柄はあなたのイメージとはかけ離れていますが、ご自分で作り込んだ役ですか?

ニコール:いいえ 違うの。すべて監督のリーからの要望よ。『プレシャス』は素晴らしい映画だと思ったし、そのリー監督からのオファーだったから。自分でも “かけ離れた”役になるだろうと思っていたけれど、でも、役者なら誰でもそんな役を演じたいものよ。新境地を開拓できるというのは、エキサイティングなことよ。同じような役を演じ続ける役者もいるだろうけど、私は繰り返し同じような役を演じられないわ。役者生活も長いし、新しい道を切り開く必要がある。でも自分の性格とは全く違う役を演じるのはとても楽しいことよ。自分とは正反対の人物を演じることで見えるものがあるし、自分の中の新たな一面を見つけられるわ。それが成長するということだと思うの。実際どんな人だってあらゆる要素を持っているはずだわ。それを表現する機会があるかないかよ。リーがその機会をくれて 「君なら上手に演じられる」と言ってくれたのでね。リーも変わった人で荒々しかったけど、私は そこが気に入ったのよ。反体制的な作品に出演するのは役者にとって刺激的なことだしね。

Q:今回の役では外見も重要ですね。化粧が濃いので、洗顔するのに時間がかかるのでは?

ニコール:下手なメイクだからすぐに落とせるのよ。シャーロットは化粧が下手っていう設定なの。外見についていえばリーは体型も重視していたから「もっと食べろ」って言われたわ。彼はこう言ったの「もっと大きいお尻になれ」って。リーの要望に応えて動き方や言葉のアクセントも変えたわ。そして撮影期間中ずっと その状態でいたのよ。だから役から解放された時はうれしかった。もちろん、シャーロットは好きよ。魅力的な人物だと思うし演じるのも楽しかったわ。でも、演じるにはタフな役だから解放もされたかったのも本当よ。

Q:シャーロットは、性的にも魅力的な女性ですね

ニコール:ええ そうよ。今回の役作りのために、実際に服役中の男性を愛してる女性と会ったの。あれはいい経験になったけど、彼女たちの話を聞いた時は衝撃を受けたわ。精神的にきつく重い話だったから…だからリーに電話して。私には演じられないと言ったの。そしたら彼は「君ならできるよ」リーとは そうして信頼関係を築いていったの。

Q:それはとても大事なことですね。仕事をするなら、相手と信頼し合うことは大切です過去にもそういう現場はありましたか?

ニコール:何度かあったし、自分から そうなるように努力しています。どうなるかはリハーサルの段階で分かるの。これまでにも低予算の映画に出演してきたし、才能のある監督とも仕事をしてきたわ。だから変わった仕事のやり方には慣れているのよ。アレハンドロ・アメナーバルやガス・ヴァン・サントやラース・フォン・トリアーバズ・ラーマンというような監督と信頼し合えたわ。『私が愛したヘミングウェイ』のフィリップ・カウフマンともいい関係を築けた。彼は私の知的な面を引き出してくれたの。リーが私から引き出したのは、主に肉体面ね。

Q:共演者との間に生まれるハーモニーについてはどう思いますか? 特にザック・エフロンは新しい一面を見せてくれました。

ニコール:彼は すばらしかったわ。難しい役どころだったけど、ザックは自分を解き放って演じていたし、彼とはいい関係を築けた。彼はシャーロットと一度寝ただけで夢中になって子犬みたいについてくるの。シャーロットのいいところは、彼を傷つけながらも気にかけているところよ。だからこそ彼女は彼を拒絶するの。一方 彼は彼女を愛していると言う…。彼女は分かっているのよ、もし彼の愛を成就させたら、彼を破滅させてしまうとね。だから彼を拒絶するの。それが最も尊い愛の形だと思うわ。

Q:それから謎めいたマシューと常軌を逸したジョンの役。彼らとはどうでしたか?

ニコール:ジョンはワイルドよ。ジョンとは撮影が終わるまで話しをしなかったの。私たちの関係はジョンとニコールじゃなくて、ヒラリーとシャーロットだったの。それで撮影の最終日に彼が私のところに来て「やあ ジョンだよ」と。最初から話していたら刑務所のシーンなどはうまく演じられなかったかもしれない。あのシーンを撮影した時は、一日中彼のことだけを見つめていたの。知り合っていたらあのシーンは、できなかったわ。

Q:あのシーンは魅惑的ですが脚本に書かれていたのですか?

ニコール:いいえ、演じていてああなったのよ。脚本ではもっとライトなものだったけど、リハーサルの段階でああなったの。

Q:強烈で記憶に残るシーンです。いいシーンです、私はすごく気に入りました。カンヌ映画祭には、何度も出ていると思いますが、そのたびに印象が違いますか?

ニコール:この映画で初めては夫と行けたから、うれしいわ。夫は南フランスが初めてだから、天候にも恵まれてよかった。 “いい思い出になるわね”って何度も言い合ったの。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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