今週末、白石晃士の監督作品が合計3本同時公開される。先日閉幕したゆうばり国際ファンタスティック映画祭でもミッドナイト上映され話題となった新感覚ホラー『オカルト』、AKB48の大島優子や山崎真実、仲村みうなど旬のアイドルたちを起用し学園ホラーの体裁で、都市伝説のなかでも最強のキャラクター・テケテケをクリーチャー物として表現した『テケテケ』『テケテケ2』。
同じホラー、スリラーのファンタ系映画でありながらまったく異なるアプローチで描かれる作品だが、どこか共通しているのは“非現実的な世界を観客に見せ、楽しませたい”という監督白石の「サービス精神」の姿勢だ。





——スプラッターホラー『グロテスク』を1月に公開したばかりで、今回『テケテケ』『テケテケ2』、『オカルト』と怒涛の公開ラッシュですが制作はどうでしたか?
「そうですね。去年の6月から12月下旬までは1日たりとも休まずに働いてて、まず『グロテスク』の撮影があって、『オカルト』の撮影があって、すぐ『テケテケ』の撮影があったのですけれども。それぞれ仕上げの時期が全部かぶってて大変でしたね。」

—— 都市伝説ものは以前も『口裂け女』で手がけていますね。今回の『テケテケ』では比較的早い段階で観客にテケテケの実像が出現しますが、存在を見せずに雰囲気だけでも十分ひっぱれたと思いますが、一種のクリーチャー物としてテケテケの動きやアクションを見せる演出でしたね。
「なるべくテケテケを見せないで、雰囲気や音で怖がらせていくのもいいんじゃないかという案もあったんですが、“見せる”ことによる怖がらせて楽しませるって方法を選びました。雰囲気だけで見せる手法ってJホラーの最たる特徴ですが個人的にはそういうのはあまり好みではないんです。あと造形の西村(喜廣)さんやCGの鹿角(剛司)さんがいたのでその存在も大きかったですね。」

—— 見せる方向での“サービス精神”ですね。サービス精神という部分は『オカルト』にも共通していえると思います。そういう意味でも“Jホラー”というのとは異なったホラーの方法論ですね。
「見せて楽しんでもらうというのが、もともとの自分の好みっていうのありますね。それにそんなに日本のホラー映画って好きじゃないんですよ。『吸血鬼ゴケミドロ』だけは好きですけど(笑)。幽霊かなにかわからないものがチラッと見えて、ふっと見たらいなくなってて、みたいな手法は洗練されているとは思いますけど、好みには合わないんです。それなら『遊星からの物体X』のように、ばんばんクリーチャーは出すけれど、ものすごく大事なところはみせないっていう作り方のほうが好きで、ロメロの『ゾンビ』とか。僕にとっては、やっとこういうことが出来たなと思ってるところです。今までそういうのを抑えられていたかもしれないです。」

—— なるほど、テケテケを映画にするんだったら「見たい!」よね、て観客の心もありますよね。造形はどこからアイデアを?
「西村さんのアイディアが大きいですね。テケテケは“北海道の雪の中で真っ二つにされてしばらく歩いてた”て噂もあるんですけど、そこから西村さんがツララが体におりているようなアイデアもあったんですよ。ただ動きづらいのでちょっと凍りついているような雰囲気だけ残して鱗のような氷を表面につけてて、霜が降りたような感じになりました。西村さんは漫画家の永井豪さんの世界が好きなので、漫画的なキャラクターになってしまうので、もうすこしパッと見、かっこいいというよりは怖い感じになるように手直ししてもらいましたね。あと下半身はCGで消していたり、3DCGをカットごとに使い分けています。テケテケを見せたいのは山々ですが、大きく見せてしまうとCGぽさが出てしまったりするので難しかったですけど。」

——『2』になると、どうすればテケテケの魔の手を逃れられるか?ゲーム感覚というか“そんなのあり!?”みたいな展開になってきてて笑ってしまいましたが、そんな部分もお客さんに向けて意識してるところがあるんじゃないでしょうか?
「恐怖と笑いは紙一重といいますけど。海外のホラーって、“ギャグ”とはいかないまでも結構ユーモアをおり混ぜてますよね。そういう部分を2本通して少しづつ入れてみたいと思ってて。1から10までシリアス、ではなくちょっと笑っちゃうような要素もあったほうが、ホラーの面白さを出せると元々思ってたんです。ホラーの世界って、どんなに完璧に構築していっても、どこかハタから見てみると笑っちゃうようなところがあるものなんですよ。ホラー映画自体つくりものの世界なんだよっていう、見終わったら「まぁまぁ面白い、作り物だったね」っていう風に楽しんで欲しいですね。笑っちゃうって言うのは、イコール“作り物だった”っていう自覚ができるということだと思うんで。かといってあまりにも、あからさまにやると、おふざけになってしまうので。ぼくはおふざけだけなのは嫌いなので、観る人がみれば、怖いものだとみれるし、結構笑っちゃう要素を持っていると…まぁ、そういうものにしたいとおもいますね。

——以前の『ノロイ』よりも前からモキュメンタリーの手法で作品は作られていますが、『オカルト』はそれよりも更に進化した作品世界にたどり着いていますね。
「僕はもともと、自主映画でフェイクドキュメンタリーというのをつくったりしていた時から、冒頭「これはドキュメンタリーの方式をとった、嘘八百の物語である。」と“これは嘘です”ということを提示してから、話を語る手法をとってるんですが、ドキュメンタリーとはあくまでも単なる手法なので、だからそれに内容が絞られてしまうのはばかばかしいと思うんです。だから、『オカルト』も僕としては最初から単にドラマのつもりで作っているだけで、内容自体は手法に縛られることなく、本当に自分が見せたいストーリーを作っているんですよ。

——監督と主人公である被写体との距離がどんどん縮まってゆく様は一種の男の友情物でもあるし、かといえばクライマックスは驚愕のスペクタクルをドンと持ってきていたり。モキュメンタリーの手法をとることで、観客は地つなぎの日常世界の感じを持ちながら、非現実的なドラマがどんどん不吉に進行していく様が素晴らしいと思います。被写体である主人公が日雇い派遣労働者って言うのも、今の一番世の中の人々が不安に感じている象徴的な存在でもありますよね。そういう部分でのリアルな不安みたいな部分もドラマを作る上で意識的に取り入れたことなんですか?
「そうですね、割と最初からネットカフェ難民で、派遣で食いつないでるって設定はしていました。そこから自然にストーリーが派生していったんです。去年撮影してたんですが、これは“僕が感じた2008年の日本の状況”を描いています。僕が思っていることを、足元におきながら、僕の好きな異世界の存在に触れていく、まぁ平たく言えば、『未知との遭遇』のような物語をつくりたいと。『未知との遭遇』の主人公が乗っていた宇宙船のその先の世界がどうなってたかを昔から描きたいなと思ってました。古今東西でも優れたホラーというのは、やはりそのときの現実世界の状況を、デフォルメして表現されているものも多いですよね。そういう大それた意識はなかったですけど、その系譜に則った作品になったのではないかと、自分なりには思っています。

—— 監督が今後挑戦してみたいこと、やってみたいことは?
「一応今後新作では、バイオレンスのフェイクドキュメンタリーを準備しています。バイオレンスものは自分は自主映画時代ではあるのですが、仕事としては今までは作ったことがないんです。自由度が高い場合は、ユーモアの要素をいれたいなと。僕はもともと笑っちゃうようなものが好きなので、コメディとまではいかないですけど、ユーモアのはいった作品を作り続けたいと思ってます。ホラーって言うのはそういうものがあからさまにならないように、隠しているだけで、実は全部ユーモアが入っている作品になっていると思います。」

執筆者

綿野かおり

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