何をやってもうまくいかず自信を失った高校生の前に現れた中年の不良学生3人組。<男になれ!>そんなシンプルなメッセージを徹底的に叩き込まれた敦は、はじめて居場所を見つけ、自分の力で一歩踏み出すことを決心する…。

この破天荒な物語の中心に描かれるのは、ひとりの男子の友情と成長物語。勇気を持ってスタートラインに立つ彼の姿に思わず熱くなること必至だ。

主演の敦に『パッチギ!』やTV「タイガー&ドラゴン」の桐谷健太。敦と友情を結ぶ不良3人組に寺島進、木下ほうか、菅田俊といった邦画界を代表する濃い役者たちが勢ぞろい。唯一敦をかばうヒロインの晴香は『子宮の記憶 ここにあなたがいる』で大胆な演技を披露、若手女優の中でもトップクラスの演技力を誇る中村映里子。他にも遠藤憲一、深浦加奈子、板尾創路、渡辺裕之、三上真史など、若手からベテランまで個性豊かな面々が脇を固める。音楽は榊監督と私生活でもパートナーの榊いずみ。またシナトラやMILK&WATERら人気インディーズ・バンドの楽曲が、この熱いドラマをさらに加速させる。

監督は俳優の榊英雄。『VERSUS』『楽園 流されて』の主演俳優として知られ、その確かな演技力とクールな佇まいによって、日本映画界の中で際立った個性を発揮している榊さんに、長編初監督作品となる本作についてお話を伺った。




熱い映画でしたね。

「それは最初から全然ぶれてないですね。制作総指揮と脚本を担当した後藤克秀さんと話していたんですよ。
 もう死んだヤツが二週間だけ蘇るとか、もうそういうのはいいと。ニュースでも、誰が自殺しましたとかそういうことばっかりで。まあ、昔からそういうのはあったのかもしれないですけどね。
 でも昔は、怖いんだけど、公園とかで会うと「元気か」と声をかけてくれるようなお兄さんやおじさんが周りにいましたよね。『お前、女の子ば知っとうとや?』『知ってるよ』『バカ、裸ば見たことあるとか?』『いや、裸はないけど』なんて言いながら、みんな成長していくわけじゃないですか。そういう人たちがいると、もう少しこういう世の中も変わっていくよな、という思い出話から始まったんですよ」

今はそういう人が少なくなりましたね。

「やっぱりそういう思いを込めた娯楽作品をやろうじゃないかという話をしていたときに、後藤さんが『俺、こういうものを書いているんだけど』と脚本を出したんです。それは初めて書いた脚本だったんですけど、スコーンと抜けるようなまっすぐした骨格があったんですよね。その思いと情熱は素晴らしいと思いました」

最近は、昔に比べて熱いことを素直に熱いと言えるような風潮があるような気がするんですが、時代的に書かせるものがあったんでしょうか?

「そうですね。ただ、僕も別の映画を準備していましたし、もともとは男っぽい映画を撮ろうとは思っていなかったんです。でも、この映画は天から湧いたプレゼントのように思えましたし、この映画を作ることが出来て、本当に良かったですね」

寺島進さん、菅田俊さん、木下ほうかさんの学ラン姿が強烈ですね。

「先輩がたは嬉々としてやってらっしゃいましたよ。菅田先輩は自前でしたからね」

自前ですか?

「準備しますと言ったら、『作っていいですか?』と。だから任せますと。帽子をかぶっていますよね。あれは歴代の応援団の知りあいから借りてきたものらしくて、『かぶっていいかな?』と。ノーなんて言えないじゃないですか。どうぞかぶってくださいと(笑)」

木下さんと寺島さんは?

「木下さんと寺島さんで、中ラン、短ランにしようと思ったんですけど、俺らの世代は絶対中ランだから、絶対に中ランだと。靴にも相当こだわったりして、楽しんでやってらっしゃいました」

それにしても面白い設定ですね。

「元々学ラン中年という設定はなかったんですよ。この話を引き受ける時に、定時制の学ランを来ているおっちゃんというのが面白いなと思ってプロットを書いたんですよ」





撮影期間は8日間しかなかったそうですが、これだけの個性派が揃うとアドリブが多くて大変だったのでは?

「大変でしたね。先輩たちが3人揃っている廃墟のシーンは2日間で撮ったんですよ」

映画のほとんどがあそこのシーンですよね。

「そう。だから大戦争ですよ(笑)。3人が揃うのが2日しかなかったですから。半日は陸上競技場のシーンだったし。カットを割るところは割ったし、割らないところは長回しで行こうと」

俳優である榊さんが俳優を演出するということはいかがだったでしょうか?

「俳優の生理が分かるというのは特徴でしょうね。あとは俳優を信用して託せる部分はありますね。ただし、ここまでは譲れるけど、ここからは譲れないというラインがあるんですよね。他の監督よりは、俳優としての仕事は分かっているつもりなので、こういう表現だと見える、見えないというんですかね。
 つまり、内面的な問題なんて、僕はどうでもいいと思っているんです。気持ちが入れば表情が変わるといったことは言いたくなりますけど、その前に驚いたときは驚いた顔をして欲しいと。もともとパントマイム的なものが好きなこともあるかもしれません。だから走る、歩く、しゃがむということは大事な表現方法だと思うんで、そこの中で明確にしてくださいということは多かったですね」

監督のスタイルとしては精神論ではなく、具体的な指示が多かったということですね。

「だったら、ばっとこちらに動いてくださいとか。そういうのが一番分かりやすいですね。俳優はひとりひとり内面を持っているので、そこにごちゃごちゃ言うよりは、そこに驚いた表情が欲しいですね、といった具体的な動きを指示した方が、僕はやりやすいと思いますね」

そういう意味では先輩を演出する難しさがあるのでは?

「でもお三方に関しては遠慮なくぶしつけに言いましたからね。今のは面白くないですとか、長回しなのでその間はいらないですとか。
 クランクインする前に、今回は監督をやらせてもらいますからと話しましたからね。もちろん俳優同士だったら、もっと違う言葉使いになりますけど、こっちは三人に遠慮する前に、映画を成立させなきゃいけないと思ってますからね。いちいち細かいことまで聞きませんよと。オッケーだったら、オッケーと。駄目なら駄目だと言います。じゃないと2日で撮れないですから」

そうすると逆に俳優からの協力も必要になりますね。

「長年俳優をやっているとクセがついてくるんですよ。特に自分が大好きな自分勝手な先輩方ですから。ただ、敦という路頭に迷った小羊がいるわけですよ。そんな彼をどうにかしてやろうという三人の芝居が大切になるんですよというのは、何度も言ったので。自分の芝居を見せようというのはいいんだけど、一線を越えたら僕は言いますよ、ということはちゃんと言いました。
 大変ですよ。役者ってわがままで(笑)。これはいい意味で、愛をこめて言ってるわけですが」

本作では奥さんの榊(橘)いずみさんが、音楽を担当されていますが、いかがでした?

「橘いずみと言えば素晴らしいアーティストですしね。自分が歌わずに映画音楽を作るのは始めてですよね。トルコ行進曲のところは僕のアイディアを元にしてくれたし。三人の登場の部分はダウンタウンブギウギバンドのようにという注文を出せば、そういう風にしてくれたし、やはり素晴らしいな、と思いました。
 陸上競技場のシーンのギターは僕が弾いているんですよ。たまたま僕が家で弾いていた曲を聴いて、『これ絶対この映画に合うから』と言われて弾いたんですよ。それを聴いて、ここにあれを入れよう、これを入れようという感じで付け加えて。うまく盛りあがるように作るところはさすがだなと思いましたね。そういうのは共同作業で良かったですね。こういうのも照れ臭いですが(笑)」

執筆者

壬生 智裕

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