フランスの名匠ルイ・マル監督と伝説的ドイツ人女優ギラ・フォン・ヴァイターシャウセンの間に生まれたプロデューサー、マニュエル・マル。
アカデミー賞受賞作品「パフューム」(2006)や、ゴールデン・グローブ賞ノミネート作品「バーダー・マインホフ 理想の果てに」(2008)でプロデューサーとして名を連ねた彼が来日し、語って頂いた。




−−−映画一家で育ってプロデューサーになろうと思ったきっかけは?
母親が女優で父親が映画監督、叔父がプロデューサーで叔母が編集をやっていて、祖母も女優でした。5歳くらいまでは、世の中の仕事は医者くらいしか知らなかったほど映画一家でした。無意識のうちにこの仕事についていました。
プロデューサーという仕事に関して、映画はいろいろなことを理解していないと完成しないと思いますし、映画を作るには情熱が不可欠です。最初に関わった仕事にはそれほど情熱は無かったのですが、関わっていくうちに自分にこの仕事が向いていると思い始めました。編集の仕事も好きなのですが、広く全般に最初から物語を創って行く製作の仕事が自分は好きです。

−−−父の作品のリメイクのオファーは多いとは思いますが日本で作ることになった経緯は?
現在、父の版権管理の窓口は私になっています。この作品も含めてリメイクしたいというオファーは来るのですが、実際には製作に至らないんですね。
今回、小椋プロデューサーは、『死刑台のエレベーター』を題材にどんな作品にしたいのかという構想が最初からはっきりと決まっていて、すっきりとした企画だったのでそれを信頼してリメイク権を与えました。
そして父の作品が50年経過して、日本の今のクリエイターたちに受け入れられリメイクされるという事実に対して、私はためらいを持つこと無く嬉しく思いました。

−−−日本版の『死刑台のエレベーター』を見ての感想は?
とても好きな作品に仕上がっています。映像はモダンで力強く、人物の複雑な感情も入り交じっているし、悲劇という部分でも深みもあり、いい作品になっています。
2006年に契約のために日本に来た時に、本作は横浜が舞台になっていますが、今日の日本を背景に新しい作品が出来ると自分が納得したので、今でもその時の気持ちを覚えています。オリジナル作品が作られた時はパリを舞台にちょうど過去と未来が交差する複雑な時代であり、それが50年後の日本でリメイクされることが感慨無量です。

−−−日本版の出演キャストに関しては?
小椋プロデューサーが常に企画がどんな状況なのかを逐次教えてくれたので、キャストが誰に決まったのかも知っていました。こちらから特にアドバイスするようなことは無かったです。素晴らしいキャスティングでした。

−−−ご自身でリメイクしたい気持ちはありますか?
まったく無いです。
あまりにも自分が作品に近い場所に居て、父の作品をリメイクしようという気持ちになったことは無いですね。他の人がやるべきです。また、この作品に関しては父の初の長篇映画でもありますし、近すぎてリメイクしようという気持ちにはなれないですね。

−−−現在製作中の昨品「三銃士」は3Dだそうですが今後増えていくと思いますか?
3Dは、すべての作品に使われるとは思いませんが、3D向きの作品とそうではない作品として今後は作られていくと思います。
70年代にズームレンズが登場したとき、それから10年くらいはズームを多用した作品が増えたと思います。一方ではさらに新しい技術も出てきました。3Dは今後も増えていくとは思いますが、この『死刑台のエレベーター』のようなストーリー性を重視し、感情移入させるような映画には、3Dは有効ではありません。3Dが必須になるような技術になるとは思えないですね。

−−−ご自身の次回作は?
今は製作中の「三銃士」(ポール・W・S・アンダーソン監督)で頭がいっぱいで、ルイ・マルの版権管理もあり、次のことを考える余裕がないですね。

−−−今後は、どのような映画を作っていきたいですか?
3D映画はまだまだ予算がかかるので、個人的には『死刑台のエレベーター』のような作品が好きですが、予算に合わせていろんな映画を作ってみたいと思っています。

−−−これから映画を見る方へのメッセージを
映画を見る人は、自分が見た映画をもっと回りに広めて欲しいですね。今の時代は、映画以外にもゲームなどのたくさんの娯楽があると思いますが、映画はその中でもひとつのアートなので、しかも大きなスクリーン、たくさんの方と一緒に見るという空間、マジカルな感覚は映画でしか味わえないので、その体験はもっと多くの方に伝えて欲しいですね。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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