3月4日(金)〜6日(日)の日程で大阪市北区にあるHEPホールで行われた、平成22年度大阪芸術大学映像学科卒業制作展 DAIGEI FILM AWARD 2011。
中日である5日(土)、『井口監督 愛の鞭!激的映画塾』と題するイベントに井口昇監督が登場した。
ワークショップで芸大生と共に制作したショートムービーを紹介しながら、映画作りや監督の仕事に迫っていくものだ。
ワークショップに参加した芸大生たちは、井口監督と撮影現場を体験することで何を学んだのだろうか。

















司会は、映像学科4回生の山村勇介さんと吉田敬亮さん。
まずスクリーンに登場したのは、井口監督の紹介VTR。ドラマ『古代少女ドグちゃん』(’09)『古代少女隊ドグーンV』(’10)や、最新作の映画『電人ザボーガー』(’11)の撮影現場で爆笑しながら演出する井口監督の姿が紹介された。
井口監督は自身の演出についてこう語る。

「演出する時には、まず自分が演じてみせるようにしています。監督が恥をかかないと役者は付いて来ないんです」
「心を裸にしないと観客は付いて来ないんです。自分の欲望、イメージを正直に表現することが映画の力になる」

拍手と共に登場した井口監督。
冒頭の紹介映像は、編集、ナレーション台本共に井口監督の制作だったという爆笑エピソードがネタ明かしされる。

「ホントはインタビュアーもいないんですよ。自分で自画自賛の紹介VTRを作ってみました(笑)」

■■■プロのスピードを体感する■■■
2月に開催された井口監督による2日間のワークショップ。題材になったシナリオは、1回生時の課題『待ち合わせ』で、“彼氏を待つ彼女と、男にぶつかって待ち合わせ場所に行けない彼氏”というもので結末はなかったという。
1日目は、企画会議でラストまで完成させた上でのシナリオハンティング。
2日目は60カット以上の撮影を1日でというタイトなスケジュールで行われた。
最初は監修のみでの参加予定だったという井口監督。撮影を進めるうちに時間がなくなり、昼以降は山村さんと監督をバトンタッチして撮り上げたという。仕上げは、後日井口監督と西村喜廣監督が編集し、芸大生がSEをつけて、約6分のホラーショートムービーが完成した。

メイキングと本編上映後のトークでは、芸大生が編集したSEに関して井口監督からアドバイスが行われた。そしてトークは撮影のスピードの話に。

井口「映画でお金をもらう仕事をやっていると、予算と時間は厳守。もちろん自分の撮りたいものを撮ることもありますが、こういうものを撮って欲しいというオファーに対して、予算と時間のルールの中で自分の個性を発揮しなきゃいけない生活です。どうしても早く撮ることが体に染み付いています」

山村「60カット以上を1日でこなしたのは初めてでした。僕らの現場の場合は、あくまで自分たちで作ったルールで動くので、スローペースになって行くのかもしれません」

■■■撮影現場には魔力がある■■■
今度は井口監督と西村喜廣監督が編集したままの、SEなしバージョンが生解説付きで上映された。
元々芸大生が提示したキャスティングは、彼氏役にイケメンの男子生徒、ぶつかる男役にユニークなキャラクターの阿部羅秀伸さん(4回生)だった。井口監督はこの2人を逆に配役した。
「面白い人がイヤな目に合うのが大好きなんで(笑)」と井口監督。

「ここはイタリアンホラーっぽく」とか、「ここは『ランボー』ののど笛を掻き切るシーンみたいに」「ここはブルース・リーの香港像っぽく」といったカメラアングルやポーズの指示で、独特のケレンあるルックが完成していったようだ。1人しかいないゾンビを2人に見せたカットのモンタージュは、予算がない自主映画時代に良く使ったテクニックとのこと。
また、インパクトのある残酷シーンを目指して、ラストはゾンビから彼氏に延々口移しで血が注がれるシーンが演出された。そのしつこさから来る生理的恐怖には、『クルシメさん』(’98)や『恋する幼虫』(’03)で見せた井口印がしっかりと刻まれていた。

井口「映画って工夫なんですよ。どう考えても予算ではハリウッドに勝てる訳がないので。頭を爆発させる予算がなければ、口移しに血をたらせば、気持ち悪い感じが出る。そんな発想で僕は映画を作り続けています。みなさんが学校の予算で作る場合でも常に一歩上を目指して欲しいですね。阿部羅くんの口の中に血が入って「おおっ」ってなってると嬉しくてしょうがなかったね(笑)。もっと掛けてやれ、もっと!って(笑)。映画ってお金にならない、割りに合わないことも多いんです。だったら自分たちがまず面白がる方がいい」

山村「撮影現場で一日中、あんなにみんなが笑うってめったにないです。絶対誰かが暗くなったり、イライラしたりってあるけど、この現場はみんなが幸せに笑顔で(笑)」

井口「映画ってそういう魔力があるんです。3日徹夜すると、どんなに厳しい顔をしたスタッフも笑顔になる(笑)。脳内麻薬が出てきますからね。4日徹夜したことがあって、その時に笑いが止まらなくなって、バスで降りてドライブインで2時間恋バナしました(笑)それくらいになれる。会社で働くのではできない経験ですよね(笑)。この状態を20日くらい続けるとだいたい1カップルくらい出来るよね。ありえない極限状態を通過した同士が共有する、戦友感というか変な絆が生まれるよね。

吉田「僕はアニメーション制作だったんですけど、卒業制作は3ヶ月仲間と二人きりで缶詰状態だったので、やっぱり切っても切れない存在になりましたね」

■■■映画監督の仕事って■■■
話は、井口監督の考える“監督という仕事”に及んでいった。

山村「個人的に驚いたのが段取りのスピード。これは僕にはないものです。こういうことをしてくださいってみんなに説明した時の理解の度合い、分かりやすさが現場のスピードになっていたと思います」

井口「それは僕も散々怒られて来たから。監督の仕事って、何が今行われていて、何をこれからしようとしているか説明しないといけない。自分だけ分かっていても何も進まないんです。たくさんの現場を経験しながら模索して、知らず知らずに伝えられるようになってきたんですよ。慣れだと思います」

山村「自分の考えを共有させるのが監督の仕事ですか」

井口「監督は、謝るのが仕事。腰が低くなくちゃいけないんです。偉ぶるのが監督だと思ってる人がいるかもしれないけど、そうじゃない。人に気を遣い、お客さんに気を遣い、映画自体にも気を遣う。それが監督の仕事。そうありましょうよ(笑)。常に低姿勢な人でありたいですね」

■■■芸大生の質問に答える■■■
Q&Aタイムでは、映像学科3回生の女子学生から「苦手なジャンルを監督することになったら、どうしたらいいか」という質問が出た。

井口「何を求められているかを考えて、どうすればそこに近づけるかを誠実に考えることだと思う」
「例えば僕は難病モノが苦手なんだけど、もしやらないかって言われたら“やる”って答えます。今、お客さんが見たい難病モノってなんだろう。どうすれば自分が見たい難病モノになるかって考えます。映画づくりは仕事なので、与えられた題材とどう向き合うか。何を必要とされているか考えるのが大事です」

次の質問は4回生の男子学生から。アダルトビデオの監督作も多い井口監督に「ジャンル愛について教えてください」。井口監督、爆笑しつつの回答となった。

井口「これは血が出る以上にヤバイね。後で個人的に教えます(笑)。
昔、ピンク映画で生計を立てた映画監督が結構いらっしゃったように、アダルトビデオの現場にも映画の監督が入ることが多かったんです。20年前は僕の自主映画の先輩がみんなその現場に入った時期で、僕もADの仕事を始めました。アダルトビデオを撮るのは、映画の現場とはまた違いますが、色々な勉強になりましたね。1日で撮影しないといけないし、凄まじくお芝居が出来ない女優さんを使ってドラマを撮るとなると、ほとんど“とんちの世界”ですよ(笑)。当時は、アダルトビデオでもドラマものが多かったので、ドラマを演出する訓練にもなりましたが、最近ではドラマものが少なくなりましたね」

■■■映画制作を志す人へ■■■
最新作『電人ザボーガー』(’11)と『富江 アンリミテッド』(’11)の予告編の後、最後に井口監督から芸大生に向けてエールが送られた。

井口「試練はあると思うけど、好きだったら続けた方がいいと思います。僕も昔、自主映画は撮っていたけど、プロになった姿なんて全く想像してなかった。“向いてるな”って思って続けていたら、なんとなく今の状況までは行けたんです。
続けると見てくれる、振り返ってくれる人が結構いるものなんです。どこにチャンスが転がっているか分からないし、今日の出会いが10年後に花開くかもしれない。映画を志している人間同士なので触発し合えたらいいと思うし、皆さんとまた出会うことが出来たらいいなと思います」

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■■■井口昇監督インタビュー「監督とは、現場でリズムを作る仕事」■■■

——ワークショップに参加した芸大生と制作された今回の作品なんですが、編集について教えてください。

西村喜廣監督と僕とで5時間で編集して、SEなしの状態に仕上げました。本当はもっと手を加えたかったんですけど時間がなくて。あとは学生がSEを加えて、今日披露した形になりました。

——芸大生の編集から修正したのはどんなところですか。

画の選び方、使い方ですね。間延びしていた部分を修正して、ラストの締め方を見易くしました。長さは1分ほど短くなった程度ですが、画が変わると随分印象が変わりますから。

——ワークショップにあたっては芸大生にどう接するご予定でしたか。

自分も映画を撮っているんですけど、未だに見よう見真似で知らないことも多いんです。変に先輩面してもしょうがないし。目線はみんなに近い所で、いい意味でダチ感覚の説教ができればいいなと思ったんです。情報だけ知ってればいいってものでもないので、自分の経験を素直に伝えて彼らのヒントになればいいかなと。

——以前、ENBUゼミナールの学生と制作された『魔悪子が来る!』(’08)という作品がありましたね。

『魔悪子が来る!』は授業で制作したものだったので、脚本やキャスティングにも時間をかけたんですが、今回は2日しかなくて。1日目が企画会議、2日目は撮影。冒頭しかないシナリオの元をもらって、ほとんど何もない所からのスタートでしたから。瞬発力の勉強になりましたね。最初、できないんじゃないかって思ったもん。その場で60カット分を考えて、ロケハンしながら“アップがある”“引きがある”っていうのを判断して、学生たちに説明しながらやったんで、僕自身が勉強になりましたね。

——その瞬発力は、やはりこれまでのご経験から来るものですか。

だと思います。逆境慣れしているというか、なんとかなるっていつも思ってるんですよ。映画の現場って、結構信じられないようなトラブルが起こるんですけど、それでもなんとか乗り越えてきたので、それが強みですね。今回は、ここで僕がひるんだら学生もひるむと思うので、絶対にひるまないって決めてました。

——時間がない中の撮影でしたが、意外に出来たと思われることはなんですか。

キャスティングが上手くいったかな。学生が連れてきた役者を僕なりに変えると意外に面白いキャスティングになりましたね。あとは意外にホラー映画になったなかなと思います。こういう状況でも映画って撮れるんだなと自分自身再確認しました。この経験が、学生にもいい刺激になればいいんですけど。映画の現場の瞬発力を知っていくことも大事ですからね。

——山村さんから、指示が全員にきちんと伝わることが凄いというお話が出ましたね。

まずゼスチャーだってことが分かって来た(笑)。
最近外国の方とも接することが多くなって来たんですけど、ずーっと動いて伝えると、なんとなくみんなに伝わっていく。監督って現場でリズムを作ることだなぁって。自分もこれからスタートだと思うし、ようやく分かって来ました。司会の山村くんの作品を観ても面白いし、やはり数をこなしていって欲しい。数というより続けるってこと。彼は面白いものを作っていける素質があると思いますね。

——現場で芸大生の姿を見て感じたことや、彼らに期待することはありますか。

羨ましいよね。高卒なので未だに大学生に憧れてる。この前撮影で大阪芸大に行ったときに、“キャンパスだーっ”って思って(笑)。実を言うと僕、20年前に大阪芸大を受けようとしたことがありまして。でも大阪に行かないといけないなぁって挫折して(笑)。倍率も高かったしね。
彼らにしたら、今の僕らの状況が羨ましいだろうし、僕らにしたらある程度自由に作れる状況が羨ましいし。お互いないものねだりですけどね。

彼らの作品を見ると、いい意味でも悪い意味でも品がいいなぁと。みんな礼儀正しいし、もう少しやんちゃでもいいかなと思います。やれる時にやらないと出来なくなっちゃうから。素直さと真面目さを持ちながら、やんちゃでもいいんじゃないかな。色々なことにチャレンジして欲しいです。

——井口さんも高校生の頃はやんちゃだったんですか。

僕は自分が生真面目だったから、アダルトビデオをやったというのはありますね。自分にとっての反抗期だった気がします。今になって思うと、自分に刺激を与えることで、自分なりのやんちゃさを作っていったという感じですかねー(笑)。

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DAIGEI FILM AWARD 2011 司会:大阪芸術大学 映造学科4回生 山村勇介さん・吉田敬亮さんインタビュー
「3回生で井口監督に出会っていれば、卒業制作の演出も変わっていたかも」■■■

司会を担当した山村さんは、ワークショップ仕掛け人の一人。吉田さんは今回のイベントが井口監督との初対面。そんな二人にそれぞれに感想を伺ってみた。

——まずこのワークショップが実現した経緯を教えてください。

山村:大学1回生の時に井口監督の『片腕マシンガール』を観て衝撃と感動を覚えたんです。『ロボゲイシャ』といった他の作品も観て、すっかり井口監督のファンになりました。大阪芸大では、例年卒業制作展にて、大学OBの方をゲストに招いてのトークショーを行っています。今年はOBではないのですが、僕が井口監督を是非呼びたいと提案しました。色々な方がゲスト候補に挙がった中から、井口監督をゲストに、しかも例年と少し違う、ワークショップ形式でのトークショーが決定しました。内容を企画したのはイベント部で、誰でも参加できるワークショップですので、学年に関係なく希望した15〜16人が参加しました。

——撮影はいかがでしたか。

山村:2日目に朝からさっそく撮影に入ったんですが、シナリオにカット割が書いてあって「カット1、行こうか!」って感じで、井口監督の演出を決める早さに驚かされました。僕らだったら、“どうしよう”ってまず悩むんですけど、頭の中に全ての映像が繋がってるんだなって。

——このワークショップで得たものは何ですか。

山村:もし3回生の時に出会っていれば、今回撮った卒業制作も違う演出になっていたと思います。撮影中は井口監督が一番穏やかで「大丈夫?」って気遣いをされてました。監督をやってると責任感が圧し掛かりすぎて、そういう余裕がない人が多いんです。悩んで殻に閉じこもったり、みんなが監督に気を使うことがよくあります。逆に「笑顔で行こう!」って盛り上げてくださるのが凄いです。

——ワークショップを終えて感じた今後の課題はありますか。

山村:一番学べたのは段取りですね。僕も元々落ち込んだりしない方なので、その辺は共通点があると思いますが、段取りの早さが素晴らしかったです。
付いて行くのに必死。必死なんですけど理解できる。説明の仕方が分かりやすいんです。1度の段取りが20項目位あるんですけど、でもみんながちゃんと20項目分かってるんです。円滑に撮影時間内にきっちり予定カット数を撮り終えました。

——たくさんの人と同じことを共有するのは難しいですよね。

山村:普通は絶対、1人は分かってない人がいるんです。でもみんな自分のやることが分かっていて、井口監督が演出に割く時間を持てたのが良かったと思います。

——吉田さんは、司会者として井口監督と接していがかでしたか。

吉田:井口監督にはお会いするのが初めてで緊張していました。でも会ってみると気さくで、このイベントのミーティングでも、僕らが意見を出しやすい環境を作ってくださったり、色々提案してくださったり。山村からどの部署にも目を配ってくださるとは聞いていましたが、まさにそのとおりの方でしたね。

執筆者

デューイ松田

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