ニューヨークでの仕事に追われる毎日に嫌気がさし、二年半ぶりに日本に帰ってきたミハル。そんな彼女を待っていたのは、一緒になれると期待を残したまま別れた昔の彼氏の訃報だった。ミハルは彼の影を追い、墓参りをするため彼の故郷へとバイクを走らせた。あのヒトが好きだった8ミリカメラ。その映像が移り変わる景色と共にフラッシュバックする。道中待っている個性豊かな人々との出会い、景色。

 久しぶりのバイクで感覚がまだ戻っていない為、ミハルは運転を誤り草むらに投げ出されてしまう。そんな時に出会った一人の男。男が乗っているバイクは昔の彼氏と同じもの。しかもその男の手には8ミリカメラが…。

撮影監督にフォトグラファーとしても名高い桐島ローランドを迎え、淡く切ないロードムービーとなっている。今回は1995年の『となりのボブ・マーリー』以来、14年ぶりの映画監督作となる俳優の大鶴義丹さんにお話を伺った。







ーーどのような経緯でこの作品は生まれたのでしょうか?

「監督をやらないかということで、コンペというか、企画を提出する機会があって。3つ出したうちのひとつがこの話だったんです。あとのふたつは、ひとつが東南アジアのバックパッカーの話で、もうひとつは沖縄の話でした。ふたつともある程度は脚本にはしているので、それはまた別の機会に世に出せればいいなと思っています」

ーーこの映画のモチーフは?

「旅の映画を作りたいという気持ちがあったんですね。バイクが好きだということもあって。ビジュアル的なところから、華奢な身体の女性が、身体ひとつでバイクに乗って旅に出るという映像が浮かんだんですよ。まずはビジュアルありきということで」

ーー脚本協力に女性の方のクレジットがあったようですが、それはやはり女性が主人公だからということですか?

「そうですね。男が書くと、グズグズと台詞を喋らせてしまうんですが、男と違って女性の方がぐずぐず書かないんですよ。」

ーーそれは面白いですね。

「よくガールズトークとか言いますけど、女性はケーキ屋の話とか、男にはよく分からないことで3時間も4時間も喋れたりするじゃないですか。男からすると無駄なことを喋ってるなと思うんだけど、逆に言えば、ゲーム機もパソコンも何もないところに、言葉だけで3時間楽しめちゃうくらい言語中枢が高いということなんですよね。
 だから、そういう言語中枢が高い女性に台詞を切る作業を手伝ってもらったということです。台詞はかなり短くなりましたね」

ーー今回は監督に専念されてますが、ご自身が出ようとは思わなかったんですか?

「まったく思わなかったですね。カメラの外側と内側を行ったり来たり出来る人もいるんですけど、僕は出来ないですね。自分の髪型を気にしたり、説得力のある顔で写っているかなとか考えちゃうと、カメラの後ろには戻れなくなりますね」

ーー桐島ローランドさんが撮影監督というのは意外でした。

「ドラマの撮影は始めてですからね」

ーー桐島さんとはどのようなコンビなんでしょうか?

「僕は文章から始まっているんで、基本的にビジュアルじゃなくて情念の側なんですよ。だから映画的な手法としては観客には不親切かもしれないけど、この気持ちを伝えたいんだ。ということがある。でもビジュアルの専門家である彼は、そんなことよりも、綺麗な画を撮りたいんだと。もちろん彼も映画だということは分かった上ですけどね。逆に僕の方が出過ぎると泥臭くなってしまうんで、そこらへんはいいバランスですね」

ーーこの作品は1995年の『となりのボブ・マーリー』以来。久しぶりの監督作です。映画を作りたいという気持ちはずっとあったのでしょうか?

「5〜6年撮れない時期があって、あきらめかけてた時期もありますね。そういう話が次々と来るようになったのは、ここ3、4年くらいですね。それは年齢的なこともあるかもしれません」

ーー今は映画を作りたくてしょうがないという感じですか?

「そうですね。先日も桐島ローランドと、プロの役者を使って短編作品を撮っていました。面白いものが近いうちに発表できそうです」

ーー桐島さんとのコンビも続いているということで。

「今年の夏前にもこれに続いてもう一本、一緒に長編を撮ることが決まっています。原作がある映画なんですが、怖い映画になります」

ーーバイク好きな大鶴さんと桐島ローランドさんがコンビを組むと聞いて、バイクに対するフェティシズム的な映像になるのかと思ったんですが、意外にと言いますか、そういう面は抑えられていました。

「マニアックなバイク映画にはしたくなかったんですよ。出てくるバイクも、走り屋が好きそうなマニアックなものじゃないですし。
 登場人物が救われたり、再生するときに、たまたまそばにバイクがいたという感じでにしたかったんですね。だからメカニカルな部分というのは、そぎ落としていきましたね。実はそういうのは万人受けするものじゃなくて、それはたまたま俺が好きだからやってるだけであって、馬力がどうしたとか、タイヤがどうとかそんなのどうでもいいんですよね。とにかく天気がいい日に走り出せば感じることがあるんですよね」

執筆者

壬生 智裕

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