「秘宝館」とは「夫婦和合」などをテーマにしたさまざまな性文化を紹介するアミューズメントパークである。1970年中頃、ボーリングブーム後の広い敷地の再利用するために考案されたのが始まりで、最盛期には全国に30館ほどあった。そこにある数々の展示物はキッチュではあるが、独創性があり、芸術性が高いものも多い。以前閉館した秘宝館の展示物を引き取って都築響一が横浜トリエンナーレ2001で展示したところ長蛇の列ができたのも有名な話。

しかし現在秘宝館の数は熱海、北海道など数館ほどに減少。そして2007年3月、日本最大級の施設を誇る「伊勢 元祖国際秘宝館」が閉館となり35年の歴史に幕を下ろした。そんな、絶滅寸前の「文化」を誠意を持って記録して、今を生きる人々だけではなく、後世にも伝えようと企画・制作されたのがこのDVDだ。

 監督をつとめた村上賢司は、セルフドキュメンタリー『夏に生まれる』で1999年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門グランプリ受賞をきっかけに、『怪談 新耳袋』『怪奇大家族』など映画やTVなど映像ジャンルで活躍。一方、自主制作でドキュメンタリー作品も並行して発表するスタンスで独自の表現活動を続けている。最近では『工場萌えの日々』や『デコチャリ野郎』などDVD作品のディレクターもつとめる村上監督に本作について話をきいてみよう。







—性をテーマに、教育的側面と見世物的側面を併せ持つ秘宝館がかつては全国に多く存在していたというのは、今の尺度で考えるとちょっと異様な事態な気がしますが全盛期、人々はどう感じてたんですかね?

今にして思えば異様な感じはしますが、秘宝館が乱立した頃はいたって普通の現象だと当時の日本人は受け止めていたと思います。それは「秘宝館」という文化は突如現れたものではなく「衛生博覧会」「見世物小屋」など、すでにあった大衆文化を継承している部分が多いからです。(特に今回撮影した元祖国際秘宝館は人体模型を展示した、性教育、性病のコーナーが他の秘宝館より充実していて「衛生博覧会」の記憶を色濃く残していて興味深いです)。まして当時はレジャーブーム真っ盛りで「社員旅行の合間にちょっと秘宝館でも行こうかしら」みたいなノリが全然OKでした。
私としては、当時は子供でしたが、70年代の『11PM』や『金曜スペシャル』などのお色気番組で、このような文化をモロに受けていたので、新鮮でもなく、異様でもなく、ただただ懐かしくて、涙が出ました。

—秘宝館を映像作品にするにあたって、どういう作品にしようと考えましたか?

展示品が膨大にあるのです。それをどのようにまとめて「作品」にしようかと撮影当初は悩みましたが、すぐに諦めました。どれもこれも、散失、破壊される運命の「芸術品」なのです。とにかく全部撮影してすべて収録することを目指しました。いつか将来、バーチャルリアリティーで秘宝館を再現する時に参考になればな〜と思っていましたね。「未来へのプレゼント」ですね。
撮影中は当時の日本人の「エロス」に対する探究心の深さにずっと圧倒されていました。「萌え」とか「ツンデレ」とかでは体験不可能な、おかしくとも悲しい、しかも暗くて恐ろしい、そんな「エロス」の本質を実体化した展示物はどれもこれも凄まじいです。ぜひ多くの人に体験して欲しいですね。価値観がガラリと変わりますよ。
わかったというか、発見したものがありました。元祖国際秘宝館には以前、映画館も併設されていまして、そこで上映されていた3Dのポルノ映画のフィルムがほぼ完全なカタチであったのです。現在の日活が制作した、ちゃんとした日本映画です。ただ秘宝館でしか上映されてなかったので映画史からは完全に忘れられていた。特殊なメガネをかけて観るタイプなんですが、誰か興味ありますか?立体映画を再現するのにいろいろと大変なようなんです。

—展示物のバラエティも富んでますよね。エロをファンタジーに包んでいたり、妙に医学的見地に立とうとしてたかと思うと、馬の交尾とかなんだか見も蓋もないようなものもありますね。特に監督が気に入ったものとかってあるんですか?

「全部」と言ったらダメですか(笑)。あえてあげれば「幻想の世界」と「秘宝の里」の二つのコーナーですね。「幻想の世界」にある壁と天井がすべて乳房と性器のハリボテで埋め尽くされた空間に入った時の、トリップ感覚はかなりヤバイですよ。他人の狂気世界に迷い込んでしまったような気分になります。「秘宝の里」は桃太郎とか西遊記などの童話をエロテックに解釈した展示物に埋め尽くされたコーナーですが、まさに「地獄」そのものです。電気仕掛けで動く異形の人形たちは、まさにアウトサイダーアートそのものです。

—ムラケンさんは、これまでも『工場萌えな日々』や『デコチャリ野郎』などのDVD作品で、知られざるマニアの世界を通して、中央集権的ではないところで静かに燃えている裏・日本文化を撮ってますよね。今回の秘宝館も、そういう意味では一貫していると思うんですが、こういう東京という中心地発ではない、地方など周縁にあるような雑種文化(?)みたいなものをどう思いますか?

例えば「KY」の言葉で象徴されるように、現在の日本は均一化の方向に突き進んでいると感じています。でもこのままではヤバいし、つまらないと思います。多様な価値観を認め、理解しようとすることだけでしか人間は「自分」というものを広げられないはず。
「工場」に萌えてしまう人の気持ちを考え、「デコチャリ」に青春のすべてかけている若者がいることを知ることで、よりもっと世界が面白く感じられると思うのです。
昔からメインストリートから外れた「周縁」にある文化には惹かれていました。それらは例外無くゴテゴテ、ギドギドしていて、すごく人間くさいです。そして多くの人を揺さぶるパワーがあります。自分自身、ドラマや映画を監督する時にそのパワーをいただいてやたっている部分はあります。実は次のテーマは決まっていますが、まだ内緒です(笑)。

—最後にこの作品のみどころをお願いします!

とにかく観て欲しいです。見所は秘宝館の入口から出口まで、ノーカットで館内のすべてを巡った映像です。約20分ありますが、絶対に飽きないはずです。

執筆者

綿野かおり