セックスにまつわるあれやこれやを、ときにスラップスティックに、ときにブラックに、ときに情感たっぷりに描き出した、さそうあきらの原作コミックスを映画化。

出演は、比留間に『奈緒子』(07/古厩智之監督)『フレフレ少女』(08/渡辺謙作監督)『ホームレス中学生』(08/古厩智之監督)や最新作『蟹工船』が控える柄本時生。峯に『シャカリキ!』(08/堤幸彦監督)や大河ドラマ『篤姫』、ドラマ『VOICE〜命なき者の声〜』、『白い春』など出演中のD-BOYSの遠藤雄弥。安藤にこれが映画初出演となる劇団ロリータ男爵の草野イニをはじめ、『愛のむきだし』(08/園子温監督)、『罪とか罰とか』(09/ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督)などの若き実力派 安藤サクラ、グラビアで活躍する一方「キューティーハニー THE LIVE」『少年メリケンサック』(09/宮藤官九郎監督)への出演で演技へと幅を広げる水崎綾女、雑誌「nicola」のモデルとして人気を獲得し『闘茶』(08/ワン・イェミン監督)へも出演した三輪子などこれからの日本映画を担う若手俳優陣に、ダンカン、田口トモロヲをはじめとする個性派、実力派が顔を揃えた。

脚本には、『リンダリンダリンダ』(05)『松ケ根乱射事件』(06)(山下敦弘監督)や、夏に公開予定の『色即ぜねれいしょん』(田口トモロヲ監督)の脚本も担当した向井康介。撮影に、『ワンダフルライフ』(99)『歩いても歩いても』(08)(是枝裕和監督)の名カメラマン山崎裕。録音に『ユリイカ』(01/青山真治監督)などで独自の音世界を構築する菊池信之。編集に『ゆれる』(06/西川美和監督)『ハッピーフライト』(08/矢口史靖監督)などを手がけ、日本映画を支える宮島竜治が参加するなど、日本映画の至宝ともいうべきスタッフが終結した。

そして、銀杏BOYZ、初映画主題歌にして初カバー曲は、あの南沙織の名曲「17才」!!

これまで女の子を主人公に数多くの作品を生み出してきたタナダユキ監督が、童貞たちのモヤモヤとした感情をうまく描き出したことも注目だ。そんなタナダユキ監督にお話を伺った。



−−この題材をタナダ監督が撮ると聞いて、なるほどと納得したんですが、本人の意気込みはどうだったんですか。

「意気込みは前からあったんですけどね。皆さん原作は面白いと言ってくださるんですが、ただR指定などの問題で、お金を出してくれるところがなかなかなかったんです。数年を経て、ようやくここまで来たという感じですね」

−−先ほどなるほどと言ったのも、タナダさんの追い求めているテーマがお金だったり性的なものが多かったからなんです。そういう意味ではこの作品に必然性みたいなものを感じたんじゃないでしょうか。

「映画を作るにあたっては、人さまの人生を描くわけですからね。『赤い文化住宅の初子』だったら経済的な事情、『俺たちに明日はないッス』だったら、性のことだったりと。それらは避けて通れないわけです。
 でもだからと言って、それをそのまま描きたいわけではないんですよ。むしろそれらにまつわる人の感情ですよね。『俺たち〜』に関しては、童貞を捨てたいと思ってる男の子たちの翻弄される気持ち、繊細な気持ちを描きたいと思ったんです」

−−この映画を観ていて、童貞に対する描写がリアルだなと思いました。女性であるタナダ監督がどうして童貞の気持ちがこんなに分かるのかと不思議に思ったんですが。

「それはやはり原作がしっかりと描かれていたからではないでしょうか? 学生時代には気付かなかったような男の子の繊細な気持ちや、どうしようもないんだけど、一生懸命な部分など、原作に惹かれた部分が大きかったですからね。今となっては本当に気付かなくてごめんねという気持ちもあるんですが(笑)」

−−今までご自身で脚本を書いてきたタナダ監督ですが、今回は脚本には関わってませんね。

「いくら原作が好きだといっても、私自身が女なので分からない部分もたくさんあるだろうなとは思っていたんです。そこで男性の脚本家である向井さん(=『リンダリンダリンダ』などの向井康介)にお願いしたんですけど、出来あがった脚本がとても面白かったんです。だからこそ、17歳という不安定な年齢の男の子たちの感情の動きを、きちんと丁寧に撮らなくてはいけないなと思いましたね」

−−そういえばこれまでタナダ監督が描いてきたのは女の子が多かったですよね。

「前から男の子のこと、異性のことも描けるようになりたいなと思っていたんです。今回それが出来たかどうかは別として、女だからこそ、より一生懸命撮らなくてはいけないと。
 今までどんなタイプの作品を撮っても、女性監督ならではの、といった書かれ方をしてきたので、これでも書けるものなら書いてみろ、という思いもあります(笑)」

−−脚本を自分で用意しなくてもいい状態というのはどういう気分でした?

「楽しいですね(笑)。以前にドラマではそういう経験があって、映画に関しては初めてだったんですが、どちらも自分が面白い作品を書くと思える脚本家の方にお願いしましたからね。自分の中でモヤモヤとしたことが具体的な文字となって返ってくるという。この面白さはなかなかないですよね」

−−たまたまかもしれませんが、『神童』『コドモのコドモ』に続き、『俺たち〜』と、さそうあきらさんの漫画が次々と映画化されています。彼の作品を映画化したいという魅力は何なのでしょうか。

「台詞がぎっしりと書かれているような漫画ではないんですが、その余白の部分に情感が詰まっているんですよね。さそう先生の漫画を読むと、映画にしたくなるんだと思います。もちろんその余白の部分を映画化するという作業はものすごく難しい作業ではあるんですけども、挑戦したくなるんですよね」

−−その余白を映画化するということに挑戦してみて、うまくいった点などは?

「うまくいったかどうかは自分では分からないんですが、さそう先生独特の画があるので、あれには最初は悩みましたね。生身の人間がやるとあの乾いた感じは出せないですからね。あれは漫画ならではですよね」

−−漫画から実写への変換作業において、どういう点を重視されたんですか?

「実際に演じているのが10代から20代の人たちだったんで、若い彼らの息使いを汲み取れたらと。もちろん男の子のエッセンスや、女の子のサバサバした感じは漫画から受け取ったものではあるんですが、やはりこれは映画なので、彼らの息使いがもう少し生々しくてもいいんじゃないかと思いました」

−−キャスティングが絶妙でした。特に素晴らしかったのが、安藤君を演じた草野イニさん。彼はどうやって見つけたんですか?

「オーディションです。太った体形の人をたくさん集めて(笑)。彼のたたずまいが良かったんですよ。下手に何かをやろうとしないところも。やはりオーディションに来る人って何かをアピールしようとするんですけど、彼はそういうのがなくて。お芝居も安定していて、うまかったですしね」

−−女の子にキスされている時のカチカチになった表情とか、いったいこの俳優さんは誰なんだろうと思いましたね。

「でも彼は主要キャスト6人の中では最年長なんですよ(笑)。撮影当時は確か28歳でした。柄本(時生)君と10くらい違うはずなんで。草野君だけを見てると高校生もいけるかなと思うんですけど、実際に若い人たちと並ぶと、大丈夫かなという声もあがったのは事実です。でもやってみたら案外大丈夫でしたね」



−−タナダ監督の映画はいつもエンディングが印象的です。以前のタナダ監督のインタビューを読むと、「絶対にハッピーエンディングにしてたまるか」といったコメントをしていたと思うんですが。

「どれだけ病んでいるんでしょうね(笑)」

−−今回もほろ苦いエンディングでしたけど、ハッピーエンディングは嫌いなんですか?

「嫌いということもないんですが、たとえばふたりがうまくいきましたということで終わっても、その先の方が気になるんですよ。本当に死ぬ間際に幸せだったと思えた人以外、この世にハッピーエンドなんてないと思っているので。
 たとえば結婚して幸せだという終わり方をしたとしても、その後の方が大変に決まってますよね(笑)。
それを思うと、自分が監督する映画では描きづらいなと思ってしまうんです。もちろんそういう映画はあってしかるべきなんですけど、いざ自分が監督するとなると、誰が見てもわかる「めでたし、めでたし」はしっくりこない。どんな状況だろうと主人公自身が納得して受け入れて自分で一歩を踏み出すことが、自分が監督する映画においての「めでたし」だとは思ってますが。」

−−やはりそれは生理的なものなんですかね?

「この登場人物たちはもちろん架空の人生なんですけど、たとえばこの映画で切り取った時間よりも、それ以上の時間を過ごすわけですから、ここを人生のマックスにしちゃいけないでしょ、と。もっといろんな経験をして、新しく見つけ出さなきゃいけないと思うんです。何となくハッピーエンドというものを疑ってしまうんですよ。その時は最高に幸せでも、その後に続くはるかにつまらない日常とも向き合っていかなければいけないというわけなので、それを思うと描きづらいですね」

−−それにしても銀杏BOYZの主題歌「17歳」がハマリ過ぎですね。

「南沙織さんの曲で、森高千里さんがカバーしたわけですけど、今まで女性の方が歌ってきた曲を男性が歌うとどうなるんだろうと思ったんですよ。比留間が自分の一歩を踏み出すときに、男の人の声で、『17歳』を聞いてみたいなと。この比留間の焦燥感だったり、モヤモヤした気持だったりを、そして繊細な気持や、くだらなくてバカバカしいんだけど、それでも真っ正直な気持ちなんかを歌いこなせるバンドというと銀杏BOYZしか思い浮かばなかったんですよね」

−−銀杏BOYZにリクエストはされたんですか?

「いえ、好きなようになやってくださいとお願いしました。でもあんなにカッコいいギターから始まるとは思ってなくて。始めて聴いたときは感激してしまって、食事が何ものどを通らなかったんです。すごい曲が出来て、怖くなりました。世の中には名曲がいろいろありますけど、その名曲が生まれた瞬間に誰よりも早く触れたということで、やはり鳥肌がたちますよね」

−−では最後にタナダ監督が思う童貞の魅力について教えてください。

「そうですね…。こちらが想像も及ばないほどの妄想力というか、一生懸命向き合おうとしているのに、いざ女の子の前に立つと向き合えないというその矛盾が愛おしいんですかね」

−−みんなロマンチストなんですよね。

「そうそう、そうなんですよ。比留間にしても初めての時にわざわざ海辺のホテルに行こうとするし。お金がないというのが何とも哀しいんですけども(笑)。
安藤にしてもね、あんなに可愛い女の子に言い寄られてラッキーじゃないですか。でもカラダより気持ちを求めてしまうというね。現実にうまく折り合いをつけられないさすらいのロマンチスト、といったところでしょうか?(笑)」

執筆者

壬生智裕

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