「週刊少年ジャンプ」を代表するギャグ漫画であり、8年間に渡り連載を続ける「ピューと吹く!ジャガー」が、08年『秘密結社 鷹の爪』で大ヒットしたFlashアニメ界のトップランナー、FROGMAN(蛙男商会)の手により映画化!
主人公・ジャガージュン市と、ふえ課のメンバーは、ひょんな事から異世界のアルト王女の頼みで伝説の笛を探しに行く事に・・・。
王女が闇の世界の住人(闇人)に追われる理由とは?果たして元の世界に戻れるのか?
独自の世界観を持つうすた京介ワールドが、王道の冒険ストーリーを押さえつつ、蛙男商会と奇跡の融合を果たした。
声優は、大物声優・藤原啓治、そして今をときめく女優・真木よう子、伊武雅刀という豪華な面々。
伊武雅刀はこの『ピューと吹く!ジャガー 〜いま、吹きにゆきます〜』で、アルト王女の従者・ステンベルゲン役の声優を務めている。
これまで数々の映画・ドラマなどに出演し、アニメの声優としても活動。
「スネークマンショー」のメンバーとしても知られ、2月25日にはDVD『スネークマンショー 楽しいテレビ』が発売される。
ある時はシュールなコントを織り成し、ある時は全身仮面に覆われた忠誠心高き従者を演じ、いつ何時を切り取ろうとも一言では表現できない存在感を放つ伊武雅刀。
その心中についてお話を伺った。




——この作品に出演なさろうとした経緯とは?

「突然、FROGMANさんの方からお話があり、元々FROGMANさんの作品を観て“なかなか面白い人がいるな”と思っていたので、引き受けさせて頂きました。」

——原作については?

「読んだ事はありません。この作品の完成版も未だに観ていないので、どういうものになっているのか全くわからないんです。」

——FROGMANさんとはお会いしたのですか?

「録音前に30分ぐらい、小さい缶ビール片手に二人だけで少しお話はさせて頂きましたね。」

——FROGMANさんの作品タイトル『ザ・フロッグマンショー』の由来は、スネークマンショーが元だそうですが、自分がしてきた事がこうして影響しているという事に関してはどう思われますか?

「彼自身はスネークマンショーに興味があったのかもしれないけれど、彼自身の笑いとスネークマンショーの笑いとは、また違うものだと思います。彼独特のものですからね。
彼も、“スネークマンショーとはまた別な気がする”とおっしゃっていました。」

——FROGMANさんから、役を演じるにあたっての指示などはあったのでしょうか

「取り立てては特にありませんでした。最初は台本に「ア=ボク=ボス=デス」と書いてあったので、その役なんだろうと思っていたら、FROGMANさんの方からやっぱりステンベルゲンでお願いします、と変更がありました。
ステンベルゲンというのは、全身が鎧に覆われていて目がでない役で、板東英二さんは本人そのままの役なので「いいなぁ板東さんは」と思ったりしましたね。」

——観客の方は、そんなステンベルゲン役を伊武さんが演じているという事だけで既に面白いと感じると思うのですが、そのあたりの意識は

「どうなんでしょうね、僕は一人で録音していたので、周りがどういう感じでやっていたのかわからなかったですね。
登場人物がこれだけ出ている割には孤独な作業でしたね。真木よう子さんも『ゆれる』以来の共演でしたが、今回はお会いしませんでした。」

——伊武さんから見て、この主人公のジャガーさんを一言で言い表すなら?

「観てないからわからないんだけど、見た目だけの印象で言うならば“星の王子様”みたいですよね。最初に見た時に、一瞬“これは星の王子様が年をとったキャラクターなのかなぁ”と思ったんだけどね。
どこまでとぼけていて、どこまで本気なのかわからなくて、面白いですね。」

——伊武さんが、スネークマンショーで真顔でいたって真面目に笑いを起こす事をするのと、このジャガーさんの“どこまでとぼけていて、どこまで本気なのかわからなくて、面白い”というのは相通じるのではないかと思ったのですが

「ああ、そうですね。その通りですね。
いや、笑いというのは、笑わそうとしたり、笑いながらやったり、自分が意識してやろうと思うのは相手に通じないなと思っているタイプなんですよ。
人間のおかしさというのは、真面目な行動だったり、日常のちょっとしたところにおかしさがある、そういうところが好きなんですよね。
例えば、ニュースキャスターが真剣な顔でニュースを読んでいたとしても、風が強いと髪を直していたりするじゃないですか。そういう場面を見ると「それ今気にしてる場合じゃないだろお前!」と思うんですよね(笑)
そういう人間の内面にあるおかしさですよね。」

——本編を観ていらっしゃらないという事ですが、この登場人物一覧図をご覧になって、一番おいしい、やってみたいと思われるキャラクターは?

「ジャガーさんですね。彼が一番おいしいんじゃないでしょうか。
ア=ボク=ボス=デスだけは絶対やりたくないですよね、あと板東さんも(笑)」

——『スネークマンショー』のDVDには今回、新たに撮りおろされた特典映像も入っているという事ですが

「あれは予算があまりなかったんですよ。もう少しクオリティの高いものを作る予定だったのですが、当初の予算の10分の1になってしまいましたね。」

——過去の映像は今回ご覧になったのでしょうか?

「観ましたね、恥ずかしかったですね、し烈な部分が多々あり。
出演しているメンバーも、素敵な人たちで、今でも皆生き残っていますからね。
そういう意味では、このタイミングで世に問うというのもいいのではないかなと思います。
何よりあの頃は若かったですしね。今は皆そろそろ老齢に達するようなところに差し掛かりますよね。」

——過去の映像を観ていて、当時だからできた事、今だからできそうだと思う事はありますか?

「やろうと思えば今でもできると思いますが、青春とか、若い時の興味の持ち方と、この年の興味の持ち方とは、ちょっとまた違ってくるんですよね。
同じ題材をやっても、今の時代背景ではないし、今やったらこうはならないなというのものは出てくると思いますね。」

——伊武さんがニュースキャスター役を務め、自殺の実行現場の現場リポートを淡々と聞くというコントがありましたが

「今だったらあのコントも違うものになりますよね。今は自殺よりももっと悲惨な事件の方が多いですよね。」

——公式HPでは、トップページから伊武さんが馬に乗ったりカブトをかぶったりしているコラージュ写真や絵など、様々な伊武さんが登場する仕掛けがありますが、あれは何がきっかけであのようになったのでしょうか

「AC部というデザイングループに“イメージ通りに好き勝手に何でもやって”と言ったらああなりました。」

——あのHPでもそうですが、面白い顔をしているという事ではなくて、真顔で佇んでいらっしゃる伊武さんに対して、受け手があれこれ勝手に面白いイメージを抱くという事が多いと思います。伊武さんは元々、何か具体的に“こういう人になろう”というイメージは持っていらっしゃったのでしょうか?

「そういう目標というようなものはなかったですね。目指しているところは、正統派というものではないんですよね。
例えば、街を歩いていると“一本裏道が好き”とかですね。“よく皆が行くおいしいレストランは、別に行きたくないな”とか、おじいちゃんとおばあちゃん達が自分でやっていて、おいしいレストランとほぼ同等の味の店を見つけた時が嬉しい、とか。
あと、真面目な役が続くと壊したくなる、とかですね。」

——何か影響を受けた人物、本、映画、その他作品などは?

「影響を受けたというか、凄いと思うものは沢山あります。その都度ですね。
フェリーニという監督が好きなのですが、彼の映画を観ていて“どうしてそうなるのかな”と思っていたら、フェリーニがマストロヤンニに台本を渡さないでその場で作っていく、というフェリーニと俳優のマストロヤンニの関係を聞いて、凄いなと思ったり。
スコセッシ監督とデ・ニーロの関係も最初はそうだったりと、そういう話を聞くと“そういうやり方でもやってみたいな”と思うじゃないですか。
フェリーニ監督の『甘い生活』のリアル感は、そういう事かと感心しますよね。」

——型にはまらず、何かに対して「絶対にこれはこう!」という故意に固まり過ぎていないという事でしょうか

「無駄な事をしても仕方がないと思って、自分のイメージを固めてしまうとそのイメージを守ろうとするじゃないですか。
その守るものが何もない自分というのが、楽しいんです。常にアメーバのように、カメレオンのようでいたいですよね。
だから監督と、現場で自分の考えとは違って悩む事がなく、“それって面白いですね”と言って世界を作っていきます。何年間か自分のスタイルをキープしていって、“このキャラクター今回合わないんじゃないかな”というのではなく、“また違う役も来たの?嬉しいなぁ、やってみようかな”という方が、生き方としては好きなんですよね。
ですから、このステンベルゲンのような役もどんどんやってみて、その都度人生を楽しんでいればいいんじゃないでしょうか。」

——そんな伊武さんにはマイブームというものはあるのでしょうか

「特にないですね。あえて言えば毎回仕事がマイブームですからね。
こういう役をやってみた次の日には、戦争を描いたドラマの中で軍人を演じてみたり、その次の日には京都弁で医者か何かを演じてみたり。
人生って、それを考えただけでも一生懸命ですよね。役を頂いた時には、一生懸命色々と考えますが、それは何故考えるのかというと、ポンと現場へ行った時に、ゼロになって“はい、どうしましょうか”となるためなんです。
全く何もなしに潜在意識も無く行ってしまったら、今度は何も出てこないと思うんです。
潜在意識というのも結構重要だと思います。」

——潜在意識ですか

「例えば、満員電車に初めて乗った人は混雑していて身動きが取れないので結構パニくると思うのですが、段々慣れてくると“今日はこういう格好だな”と、楽しめるようになるんですよ。」

——このステルベルゲン役も、そのように楽しんで演じたという事でしょうか

「一応最後この役は変化しますからね。
その変化が面白いですよね。ドラマを観ていても、最初と最後で変化があるのが役者をやっていて面白いですよね。
ずっと二枚目をキープしていなきゃいけない事よりは、変化がある役の方がやっていて面白いですね。
でも、それは役者としてやっていて面白いのであって、やはり存在感は主人公が一番ですからね。」

——日本のアニメの声優としては久々の活動ですが

「一番最初に『遠い海から来たCOO』というアニメ映画で初めて声優をやってから、もう10年以上も経ち、それ以来ですよね。」

——俳優と声優との違いはあるのでしょうか?

「同じと言えば同じなんだけど、アニメの方が顔を出せない分難しいでしょうね。
俳優は、色々な表現ができてしまうから楽は楽だと思います。
アニメの声優をやる事に関して、誰が演じているのか、すぐ顔が浮かんでしまうというのが嫌なんです。
このステンベルゲンを見ていて、僕の顔は思い出さないでしょうし、これはこれで入り込んで観て頂ければいい訳です。清算するのは難しいですよね。
声優は、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるし、喋っていないシーンなら何もしないで済みますよね。映像の場合は、喋っていなくてもそこに居て埋めていないといけない。
自分が喋っていなくて、人が喋っている時に、埋めている声優さんが、つまりは話を聞いているリアクションをしている真剣な声優さんがいたら、それは素晴らしい人だと思います。
あるいは、セリフを全部覚えていくとか、そのぐらい切磋琢磨していければ、きっといいんだろうなぁ。
昔は、TVで洋画を放映する時に字幕を付けるのがお金がかかるから、舞台や映画に出ているような声優さんが声をあてていて、その時はまだ、声優と俳優と同じだったと思うのですが、そのうちに段々と洋画の輸入が増えてきて、アニメーションも増えて、俳優と声優の住み分けのようなものができあがっていったのです。
最近では、以前に比べると仕事も無く、予算も無い状態で、質も落ちていくという悲しい状態ですよね。」

執筆者

池田祐里枝

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