<新宿バルト9リバイバル上映&5/28DVD発売記念!>再録『SRサイタマノラッパー』入江悠監督インタビュー
2009年3月に池袋シネマロサでの劇場公開を皮切りに、小規模公開ながらその内容の新しさで、映画ファンの間で大きな話題となり、約1年間に渡り全国各地で上映されつづけてきた映画『SRサイタマノラッパー』。入江悠監督が第50回日本映画監督協会の新人賞を受賞するなど日本映画界にまさに新風を吹き込んだといえる本作は、現在新宿バルト9にて4回目となるリバイバル上映中。5月28日にはDVD発売も決定しており、劇場で鑑賞する本当に最後の機会になりそうだ。
そんな本作のこの1年の活躍ぶりを記念して、昨年3月に行なわれたインタビューを再録いたします。
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ゆうばり映画祭の名物コンペ、自主映画の登竜門<ファンタスティック・オフシアター・コンペティション>で過去最高の302本の応募作品の中からグランプリに輝いた入江悠監督の映画『SR サイタマノラッパー』。(2009年3月2日)
レコード屋もなくあるのは軽トラとブロッコリー畑ばかりの田舎で、ヒップホップに憧れライブを夢見る若者ラッパーたちの姿を描いている本作は、ニートなくせに本当に自分がラップで何を表現したいのかすらわかってないダメダメな主人公IKKUや、おっぱいパブで働く気弱な親友TOM、家業のブロッコリー栽培に精を出すやたら威勢だけよいMIGHTYなど、強気でかっこいいラッパー像ではなく、どちらかというと頼りなくイケてない登場人物たちが、ひらすら純粋に、愚直なまでに夢を描く姿が共感を呼ぶ。単なる題材としてのヒップホップの好き嫌いを超えて、誰もが感じたことのある自己表現のあがきや仲間の絆を描いた普遍的かつ新しいタイプの青春映画になっている。
地元・埼玉県深谷市を舞台にすえたこの作品で、入江悠監督は自身のすべてを賭けていた。「映画制作に対して迷いのある時期もあった。この映画がダメだったら映画監督やめてもいいと思ってた。最後の映画になるかもしれないから、昔から好きだったヒップホップを映画でやろうと思った。」(入江)。楽曲もすべてオリジナルで制作し、ラッパーを演じた役者たちは猛特訓でラップを練習した。
今では劇中のヒップホップクルー“SHO-GUNG”としてサントラCDを発売し、渋谷のクラブのリアルヒップホップイベントにもラッパーとして出演し、ユー・ザ・ロック★やライムスターの宇多丸など本職のラッパーたちからも絶賛されるなど、先輩ラッパーからの強烈なフックアップを受け、映画の続きが現実で繰り広げられんばかりの勢いで埼京線から“上京中”。
ゆうばり受賞後の最高のタイミングで劇場公開されるや、初日過去最高の観客動員を記録し、当初2週間限定だった公開が1週間延長された。今後名古屋、札幌など全国での上映も続々と決定しているほか、韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭からも招待を受け、まさに埼玉からゆうばり経由で世界に羽ばたこうとしている。
東京での上映は一旦4月3日で終了するが上映するたびに熱狂的なファンを増やしているだけに今後も何かミラクルな出来事が展開していきそうな、そんな可能性がこの映画にはたくさんつまっている。
ただ単にヒップホップを題材にしただけではなく、ドラマとラップがきちんと結びついてひとつの映画表現になっていますね。
「ラップって極端な話、楽器もいらないし、コール&レスポンスで誰でもできるから、芝居と陸つづきにいけるなと思ったんです。最もプリミティグにできちゃうんですよね。例えばこれがミュージカルだったら、どんなに盛り上がっても歌でいったんストーリーが止まるじゃないですか。キャラクター性も含めてストーリーを止めないでいけるようなことがラップではできる。
あと『8mile』のラップは“サクセスストーリー”って部分で『ロッキー』にも置き換えられるんですけど、“青春映画”っていう枠の中で、“ヒップホップ”じゃなくて、“野球”だったり、別のスポーツでも成立してしまうような映画にはしたくないと思ってました。“ヒップホップ”じゃなきゃ、“日本語ラップ”じゃなきゃ表現できない映画にしなきゃ意味がなかったんです。
なぜヒップホップを選んだかとゆうと、実際は単なる僕の趣味も大きいんですけど。でも今の日本語ラップで頑張ってる方たちは、もしかしたら歌番組で流れているJポップよりも表現を深く考えているような気もします。音楽番組の音を消してテロップで歌詞だけ見ると、どんなに売れているバンドでもすごいこっぱずかしい歌詞だったりしますよ。」
−−主人公たちの愛すべきダメさが、どこか自分に近い部分を探せるから共感できる所と、「ヒップホップが大好き」な主人公たちと、反対にまったく温度差のある周囲の人たちの両方の視点があって、それのギャップをギャグとして成立させることで、ヒップホップに興味がない観客にも納得できるストーリーとして魅力を広げていると思います。
「そうですね、その両方のバランスはすごく意識しました。元はアメリカで生まれた文化だから、日本でヒップホップをやること自体そもそも矛盾がある。日本でそれを描くとしたら、ただヒップホップはかっこいいよ、楽しいよ、っていうだけじゃなくその根底にある“矛盾”や“ダサさ”も描いていかなきゃ嘘になっちゃうし伝わらないと思って。だから最初は怖かったんですよ。ヒップホップを本当にやっている人たちから“バカにしてるのか?”とか思われるのも嫌だし。でも自分が憧れてたラッパーの方たちが観て下さって「良かったよ」て言ってもらえて涙が出るほどうれしかったです。」
—— 主人公たちが市役所の大人たちの前でパフォーマンスさせられるシーンをああいう風に撮ったのはすごい効果的でしたね。あとゆうばり映画祭でもラストシーンが話題になりましたね。長まわしの撮影手法がどちらも効果的でしたけど、なにもすべてのシーンをワンシーンワンカットで撮影しなくてもよいのでは?という意見もでましたがこだわったのはなぜですか?
「「カットは割らない」ことを心の枷として最初から決めてたんです。だからこそ市役所のシーンやラストのあのシーンが撮れたんです。ヒップホップが題材だからこそワンカットでいこうと。スパイク・リー監督とか『8mile』みたく、カットを割りだしたらもう向こうの映画には絶対かなわないし。あとはカットを割ってしまうとサイタマ感がでないんですよ、停滞しているダラダラした感じが(笑)。」
−−ファミレスやラブホのネオンでキラキラした国道を主人公たちがヒップホップがんがん流しながらドライブしている冒頭シーンも印象的です。地方都市の一番派手な国道ってみんなあんな感じで共通してるところがありますよね。
「最近どこいっても地方の風景って似てきていますよね。“サイタマ化”って僕は勝手に呼んでるんですけど。住んでる人たちにとっては便利なんだろうけど、地元に帰る身からすればすごく寂しいものがある。そういうのって国道にわかりやすく現れますよね。地元の深谷市で上映した時には、ラスベガスみたいだって指摘されました。主人公たちが憧れているアメリカの華やかなストリートのイメージに重なるみたいな。」
−−そもそも“サイタマ”という自分のローカリティに根ざしたところから映画を発してるからリアリティがあるし力強い説得力がある。それでいて普遍的な物語になっているから多くの人に「伝わる」。
「この映画を作り始めた動機がカッチリしてるから、迷ってもいつもそこに戻ればいいやって思えました。劇場公開も決まってなくて、誰に見せるの?って状況からのスタートだったんですけど。スタッフも最初は3人で。でもいっぱい人が入ってきたりお金がついたりすると色々口出されて全然違うものになっていきそうだけど、極力そういのは避けました。その代わり自分で色んなスケジュールを作らなきゃいけないから大変でしたけど。でも全部自分がやりたいことをやってる映画だから、これで駄目だったらもう誰のせいにもできないし言い訳できないですから。」
−−地元に戻ってきた元AV女優の同級生のヒロイン役のみひろさんも好演でした。彼女の女優人生のドキュメント的要素も入っているかのようなキャラクター設定ですよね。彼女にとっても女優として認められるステップアップの作品になったのでは?
「そういっていただけると有難いです。普通の役者さんがあの役をやるのは、ちょっと違和感があって、ちゃんと理解している人に演じてほしいなと思っていました。みひろさんとは以前Vシネで一緒に仕事させていただいたいて、AVの仕事をしていると偏見をもたれることも多いと思うんですけど、すごく頭が良くて気遣いもあっていい子なんですよ。「彼女は引退したらどういう生き方するのかな?」と思ってて、それを彼女に言葉で直接聞けばよかったのかもしれないけど、そうじゃない形で聞きたかったというか…。『おばあちゃんになっても必要とされるような女優になりたい』ってこの映画のインタビューで言っていたのを聞いて、そこまでちゃんと役者として覚悟があるんだなって、それが聞けてすごく嬉しかったですね。」
−−ゆうばりグランプリの副賞の次回作制作支援費200万円で、来年の映画祭で上映する新作を作ることになりましたが、もう企画は考えているんですか?
「企画はたくさんあるんですけどまだネタっていう段階です。日本語ラップをもっと突き詰めた題材で本格的にやってみたいという思いもあるし、埼玉だけじゃなく群馬や栃木とか北関東という土地にも興味があるんです。北関東の中途半端なところの気持ち悪さにこだわっていきたい。あとみひろさんが演じたヒロイン・千夏の視点でのストーリーもずっと考えてるんですよ。『サイタマノラッパー』の主人公たちは東京なのかなんなのか夢に向かってこれから討って出ようとしている、始まろうとしてるけど、同級生の千夏は、夢なのか青春なのかわからないけど、すでに何かひとつの季節が終わった人で、その続きの物語を描いてみたいですね。」
−−全部のネタがどこかつながってますね。監督にとって『サイタマノラッパー』ってこれからのサーガのまだ第一編なのかもしれないですね。
「『サイタマノラッパー』が完成した時点では実はいろんなことを諦めてたんです。こんなに楽しい撮影ができたんだから、このあと5年くらい映画作れなくたっていいやと思えたし。だからこんなに早く次回作が撮れて、来年も夕張に行けるってことだけですごい嬉しいんですよ。」
★入江監督が本インタビューで抱負を語っていた次回作は、映画『SRサイタマノラッパー2〜女子ラッパー★傷だらけのライム〜』として今年の2月に完成!6月26日より新宿バルト9での劇場公開が決定。
埼玉のラッパー VS 群馬の女子ラッパー軍団という北関東を舞台にした超ローカルなヒップホップ対決が描かれます!『サイタマノラッパー』をまだ見てなくても、どちらを先に見ても楽しめるつくりになってますので、こちらも是非お楽しみに!!
執筆者
綿野かおり
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