『オールド・ボーイ』で世界中を震撼させた韓国の鬼才、
パク・チャヌク監督のハリウッドデビュー作!
豪華キャストが集結、ミステリアスで美しすぎる衝撃のスリラーがここに誕生—

『オールド・ボーイ』(03)でカンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリを受賞、『渇き』(09)では同映画祭審査員賞を受賞したパク・チャヌク監督。あらゆるタブーとバイオレンスを描きながら、全世界で高い評価を受けている韓国映画界の奇才が、ハリウッドからのオファーを受けて完成させた最新作『イノセント・ガーデン』。

パク・チャヌク監督に話を聞いてみた。

$red Q どうして『イノセント・ガーデン』を初のアメリカ映画に選んだんですか? $

パク・チャヌク監督(以下、監督) 実は、アメリカ映画を作ろうと決めていたわけではなかった。どんな言語を使うかに関係なく、すばらしい脚本が手に入るのを待っていたところだった。もちろん、自分でも脚本を執筆しているが、時には、他の人が書いたものに取り組んでみたいと思う。本作は、あの当時受け取った脚本の中で一番の可能性を感じたものだった。これだけの力を持った脚本だったら、英語とかフランス語とかどんな言語でも、世界のどこでも映画にできると思っていた。

$red Q ウェントワース・ミラーが書いた脚本は、まさにあなたがこれまで描き続けてきた複雑な愛情についての話で、まるであなたに撮ってもらえるのを待っていたのかとさえ思えます。初めて脚本を読んだ時の感想を教えてください。 $

監督 そういう風に多くの人から言ってもらっているが、私が思うに、この作品は余白の多いシナリオだった。特にアメリカの脚本は大体どの監督が作っても大体同じような作品になるのではないのではないか、というものが多い。それがいいとか悪いということではなくて、彼が書いたものは余白の多い脚本だった。監督が自分の想像力を発揮して色々と満たしていける要素がとても強かった。だから、どういう想像力で満たしていくのかというのは私の演出によって変わっていくし、他の監督が撮ったとしたら別のものに生まれ変わっていたと思う。言い換えると、こういった脚本こそ本当にやりたいと思えるような、監督の息のかかったものになりそうなものだという印象を持った。
 
 




Q 本作はどういうタイプのストーリーですか?

監督 多少ひねりの加わったラブ・ストーリーだと言いたい。本作ではセクシュアリティが重要な役割を担う。チャーリー叔父の兄への愛情、インディアに対する愛、その愛が変化する対象。インディアが抱く父、母、叔父チャーリーへの愛、エヴィの他の3人に対する愛情において。要するに、本作に登場する3人の主要キャラクターと4人目のキャラクターである父リチャードは互いに、愛と憎悪の気持ちを抱き、とても複雑でゆがんだ関係を築く。その一部は近親相姦のようなものであり、単なる見せかけの部分もあるし、愛が憎しみに変わるところもある。ひどく複雑に入り組んでいるが、基本的にはラブ・ストーリーと言えるものだ。

Q 本作にとってキャスティングはどれほど重要でしたか? ミア・ワシコウスカにニコール・キッドマン、マシュー・グードの3人のキャストについて教えていただけますか?

監督 本作は3人で構成され、この3人がほとんどすべてのシーンの原動力となっている。屋敷を除けば、他に見るものはあまりない。大がかりなカーチェースのようなものはないし、本作では最初から最後まで、この3人の役者の顔を見るシーンばかりだ。だからこそ・・・もちろん、キャスティングが重要でないような映画など存在しないが、本作ではキャスティングは特に重要だった。そのため、我々はすばらしい役者を慎重に探した。とても運が良かったのか、脚本が良かったせいか、最高の役者を起用できた。そうならずに、キャスティングがぴったりこなかったら、私はおそらく、本作をあきらめていただろう。観客は何も見るものがなくなってしまうからね。

二コールは演技をする機械のようなものだ。もちろん、彼女は私が見ていない所で準備や練習をしているのだろうが、詳しい指示を出さなくても、あるいは、ほんのいくつかキーワードを出しただけで、彼女はわけなく理解してしまう。少なくとも私が見ている限りではそうだった。それだけではなく、すべてワンテイクのうちに、彼女はいくつもの違った雰囲気や人格を続けて演じ分けることができる。彼女があれほどさまざまな演技をたやすく、ごく自然にやってのけたので本当に驚いた。

ミアの演技はとても統制されて抑えたものだ。普通、彼女ぐらいの年齢の役者は強い表現を使いすぎたり、感傷主義にとらわれたり、過剰に演技をしてしまうことが多いものだ。なぜなら、若い人たち熱心に欲しているからだ。注目されて演技が上手いと賞賛されたいと思っているせいだ。でも、ミアは驚くほど抑えた演技をする。必要でない時にはあまり見せすぎず、代わりに感情を隠すことで、観客の好奇心や注意をとらえるやり方を知っていると思う。

マシューは本作でとても暴力的で邪悪なキャラクターを演じているが、彼が生まれつき持っている魅力や好感を抱かせる天真爛漫なところ、子供のような、いたずら好きな子供のようなところは、彼のキャラクターにまさにぴったりだった。一見すると、マシューはいたずら好きな少年とか、冗談好きな人に見えるが、いったん演技を始めると、実は賢い計算をし、キャラクターや作品を理性的に解釈していることが分かるんだ。

Q 韓国と比べてアメリカで監督する上での本質的な違いは何ですか?

監督 とても実際的な例をあげたほうがいいだろうね。プリ・プロダクションと実際の製作に関して、韓国ではもっと時間をかける。一方で、アメリカではポスト・プロにとても長い時間をかける。韓国映画を作る時には、セットではとてもリラックスした状況で進めていく。役者やスタッフと話し合いをしながら各ショット、各テイクを撮影し、一緒に編集までやることもある。私はそういうゆっくりしたやり方を楽しんでいた。それに比べて、アメリカでは何もかもとてもあわただしく、急いでいて半狂乱に近いから、慣れるまでは苦労した。最後には、そういうふうにすばやく進めるのも時にはいいかもしれないと思うようになった。ペースが徐々にクライマックスに達し、だらだらとすることなく、勢いに乗って進めることができるからね。2つのやり方には賛否両方あると思う。

商業映画を作る過程というのは、時期や場所にかかわらず、基本的に妥協の連続だ。すべてが妥協によって決定されるプロセスだ。一定の条件のなかに自分の望むものをマッチさせなければならない点や、基準のレベルを下げることなく、質を変えて、もっとよいものに変換させることで調整ができるかどうかという点に問題がある。今回の経験を通してそういう問題に対処できるように努力したし、何も失ってはいないと確信している。

韓国での大勢の人が集まってテイクを見ながら、一緒に編集をしつつ、次をどう撮影するか話し合いながら進める方法は、必ずしもいいとは言えない。このやり方だと、時には他の人の意見にそそのかされて、間違った判断をしてしまうこともある。このやり方ではペースが落ちるし、体力を消耗するから、結局、役者は演技のエネルギーを使い果たすことになる。これらは反対意見の一部だ。従って、どんな環境でも、その環境や状況のメリットを見つけて、それに焦点を絞ることが大切だ。

Q 日本では「美しいけど恐い」と、メディア関係者の中では、女性の方からの評価が際立って高くなっています。この映画をどのように観てほしいですか?

監督 『イノセント・ガーデン』は、女性に観てほしいと思って作った映画でもある。そして、私の娘がインディアと同じ18歳で、娘のことを思いながら作った映画でもある。実際、私の作品の中で一番好きだと言ってくれている。女性に沢山観てもらって、自分の成長過程を振り返ってもらえたら嬉しい。大人になるまでの陣痛は誰にもあると思うが、そういった苦しみがあったな、ということを思い出してもらえたらと思っている。人は、つい邪悪なものに惹かれる時期があると思う。この映画は、そのプロセスをまさに描いているし、キャラクターもそういい部分を随所に見せてくれる映画なので、そういった点も感じてもらえたらいいだろう。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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