神戸・元町商店街四丁目にある元町映画館では、4月30日(土)より5月6日(金)まで、「モトマチセレクション」の第3弾「元町が俺を呼んでるぜ!」と題したGW特集上映を予定している。

元町を舞台に作られた『赤い波止場』(1958年日活/石原裕次郎主演)、元町商店街の方から「元町商店で撮影している映画なんですよ」とリクエストがあったという『麻薬3号』(1958年日活/長門裕之主演/未DVD化)。

そして、元町映画館がオープンするまでを追ったドキュメンタリー『街に・映画館を・造る』(2011年/木村卓司監督)の3本だ。

30日からの公開を目前に、元町映画館誕生の発起人・堀忠氏と木村卓司監督にお話を伺った。

<『麻薬3号』ポスター:(c)日活>












■■■制作費0円のドキュメンタリー『街に・映画館を・造る』■■■

「リンゴとイチゴ、どっちが好きですか?」「イチゴ」まだ箱の状態でしかない内装工事前の元町映画館の中を無邪気に走り回る女の子に質問を投げかける木村監督。「犬と猫、どっちが好きですか?」一転してにこやかながら、監督本気の一声。「エイゼンシュティンとジョン・フランケンハイマー、どっちが好きですか?」「一緒!」
そんな爆笑シーンから、この映画は始まる。

元町映画館は、無類の映画ファンでもある医師の堀忠氏が、「地元の映画ファンに、多様な映画を見る機会を少しでも増やしたい」と出資。神戸映画サークル協議会から藤島順二氏が支配人に就任し、映画館造りに賛同した映画ファンと共に資金集めや施設工事、機材導入に奔走。2010年8月21日にオープンしたまさに手造りの単館系映画館だ。

■■■全て見せます。映画館の造り方。■■■

神戸出身の故・淀川長治氏の肖像画が見守る会議室で、運営スタッフのミーティングが行われている。資金、届出関係書類、ホームページ、配給する映画と映画会社、広告、イベントといった多岐に渡った項目が、“ここまでオープンにしていいの?”と心配になるような赤裸々な話がなされている。

堀「会議のシーンはテンポ良く進むのに、金の話になるとテンポもテンションも下がる様子がよくわかりますね。他の細々したことは全部解決されていくのに、金の話だけが残って行く。あっちの払いはしょうがないけど、こっちの業者は3ヶ月待ってもらおうとか、とんでもない話がたくさん出てくる。普通は中々出せないところですよね(笑)」

そんな中、木村監督のカメラは、話している人物を追うだけでなく、顔に、パーツに、皮膚に、衣類のマテリアルにどんどん肉薄して行き、「目で見る音楽」とでも言えるようなフォルムの様相を呈していくという、普通のドキュメンタリーで観たことがないような画面が展開する。

木村「実相寺昭雄監督が対象物に寄って行きますよね。その再現です。頭の中が実相寺監督でいっぱいなので(笑)、とにかく“寄るんだ!”って。皆さんからは何も文句を言われなかったので、そのまま撮りました」

木村「カメラは10時間くらい回しました。フレデリック・ワイズマンはキャメラを100時間回すそうです。自分などワイズマンから比べたら塵の様なものです。カメラは、ネットで安く購入したものです。3ヶ月、毎日5時間編集しました。苦労したのは、リズミカルになるように編集すること。手造りの映画館に合わせて、手造り感溢れる画面にしようと、今回はあえて手間をかけてビデオ編集にしました」

ドキュメンタリーで普通の演出として使われる字幕やタイトル出しが一切ないのもこの映画の特徴。「みんなやってるからあえて入れなかった」と語る木村監督。
制作者の誘導に従ったパッケージ演出を享受するのではなく、人それぞれの見方がある映画の楽しみそのものをさりげなく思い出させてくれるちょっとした仕掛けと言える。

資金が足りない部分は自分たちでペンキを塗り、パーツを造り、着実に映画館が出来ていく。
堀「みんな本気で関わってくれたし、木村監督も本気で撮ってくれたし、映写技師さんも本当に来てくれた。最初はただの素人が映画館を造りたいなんて言っても相手にされないんじゃないかって心配してたんですが、その予想は見事に外れましたね。兵庫県からの助成も大きかったです。企画書を出して、審査があったんですけど、“わが町に映画館を!”と賛同してくださった元町商店街の方々が一筆添えてくださったのも大きかったと思います」

■■■映画館造りはまだまだ終わらない■■■

元町映画館のオープン当日。劇場内で行われた完成披露パーティーの模様が映し出される。普通のドキュメンタリーならこれで感動のラストを迎えてもおかしくない。しかし映画は終わらない。何故なら映画館はここからが本当のスタートだから。

設計を担当した浅見雅之氏と小林美輪氏(人・まち・住まい研究所/一級建築士)による「映画館を作るには保健所の許可が必要」といった意外な裏話から、ミニシアター・第七藝術劇場の支配人・松村厚氏の本音トーク。「設備の快適さを当たり前とする観客のニーズとどう向き合うか」「映画祭で観客が入る映画と興行の現実」そして堀氏が語る「ネットで簡単に映像が落とせる時代に、どう観客を育てるか」。

堀氏に伺ったところによると、劇場を存続させるためには、毎日70人の入場者が必要だが、現状は7割から8割の入りとのこと。

この映画で出色だったのは、映写機に電気が入り音を立てて動き出すシーン。そのディテールの美しさは命が宿ったかのように力強い。そして忘れられないのが、スクリーンを見つめる子供たちの目。決して楽観視は出来ない映画館の状況だが、映写機が回り続ける限り、新たな観客もまた育って行く。
「映画館を造る」とは、ハコ造りから観客造りへ。まだまだ続いて行くのだ。

★『赤い波止場』『麻薬3号』一般1500円、学生・シニア1000円
★『街に・映画館を・造る』一律500円(東日本大震災チャリティー上映)

執筆者

デューイ松田

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元町映画館公式HP