芥川賞作家、絲山秋子の小説を『ガメラ』や『デスノート』で知られるヒットメーカー、金子修介監督が映画化!物語は地方の小都市に暮らす主人公ヒデが、学生時代に年上の女性・額子と出会い、別れ、アルコールに溺れ、苦悩の人生を送るものの、10年ぶりの額子との再会をきっかけに再生を果たす、という濃密な人間ドラマとなっている。ヒデ役には成宮寛貴、額子には内田有紀がキャスティングされ、原作のイメージを見事に実写化している。







Q.成宮さん演じるヒデは、ばかものに見えますが、よく考えると自分も同じ年の頃はそうだったかもしれないと思える節があります。監督も、その世代とは離れていますが、映画のキャラクターを作るにあたって、自身を振り返ったり、若い人の話を聞いたりしたのでしょうか?

金子:おっしゃるとおりで、客観的に上から目線で見つつ、描いていく内に彼らの目線に入っていって—自分も共感していく—自分も同じじゃないか、という感じで撮影していました。でもそんなに大きくは自分の年代と変わらないと思うし、ある種、僕が彼らの年代を過ぎたから描けたというのがあると思うんですよね。もちろん僕がもっと若かったら、きっと全く違う映画になったとは思いますけどね。

Q.成宮寛貴さんや内田有紀さんとはディスカッションはされたのでしょうか?

金子:有紀ちゃんは本当に額子という役が好きで、額子だったらこうすると思うと随分言ってきてくれました。額子になりきっていて、障害を負った時の訓練もしてくれていました。実に熱心にやってくれましたけど、頭の回転が僕よりも速いので(笑)、言おうとすることを先に言われてしまって、「分かっています」と言われることもありました。成宮君には10年という期間を演じてもらう上で、演技プランを5段階に分けました。最初のミーティングの時は「順番通りに撮るから」って安心させたんだけど、いざ撮影が始まったら、その通りにならなくて、いきなりアル中のシーンから始めちゃって、迷惑をかけてしまいました。でもうまく演じ分けて10年という期間を演じ分けてくれました。

Q.音楽も印象的でした。

金子:MOKUさんという、TVの『ホーリーランド』で一度組んでいる方にお願いしました。彼は、自分の助監督だった佐藤太監督の作品でよく音楽を書いているんですね。僕もネットドラマの音楽は担当してもらっていたんですけど、本格的な作品でここまでやってもらったのは初めてで、すごく気合の入ったいいスコアを書いてもらえたと思っています。作品のグレードも上がりましたよね。僕は音楽には結構こだわる方なんです。今でこそオリジナルの楽曲を作ってもらっていますが、日活時代はライブラリーからの選曲で、その後は大谷幸さんとのコンビも長く続きました。今回はMOKUさんにお願いしたのですが、非常に気持ちのいい音楽を作ってもらえました。

Q.時代が移り変わることを、その時代を表現する出来事の映像で表現していますが、

金子:3回入っていますね。99年と2004年、2008年。映画の世界はミクロコスモス、つまり小さな世界なんですけど、それを見る視点は時代の流れもあるんだということを意識させたかったということなんです。ニューヨークでは9.11のテロがあった。でも高崎ではこんなことも起こっていた。そんな風に描きたかった。時代を感じさせるテクニックはいろんな手法がありますけど、日本の該当する時代は停滞していたイメージがありますよね、振り返ってみると。すると世界情勢を入れないと、10年という期間を表現できないと思ったんです。

Q.映画を見終えると、アルコール依存症の怖さもひしひしと感じられます。

金子:取材はしたけど、映画の描写ほど甘いものではないと思っています。この映画は人間ドラマであって、エンタメではないと印象を持たれがちですが、実はエンタメの側面も強いんです。本当らしく見せるファンタジーという意味もあるし、10年前の恋愛が成就するというのもファンタジーと言えるでしょう。もちろんアル中は怖いと思うんですが、そこはストーリーとして描くというよりも、自己変革する人間を描くということでしかドラマを描けなかった気がしますね。その辺も原作では本能的に描かれていて、読み比べると一層面白いのではと思います。

Q.観客へのメッセージをお願いします。

金子:いつまでも“ばかもの”じゃいけないと思ってほしいですね。これは“ばかもの”を突き放す一方、愛しつつ描いてもいます。そういう意味では自由に見てほしいんですけど、二人の大恋愛を楽しむ見方もあると思います。ぜひ劇場に足を運んで見てもらいたいですね。

執筆者

飯塚克味

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