「ほしのこえ」で鮮烈なデビューを飾りアニメーション業界に衝撃を与え、前作「星を追う子ども」(2011)は、日本国内だけでなく、韓国で異例の100館以上での公開を果たし、次世代を担うアニメーション監督として国内外で高い評価を受けている新海誠の待望の新作「言の葉の庭」が完成した。
その作風、アイディアなどを聞いてみた。

$red −−−アイディアはいつ頃から考えていましたか? $
ちょうど1年前に企画書を書き始めました。以前から心のなかで温めてきた要素で、1つは万葉集。もう1つはエンディング・テーマに使った大江千里さんの「Rain」です。
万葉集は、自分が大学時代に国文学を学んでいたのもあり、いいなと思っていたもので、物語のきっかけに使えないかなと思っていました。
「Rain」も大学時代に大江千里さんのことを好きな友人に教えられて、もともと好きな曲なんです。今回、雨の話を作ろうと思った時に思い出しました。







−−−登場人物の靴職人を目指す少年と年上の女性は、どこから生まれたキャラクターですか?
最初に、年齢差のある男女が雨の日に偶然に出会うという基本ストーリーを思いつきました。少年と年上の女性にしたのは、逆のパターンに比べ美しく純粋な関係を描けるんじゃないかと。そこから、ふたりをどういうキャラクターにしていくかを考え、まずは孝雄というキャラクターを何かを目指している人物にしようと思いました。どんな職業を目指しているのがいいのか、色んな職種のリストをあげていく中で、ビジュアル的になポイントを持てるものとして浮かんだのが“靴”だったんです。

−−−今回のような尺の長さになった理由は?
当時3つの企画を考えていて、1つは、現代を舞台にした「言の葉の庭」、もう1つはSFをテーマにした作品。そして、もう1つは子供向けの作品でした。
最初「言の葉の庭」は、タカオ視点でしか描かれていなかったため、もう少し尺が短かったんですね。ユキノはあくまでタカオから見たミステリアスな女性。でも多くのスタッフから「このままでは、ユキノは嫌な女に見えてしまう」という意見をいただきました。そのため、なぜ彼女がああいう行動をとったのかという理由を、観ている人たちにもわかりやすく伝わるような描写を積み重ねていき、今回の話に必要で最適な尺として46分になりました。

−−−御見終わった後の余韻がいい長さでしたね。
映画館へ足を運ぶには60〜90分くらいあったほうが嬉しいかもしれませんが、46分でも、映画1本見た充実感やボリューム感のある作品に仕上げたつもりです。
最初、タブレットやスマートフォンなど個人のデバイスで、個人の生活の隙間の中でも気持ちよく見てもらえる作品として考えていところもあり、中編規模だったのですが、配給や劇場側からもこの作品に賛同して頂き、冒険でもありますがこの尺でも劇場公開もしてみようということになりました。

−−−全編通してのキーポイントである「雨」は、アニメーション的には大変ではないかと思いますが、「雨」もキャラクターのひとつですよね?
雨宿りの話なのでずっと雨が降っているわけですが、単調な雨ばかり降っていてもビジュアル的にも飽きてしまうので、二人の関係性を象徴するようなビジュアルとしての雨を描いて行きたいと思いました。雨は、1つのキャラクターというぐらい重要なものとして、雨の降り方、雨の種類みたいなものは描き分けていました。強い雨、弱い雨、土砂降り、天気雨、それぞれの雨が土に落ちた時、水たまりに落ちた時、アスファルトに落ち時の表現などは、雨がテーマの1つだからこそ、力を入れた部分です。

−−−風景の細部の演出などは、ロケハンで決めたものですか?
実際にロケハンして、写真を撮ったりはしていますが、あくまで参考として使い、アニメーションとしていかに気持ちのいいシーンに仕上げるか、1カット、1カットのコンセプトを決めて作りこんでいます。

−−−アイディアの種は普段どんな時に生まれますか?
作品を見ている時、小説を読んでいる時、生活の中で、ぽっと湧いて来たり心に何か引っかかる時は誰にでもあると思います。そんな時はスマートフォンのメモに書き留めておいたりしています。あとは、移動中の車の中や電車の中でも、車窓の風景からなど、なんでもない空白の時間に、ふと思い浮かぶことも多いですね。

−−−今回の色彩は、緑がテーマカラーのように見えますが…色彩については?
作品ごとにキーカラーがあり、「秒速5センチメートル」は桜のピンクで、「雲のむこう、約束の場所」は青空で、「星を追う子ども」は緑やオレンジ色でした。(←ここも文章が全く繋がってなく、日本語がぐちゃぐちゃです。主語と述語も合ってません)今回は、梅雨の新緑の季節の物語ですから、緑をキーカラーとしています。雨というとグレーっぽい色を想像しがちかもしれませんが、一雨ごとに新緑の緑は色濃く鮮やかになり、また雨の反射でヘッドライトやネオンもいつもより輝きます。そうした雨だからこその鮮やかさを魅せてみようと思いました。

−−−次の構想は?
『言の葉の庭』の小説をダ・ヴィンチで連載する予定ですし、まだ先のことはあまり考えられないのですが、今は、本作の観客の反応が聞きたいですね。
今後、どんなものを作りたいかというのは、いくつか方向はありますが、どれにするのかは、今作での反応を受け止めながら考えていきたいなと思います。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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