今年度から大阪アジアン映画祭の【インディ・フォーラム部門】となったCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)。アジア諸国の監督たちを招いて行うシンポジウム<アジアン・ミーティング>とリンクしたことで、どういった変化を目指しているのか。本格始動したワークショップの目的とは。そして、今年度の助成監督3名の実感とは?

3月10日から行われる【インディ・フォーラム部門】上映を目前に控え、CO2事務局長と上映ディレクター、助成監督たちに緊急インタビューを行った。



第4回:助成監督インタビュー
第8回CO2助成作品『蒼白者』常本琢招監督

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■何か撮りたいという潜在的意欲があった
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——常本監督はTVのディレクターのお仕事をされてますが、CO2に応募したきっかけを教えてください。

常本:映画侠区(しゃしんきょうく)主催の戸田光啓氏との出会いで大阪の上映会に誘ってもらい、その後シネドライブ2009年に『蜘蛛の国の女王』で参加したことでCO2の存在を知りました。一方でゆうばり国際ファンタスティック映画祭でキム・コッビさんとの出会いがあり、何か撮りたいという潜在的意欲はあったんですね。東日本大震災で3月から4、5月くらいはTVの仕事に忙殺されていましたが、なんとか6月末の企画募集に間に合わせることが出来ました。キム・コッビさんを念頭に置いた企画だったんですが、実際にオファーしたのは助成監督に決まってからです。

——提出した企画でどの点が評価されたと思いますか。

常本:CO2の若い監督さんの作品が内省的なものが多いのは聞いていました。僕の場合は最初からエンターテインメントを考えていて、昔から観てきた犯罪映画、女性映画_強い女性が自我を貫く話に犯罪をからめて描きたかったんです。それが毛色が違って見えたのかもしれません。

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■“東宝ニューアクション”の世界観と“強い女性”をモチーフに
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——常本監督の創作のモチベーションはどんなところにありますか。身の回りから発想するのではなく虚構の物語を構築することに惹かれるんでしょうか。

常本:いろんなケースがありますね。原作物をやりたいこともあれば、オリジナルでやりたいときもあります。『蜘蛛の国の女王』では今までやってきたVシネの総括。『アナボウ』は8ミリのハチャメチャ感を出してみました。今回は、東宝の犯罪物で東宝ニューアクション。中学生の頃住んでいた仙台が特殊な土地で、東宝のオールナイトをずっとやっていたんですね。当時通い詰めて観ていた1970年代後半の東宝ニューアクションの世界観と、強い女性の話がぶつかって今回の企画になりました。一概にこれってことはないし、次回撮るとしたらコメディとか青春映画になるかもしれません。

——一貫して強い女性に惹かれますか?

常本:女性は分からないですからね。どういう存在かは永遠の命題です!

——撮影に入って苦労したのはどういったことでしたか。

常本:苦労が残らないタイプですからね(笑)。今回は自分で資金を集め予算をかけて撮りましたから。東京大阪で正月を挟んで撮ったこともあるし、アクシデントで思わぬ費用がかかったり。予定より膨らんでいくのが大変でしたね。内容的にも予算がかかる話なので。
あとはスタッフみんなでいいものを撮ろうと、時間を掛けて取り組んでいったので、結局寝る時間を削ることになりましたね。体力的には歳なので大変だったかな。でも映画作りにはあることなので。

——撮影期間はどれくらいでしたか。

常本:トータルで15日ですね。お正月に2日休みをはさんで撮りました。

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■天才・キム・コッビさん VS 常本監督の勝敗は?
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——役者さんとのやり取りはいかがでしたか。

常本:キム・コッビさんは天才なので、僕の演出が追いつかなかったと思います。僕の演出でどこまでその良さを引き出してるかは自分でもわかりません。観た人の判断に委ねるしかない。成功していることを祈るのみですね。
今回中川安奈さんに出ていただいて、やはり素晴らしい女優さんですね。最近あまり映画に出演されてなかったんですね。佐藤央さんの『シャーリーの好色人生と転落人生』はありましたが…。久しぶりに中川さんをスクリーンにスクリーンに召喚できたのは光栄だなと思います。

——CO2に参加したことを振り返っていかがでしたか。

常本:皆さんもそうだと思うんですが、時間があれば…というのはありますね。冬の映画しか撮れないですからね。ただそれはCO2の構造的なものだから仕方ないことだと思います。
この企画って、今の商業映画では通らなかったと思うんです。Vシネならわかんないですが。それを成立させていただいて感謝しています。

——CO2のシステムに関してはいかがですか。

常本:制作に入る前は東京にいたので、意志の疎通がなかなか図れなかったことくらいでしょうか。

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■自主映画のイメージを超えた作品をねらいました
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——『蒼白者』の今後の展開はどうお考えですか。

常本:ここまで構えを大きくしたので、一般的な配給を見据えた上で展開していきたいと思っています。キム・コッビさんが主演なので、韓国も含めて海外の様々な国で観てもらえればと思います。

——今後も自主映画は撮り続けますか。

常本:自主映画でスポンサーになってくれる友達に出してもらったので、当分はしんどいかな。『アナボウ』のような小さい映画なら撮れますが、このくらいの規模は当分無理だと思います。手持ちのカードは切っちゃったので。

——現在作られている映画が予算の大きなものと極端な低予算に二極化している現状はどう思われますか。

常本:どっちかになってしまうとつまらないので、今回はそのどちらでもない線を狙いました。自主映画で想起されるある種の構えってあると思うんですが、そういうものでない話にしたいというのがありました。韓国から女優さんを招いたのもそうですし、話自体も昔のプログラムピクチャーではないが今時の映画でもない感じにしました。なおかつメジャーもどきの自主映画でもない線を狙いました。成功しているかは分かりませんが。

——上映時の反応が楽しみですね。仕上げに入られてご自分としての手ごたえは?

常本:思ったように出来ていて、狙った線は達成しています。観客の皆さんが喜んでくれるといいんですが。キム・コッビさんが素晴らしいと言う点では、皆さん一致すると思うんですけどね。

執筆者

デューイ松田

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