決して仲が悪い訳でもないのに、一緒に住んでいるだけで緊張感は皆無。悪気なきわがままの押し付け。きまぐれの思いやりは見当違い。しかも風呂上りにぱんいちでうろつき回る…!

結婚を経験した人なら、誰もが「ある!ある!」とヘッドバンギング状態になる恐ろしい映画が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のフォアキャスト部門(ノンコンペ企画部門)に登場した。『デメキング』(’09)の寺内康太郎監督の最新作『ぱんいち夫婦』。ドグマ95ならぬ“ドグマ96”という、中川究矢監督を中心としたプロジェクトで制作された作品だ。

操縦不可能なぱんいちの妻・アッコと、出会い系チャットで知り合った人妻に色々“お願いしたい”あまりに涙ぐましい努力を重ねる気弱な夫・ギンジ。そんな2人に愛情を感じるか否かで、あなたの結婚偏差値が測れるかも!?











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■■■ドグマ96だから成立した作品■■■
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——このリアルさは、結婚経験者なら笑えて仕方ないですよね。アッコが不思議な生物に見えてきたり、ギンジの必死さが涙ぐましかったり。でもそんな二人が愛おしく感じられて、とにかく面白い作品でした。これはドグマ96だから成立した作品だったんでしょうか。

寺内:そうだと思います。僕が普段撮っている作品は原作があるものが多いので、オリジナルをやりたかったんです。この企画書を持って回るとなると、実現までに凄く時間がかかったでしょうし。元々メインの中川究矢さんと友達だったんですけど、今まではドグマのメンバーだけでやっていたのが、外部に頼むもの大事だってことになって。「ぜひ外部第一弾でやらせてくれ」ってことで。

——ドグマ96は、「1日(24時間)で撮影を終える事」「撮影方法に不確定要素が多分にある事」「斬新である事」といったルールがありますが、『ぱんいち夫婦』もそれに則って制作されたんですか。

寺内:ドグマ96はこれで5本目の作品なんですが、1日で撮るってルールだけは、どうしても超えちゃうんで、1日半で撮りました。初日は一日100カットくらいのペースで、普段より早いくらいでしたね。

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■■■実録・胸が見えた瞬間の現場は…!■■■
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——奈賀さんは現場ではいかがでしたか。

奈賀:私はけっこう自主映画やピンク映画をやらせていただいていて、撮影の現場は本編(一般映画)より過酷で、3日で1時間モノを撮る、というのが普通なんです。だから懐かしいテンポで、全然大丈夫でしたね。
ただ、役が凄く掴みにくかったので、それを現場でどう体に入れるかでした。台詞を覚えるのと、アッコとして動くのに、最初はちょっと時間がかかりましたね。撮影は監督の家で、実際に猫も飼っていらっしゃるので、だんだんリラックスしていくことができました。

寺内:ヌードを撮るのは初めてだったので緊張していて。それを察した奈賀さんが、実際にはまだ脱がなくてもいいシーンだったんですけど、「本番の流れでブラを取ってもいいですか」って言ってくれて。

奈賀:流れで脱いでもいいのかなって思ったんです。みなさん気を遣ってくださるのが分かったので、脱ぐことに気を遣わせてはいけないって。脱ぐほうは、覚悟があると意外に度胸が据わっていて、別に何ともないんですよ。

寺内:見るほうは覚悟が出来てないんです(笑)。

——ご自分が脚本をお書きになったのに(笑)?

寺内:例えば若い…奈賀さんも若いですが(笑)、10代の子に脱いでもらうとしたらお互いに気を遣うと思うんですが、奈賀さんは達者なので、僕らがリラックスさせてもらって。トップが出た瞬間、僕「カット」って言ってました。

奈賀:言いましたね。(一同爆笑)

——松下さんはいかがでしたか。

松下:僕は舞台を中心に活動していますので、映像の仕事をあまりしたことがなくて、必死でした。演技は普段と変わらないんですが、やはり勝手が違っていて。頭からじゃなくて、途中のカットのから撮影が始まると、立ち位置が分からなくなるんです。まだまだって感じです。

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■■■超・リアルな脚本ができるまで■■■
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——脚本は元々どういうところから発想されたんですか。

寺内:最初は好きなことをやりたくて入った業界でしたが、色々やっているうちに、自分の好きな事が何か分からなくなって。今、好きなことをやってくれって言われると、結構みんな困ると思うんです。その中で好きなものを探していくと、自分にとってのリアリティを求めてしまったというか(笑)
ホントはそこから話が飛躍した方がいいんでしょうけど。思うようにはいかない現実。結局この映画って、否定もしていなければ、肯定もしてない。

——また同じように日常が続いて行くのかなっていう。

寺内:そういうところを一番大事にしたかったんです。

——中川究矢監督のドキュメンタリー『進化』を拝見したんですけど、その中で、寺内監督は「愛が一番」っておっしゃってましたね。

寺内:あの時は言ってましたね。まだ企画ができる大分前だったんで。僕の言ってた「愛」ってこんなくだらないことだったんだって(笑)。

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■■■役者たちに愛された脚本
「ぱんいちでしかあり得ない」■■■
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——お二人は、最初に脚本をお読みになった時の印象はいかがでしたか。

奈賀:「愛」って普通、恥ずかしいじゃないですか、言葉に出すと。でも台本を読ませていただいたとき、旦那さんのギンジの魅力が溢れていて。全て受け入れてくれて、否定しないんですもんね。それって凄い。
私が脱いでいたのは10年前なので、ちょっと自分の中でしぶったんですけど。こんなに愛されてる奥さんで、どうしようもないけどなんていい夫婦なんだろう、ぜひやりたいなって思って。これはもう、“ぱんいち”でしかあり得ないって、5分10分で決めました(笑)。

寺内:ギンジのキャラクターって,台本通りに演じると「ザ・お芝居」に成りかねないんですけど、松下さんはそうじゃない。見た目の印象も大きいけど。松下さんとは初めてだったんですけど、何一つ質問もなく淡々とやってくれましたね(笑)。

松下:以前に僕がつきあってた中にアッコのような人もいたので、ギンジのキャラクターは凄く作りやすかったです。こういう気持ちで、ここまでは言う人じゃないなって。脚本を読んだ時点で、親近感…愛着があって、受けよう!って思いました。

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■■■大人の合宿・ゆうばりファンタ■■■
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——今回、ゆうばりファンタでは、ドグマ96のプロジェクトで制作された中川究矢監督の『進化』、白石晃士監督の『超・暴力人間』、そしてこの『ぱんいち夫婦』、の3本で『ハイパーミニマルムービーズ』として上映イベントが行われましたが、今後は劇場公開を視野に入れていらっしゃるんでしょうか。

寺内:まだこれからなんですけど、代表の中川が中心になって進めて行くことになります。

——観客の反応が楽しみですね。最後に、ゆうばりファンタに参加しての感想をお願いします。

奈賀:私は3回目で、最初が堀井彩監督の『素敵な家族』(’08)。次の年はこの映画で競演したやぶさきえみさんが、ゆうばりに来たくて監督した『妖怪毛だくさん』(’09)。1年空いて『ぱんいち夫婦』ですね。みんなでお酒を飲みながら、全部忘れて映画の話ができるのは幸せです。
隔離状態なのがアットホームでもあり、でも大人だからみんな別行動もするし、大人の合宿って感じがいいですね。

松下:初めて参加させてもらいまして、一番びっくりしたのはオープニングパーティーのとき、奈賀さんが突然、次の日の朝7時開始の撮影が決まって。

奈賀:突然やぶさきさんから「奈賀さん、明日撮影!」って言われて。明日の晩のやぶさきさんと小林でび監督のイベント『やぶさき&でびナイト』で流す映像を、朝撮るって話だったんです。

松下:一緒にお話をいただいて、僕も急遽。全く知らない方ばかりなのでドキドキしました(笑)。こういう出会いがあるんだなーって驚きました。

寺内:名前は知っててもお会いしたことがない人とか、普段会ってもそこまで話したことがない人と、自然に会話ができるんですよね。知らないことが多いなって感じました。みなさんの中では当然常識な方でも、僕は知らなかったり。
ゆうばりって今回で21回目でしたっけ。学生の頃、みんながゆうばりファンタを目指していましたね。僕の同期では山下敦弘が卒業制作でグランプリ獲って(’00)。翌年先輩の本田隆一監督がグランプリ獲って。でもそれはそれで良かった。死ぬまでが勝負だと思ってますから。今度はオフシアター(コンペ部門)に出したいって気分が大きいんです。コンペの方が楽しいじゃないですか。

奈賀:だってもうオフシアターには出せないんじゃないですか(笑)。招待作品目指して頑張ってくださいよー。

寺内:招待かー! それはいいですね。

執筆者

デューイ松田