7/14〜7/25の日程で行われたアジア最大級のジャンル映画の祭典・プチョン国際ファンタスティック映画祭。WORLD FANTASTIC CINEMA部門の招待作品として上映された作品の1本が石原貴洋監督の『バイオレンスPM』だ。

12才でギャンブルを卒業、
15才で殺人を卒業、
20才で極道を卒業。
そして、25才で人生を卒業——するつもりだった。

殺人を犯した悪ガキ4人組。やがて成長したメンバーの一人・マサシは極道の道へ進むが、ある事件で居場所を失い、自警団として更なるバイオレンスの世界に嵌っていく。

この作品は第6回のCO2(シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビション)助成作品として制作され、奨励賞・技術賞・俳優賞を受賞。2011年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭では北海道知事賞している。

大阪府大東市を拠点に、大東映画プロダクションの代表として、1年に1本のペースで子供を題材とした映画製作を続けてきた石原監督にお話を伺った。
(写真左から:石原貴洋監督とチャン・チョルス監督)







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■■野中耀博さんの太鼓には殺気が出ていた■■
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——『バイオレンスPM』をプチョンファンタで上映しましたが、反応はいかがでしたか。

石原:今まで上映した中でプチョンが一番熱狂的でしたね。海外の映画祭で上映したのはドイツのハンブルグ日本映画祭についで2度目です。ハンブルグでは観客は少なかったんですが、観た人全員がワッと寄って来て。若い人からディレクターまで色々な世代が来ましたね。質問、感想をズバズバ言ってくれて。「ミスターバイオレンス」ってあだながついたんですよ。これはみんなに自慢してます。いいだろって(笑)。

——それは名誉ですね(笑)!どんな質問が出たましたか。

石原:ハンブルグもプチョンも「天王寺自警団は本当にあるのか?」「本当にヤクザを使っているのか?」もちろん自警団はありません。ヤクザじゃないけど刺青は本物だし、元ヤクザ、実際チンピラをそのまま使ってたりするんで、“ヤクザに近い人”ですね。

——主役の野中耀博さんは本物のような殺気がありましたが、元々役者さんではないんですね。

石原:太鼓プレーヤーです。僕が一目惚れして絶対出て欲しいってお願いしたら「僕は太鼓叩きですよ。そんな人間が演技したって」って物凄い謙虚なんです。「あなたじゃなきゃダメだ。あなたは太鼓叩くときに殺気が出ている!」って、何度も押して押して、やっと了解してくれたんです。今は神戸の太鼓団体に所属して、世界でプレイするメンバーの一員として今も頑張って修行中みたいです。
 
後、「本物の役者は出ているのか」って聞かれました。100人いる内の3、4人位ですね。ヤクザにはリアルな顔が欲しくて。いかにも演技の「殺すぞ、コノヤロー!」みたいなのはちょっと違う。例えば破門状を出すシーン、ビールを飲むしぐさ。脚本を読んだだけでは役者がいくら頑張っても限界があると思うんです。やっていた、あるいは知っているような人、リアルが分かる人を選んだんです。

——石原監督の作品では、全てそういったキャスティングでしょうか。

石原:リアル志向で素人を使うことが多いです。そんな話を林海象監督にすると、「お前は山本政志監督に似てるって言われました。僕みたいなスタイルでやっている大先輩です。

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■■『ビー・デビル』監督を緊張させた『バイオレンスPM』■■
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——題材として何故、ヤクザな人間に惹かれるんでしょうか。

石原:自分の中には2人の石原がいて、13歳の少年が1人、純粋さを保っていて大人の社会を受け付けないけど人間好き。もう一人、ドロドロの部分を通ってドロドロの人間になったヤクザ石原は人間嫌い。その2人を監督・石原が管理しているんです。
中学時代に思いっきり道を外してたんで奴らの気持ちが分かるんですよ。だから『バイオレンスPM』では中学時代が境界線になってるんです。

——プチョンやハンブルグで共感したのは、実感として分かる人達でしたか。

石原:逆に「日本でああいう不良の中学生はホントにいるんですか?」って。「一部でこういうはみ出しものがいます」って言うとドイツ人が「そうなの!?」ってびっくりして。日本人は全員真面目と思っているらしい(笑)。韓国では全体でテーマを捉えてくれた人が多くて、「これは人生映画でしょ」って。ドイツのように遠い国の出来事というより身近に感じてもらったって印象を受けましたね。

——他に感想はどういったものがありましたか。

石原:ストレートに「痛い」とか(笑)。さっき『ビーデビル』のチャン・チョルス監督が観て下さったんですけど、「緊張した」「終わった後に重い余韻が続く」って言ってくれました。後「文通のシーンが良かった」って。文通のシーンは、失敗を覚悟して入れたんです。メールの時代にわざわざ手紙を書く。手書きの力って、人の気持ちにストレートに訴えかけたり、人を変えたり、動かしたりする力があると思うんです。それはハンブルグもプチョンもお客さんは分かってくれましたね。

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■■子供を撮るということ■■
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——『バイオレンスPM』は、石原監督の通算10本目の作品にして、CO2の助成作品ですね。

石原:製作期間が短いこともあって大変でしたけど、本当に撮りたい映画だったから、一切妥協せずに撮りました。
10年前から企画は考えていたんですけど、いきなり撮るか、謙虚に修行を積んでから撮るかって選択がありました。その頃20歳のガキで「人生の映画」を撮るのは無理だなって思ったんです。だから一旦子供の映画を作って、子供の演出を完璧にしようと思ったんです。地元である大阪の大東市で、子供の明るい映画を撮ってました。『バイオレンスPM』を撮れることになって、10年分の技術や修行したもの、簡単に撮れなかった口惜しさ、山あり谷あり地獄を通って来たんで怨念みたいなものを全部つぎ込んでるんです。10年我慢してやっと撮れるのにここで妥協したら終わりだと思って取り組みました。

——10年前何故、子供という選択肢が出てきたんですか。

石原:撮ってみたいという衝動が一番大きかったのが子供なんです。単純に純粋なところに惹かれますね。子供って、自分の好きなことに夢中になったり正直だったりバカだったりしますよね。休み時間が楽しくて仕方ない記憶。給食を食べるときのワクワク感。子供はほぼ純粋な状態の生きものなんでそれを観察したい、究極まで引き出したいというのがありました。子供の純粋な部分を究極まで探ってみると、それを象徴するのが“晩ご飯”。しかもみんなで食べる晩ご飯が究極ってことに辿り着いたんです。

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■■劇場公開をすっ飛ばしてDVD発売!■■
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——劇場公開の前にもうDVDが出ているんですね。

石原:TSUTAYAにもありますよ!劇場公開をすっ飛ばして、せっかちなペースでやりました。
それは時間とお金がもったいないと思って、次の新作を撮った方が僕にとっていいと思ったんです。人のことを言うようでなんですけど、僕と同じ立場で映画を撮っている人で、劇場公開したり、DVDリリースするまで滅茶苦茶時間掛かることが多いんですけど、その時間が僕にはもったいなくて。それなら先に1本撮って相乗効果で名を上げていく方が早いんじゃないかというのが、間違ってるかもしれないけど現在の結論です。

——『バイオレンスPM』の個人的な感想としては、各時代のエピソードそれぞれが面白かったんですが、全体で観たときに一人の人間の姿として、一貫して繋がって見えなかったんです。主人公マサシのユウコに対する思いが揺るぎない柱として見えれば、もっとラストが響いたと思いますし、そこが残念でした。

石原:そこはもっと修行が必要なところでしょうね。もっと整合性をつけるというか、いい見せ方を追求していかないと。人生映画は新作でちょっとストップしますけど、また次回撮りますので、『バイオレンスPM』の反省点として、それぞれの章のエピソードの使い方やバランスがあるので、それを踏まえて望みたいですね。

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■■反語的タイトル・新作『大阪外道』のこと■■
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——新作はどんな作品を予定してるんですか。

石原:『バイオレンスPM』でいろんな映画祭を回って「子供のシーンをもっと見たい」という感想が多かったり、玄人筋の反応も「子供時代の演出が一番よかった」って。「じゃあ待ってろよ!次でやるよ」ってことで。

大阪に帰ったらすぐに撮影に入りますが、バイオレンス系でタイトルは『大阪外道』。12歳の少年がいろんな世代にもみくちゃにされながら成長に辿り着く、半年間の成長記録です。親のいない子供たちにヤクザ者がご飯を食べさせる話。震災の影響も少しあって、少しでも余裕がある人間が困っている人に何が出来るか、「共存」がテーマです。

これはゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出そうって思っています。第一候補はとにかくゆうばりですね!

『大阪外道』の次回作のネタも決めているのと予備ネタで10本ストックがあります。プチョンに来て『エイリアン・ビキニの侵略』のオ・ヨンドゥ監督からのNAFFの企画マーケットに「何で出さないんだ?」って言われて。初めて知ったんですよね。そういったことも視野に入れながら、どんどん新作を撮っていきますので期待しててください!

※10月現在、石原監督は『大阪外道』の撮影をクランクアップ。現在ゆうばりファンタを目指して鋭意編集中とのこと。

執筆者

デューイ松田

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