『クソすばらしいこの世界』朝倉加葉子監督インタビュー
ジャパニーズホラー界に、これまでほとんど姿を現すことの無かった、本格スラッシャームービーが登場した。しかも、残酷描写が続く地獄絵巻を作り上げたのは、本作が長編デビューとなる新鋭女性監督、朝倉加葉子である。アメリカの制作プロダクションが参加し、全編ロサンゼルスロケを敢行した本作。日韓米のアイデンティティが入り乱れる、鮮血の大惨事を描いた本作は、女性監督によって作られた映画史上、最も残酷な作品といっても過言ではないかもしれない。
ロサンゼルスの片田舎を舞台に、日韓米のアイデンティティが入り乱れる、鮮血の大惨事が幕を開ける!!
——キャスティングの経緯を教えて下さい。
「キム・コッビさんに出てもらうことになってのは2011年のゆうばり映画祭で山口さんが彼女と知り合ったのがきっかけです。映画祭から帰って来た山口さんから出演交渉してみないかと言われ、私も『息もできない』のコッビちゃんの演技にやられていたので、大賛成しました」
——全編英語&日本語全編英語にしようと思われたきったけは何かありますでしょうか?
「もともとは日本で撮影する予定だったんですが、たまたまLAで映画撮影をしてみないかという誘いがあり、企画自体がアメリカ産スラッシャーホラーのテイストの映画を作りたいと思って始めた内容だったのでプロデューサーの山口さんが英断してくれました。それから登場人物の半分をアメリカ人にする設定に作り替えたんですが、今となっては日本で撮影してたらどういうものになったかはもう想像つかないです。最終的にはLA市内は少しで、大部分はLAから北に車で一時間程行った山の町で撮影してます」
——ラストシーンの雪は本物のように見えるのですが、雪の撮影現場どのようでしたか?
「雪はCGでも何でもなく、正真正銘の本物の雪です。体感としては吹雪でしたけど…。ラストシーンは実際に撮影最終日に撮りました。天気予報が雨だったので外での撮影プランを大幅に減らそうと思って現場に行ったんですが、雨でなく雷雨になって、更に雪になりまして。温暖な西海岸っていう触れ込みで、しかも4月だったんですけどね…。雨よけで屋根の下で照明をたいて撮影するつもりだったんですが、雷の可能性がある時は州法でゼネが回せないらしくて、そのプランも限界があって。どうしたものかと思いましたが、このすごい景色はそのまま撮るしかないなと、この景色はこの話のラストとして納得させられるんじゃないかと思いまして。で、場所と設定を少し変えてああいうラストになりました。女優さんたちは寒い中薄着の衣裳なので凄まじく震えさせちゃっていたんですが、本番だとぴたりと震えを止めて、なおかつ雪と泥と特殊効果の中、どのショットも一発勝負で凄まじいお芝居を決めてくれて、心底感動しました。その日ちょうど現場を見に日本から編集の洲崎さんが来てたんですけど、日没も迫りながら私たちが雪の中鬼気迫りつつ淡々と準備して撮影していく一連を見ていて『なんだかわからないけど涙が出た』と言ってらして、ああ、でもその感じわかるかもしれません、と思ったのを覚えています」
——劇中に歌われる歌が印象的なのですが、あの歌はなにかもとになる歌などがあるのでしょうか?
「日本語タイトルからすでに丸わかりなんですが、ずばり「What a wonderful world」の替え歌を歌っているつもりでシナリオを書きまして。でもまあそのものは無理なので、歌詞と曲のイメージを伝えて探してもらって、最終的にアメリカ人のラインプロデューサーの友人のバンドの曲を使わせてもらいました。いい曲に巡り会えてほんとよかったです」
執筆者
Yasuhiro Togawa