「たとえば、犬がしっぽを振る姿を見て、『喜んでる』と感じるのは僕たちの勝手な見方だと思うんです。」と話す、松山さん。その言葉には、動物に対する盲目的な愛情だけでなく、尊敬の眼差しを感じた。『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』に出演したことは、自身にとっても非常に学ぶことが多かったそう。
撮影中、出演者が『誰よりも女優だった』と語るフジの優しさから動物に対する新しい価値観を学んだ。
そして自分を取り囲む人々の大切さを。実際に、インタビューカットの撮影中は、まわりのスタッフと和気あいあいと話す姿が印象深かった。
絶賛放送中のビールのCMのコミカルな演技、そして命の輝きを守ろうと一直線に突き進む一也。演技の幅の広さで、常に私たちを驚かせてくれる松山ケンイチの中で、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』はどんな風に生きているのか。ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれた。



出演が決まった時は?
「撮影に入る前に原作を読ませてもらいました。病気によって尾びれをなくして、泳ぐことをあきらめていたイルカを、水族館の獣医さんや飼育員さんが努力をして、泳ぐ気力を持たせ、ジャンプするまでに復活させたっていう事実に素直に感動しました。読み終わった時は、ぜひこの作品に出演させていただきたいと思いました。」

イルカとの共演は初めてだったと思いますが、どんな感想を持ちましたか?
「実際にイルカが賢いかどうかっていうのは僕はわからないと思っています。それは僕達が『イルカって賢いな』って人間の目線で感じているに過ぎませんから。フジに関してのことを話すと、撮影をしている時は水族館にたくさんの人がカメラを持って集まってくるんです。フジも自分がカメラに撮られていることがわかっているので、その人の前でじっとしていました。それには驚きました。僕よりものびのびしていたと思います(笑)。撮影中も僕たちがやってほしいことをなんなくこなしていました。」

困ったことはありましたか?
「最初、イルカたちに積極的に係わっていくことができなかったことで、フジとプールで戯れるシーンに苦戦しました。撮影の前半はそんなこともありました。なかなかタイミングが合わなかったりしました。」

撮影後、自分の中に変化を感じました?
「動物に対しての距離感が変わりました。この映画に関わるまでは、通りすがりの犬にも興味を示さなかったのに、今じゃ立ち止まってちょっかいを出すようになりました(笑)。実は撮影当初、イルカに触るのも怖かったんです!」

映画の中では、まったくそんな風に見えませんでしたよ!
「撮影に入る前に、特別な準備はしていないんですが、八景島の水族館に行って、イルカのショーを見たらすごく感動してしまって…、泣いてしまいました。イルカがすごくかわいくて!その後、沖縄に入って、モデルになった獣医の植田先生にいろいろ話を聞いたり、体温の測り方、採決の仕方をならいました。そういった中で、だんだんと動物に慣れていけたかなと思います。」

植村一也という人物を、どのようにとらえましたか?
「ひとつのことに集中するとまわりが見えなくなるところは似ているな、と思いました。ある意味まっすぐなんですが、この部分が自己満足になってしまう危険性もあるんです。映画の中でも、ひとりで突っ走ってしまうところも結構あるんです(笑)。でも、まわりの人々と協力していくことで、その部分を解消していくんです。僕自身も、人と協力することの大切さを教えてもらいました。」
 

飲み会のシーンで、「イルカに教えてもらうことばかりだ」というセリフがありましたが、実際にはどんなことを学びました?
「フジだけじゃなくて、人間の女性にも教えてもらうことでもあるんですが、器のでかさを感じました(笑)。相手のすべてを受け入れてくれるところが本当にすごいなと思いました。フジはお母さんみたいに常に見守ってくれていました。ちょっと落ち込んだりしていると、本当に寄ってきてくれたんです。」

監督からはどんなアドバイスをされました?
「僕はモデルになった植田先生を表現したかったんです。すごく優秀で面白いし、まじめで素晴らしい人なんです!ただ、今回は新米獣医という役でしたし、『植田先生を参考にするんじゃなくて、映画の一也を演じてほしい』と言われました。」

演じる上でこだわった部分は?
「この作品は、ドキュメンタリー風にある日常を切り取ったような作品なんです。無理に泣かせようとするところもありません。ありのままの事実を、撮るという感じだったので、特にこだわることはせず、自然に演じるようにしました。」

一也を演じることで、素の松山さんにもいろいろな変化が生まれたんですね。では今までの人生の中で、松山さんが最も影響を受けた出会いはどいったものですか?
「自分を変えた出会いは、『男たちの大和/YAMATO』という作品です。平和について、考えさせられました。この作品に出会うまでは、平和であることが当たり前でしたが、必ずしも平和であることを常識にしてはいけないと感じました。今の平和は、僕が演じた人のような人々が、必死に戦ってくれたからこそありえるものです。撮影のオフ時は、ひめゆりの塔に行くことができて、さらに考えることがたくさんあるなと思いました。」

『セクシーボイスアンドロボ』のロボや『デスノート』のLなど、キャラの濃い役を、本当にその人が実在するかのように演じていらっしゃいますよね。役作りはどのようにされているんですか?
「自分が大切にしているのは作品が終わった後です。作品に入っている時は、ほとんどオンオフはないんです。オフが来て素の自分に戻るのは、クランクアップした時なんです。役を消化する時間を大切にしています。」

メッセージをお願いします!
「ぜひこの作品を観ていただいて、沖縄の美ら海水族館に足を運んでいただいて、フジにあってほしいなと思います。僕たちが言う世界は、人間界だけでなく、自然を含む自然界のこと。この世界の意味を改めて認識してもらって、視野の広さをもっていただけたらと思います。個人的な感想なんですが、実は撮影中、すごく天気が悪かった日は一也の気持ちと偶然にもリンクしていたんです。それがすごく印象的でした。」

執筆者

Kanako Hayashi

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