「かごめかごめ」や「ずいずいずっころばし」など連綿と歌い継がれ、誰もが知っている童謡。しかしよく聴いてみるとその歌詞や旋律はどこか不思議な雰囲気を持っているにも関わらず、作者や由来など不明なものも多く存在する。もしそんな童謡に恐ろしい意味が込められていたとしたら…?
全寮制の女子高を舞台に、合唱コンクールに向けて童謡を練習する少女たちの間で起きた謎の凶行を描く<表の章>と、事件の5年後、現場を訪れたテレビ番組クルーに起こった出来事を描く<裏の章>という二編で描かれる『こわい童謡』は、いまだ謎を多くのこす「童謡」を題材に、思春期の多感で不安定な少女たちの心理状況や、“うた”が人間の心理や行動をも左右してしまう戦慄を提示した新しいタイプのホラー映画だ。
<裏の章>では、今回が映画初主演となる安めぐみが番組クルーに同行する音響分析官・響子に扮し、普段テレビで見せるにこやかな笑顔を封印して、冷静沈着に事件をみつめる理系の女性を演じている。<表の章>で起きた事件現場に残された物証を元に、科学的に解明していくミステリーであり、終始怪奇現象のような不思議な現象が起こる作品の中で、自分の唯一信じている「音」を頼りに事態を読み解こうとする響子の視線でストーリーは展開する。
残酷でショッキングな描写があるわけでも、貞子のようなクリーチャーや幽霊がこれみよがしに登場するわけでもない、理性的に恐怖やその根源的なものに向き合い、観るものを不協和音に陥れるように周到に計算されている新しいタイプのホラー映画といえる。ホラーはまったく苦手といいながら、安めぐみがこの作品を初主演に選んだのは、彼女なりの表現者としての感性からこの映画に“挑戦する魅力”を感じ取ったのかもしれない。






安さんがホラー映画というのは意外な気がしたんですが…
「私はあんまりホラー映画が得意な方ではなく、有名なものは一応観てはいるんですけど自分から好きで観るってことはなかったんです。でもこの映画のお話をいただいて、とにかく台本を読んでみてから決めようと思って。読んでみたら2部構成になってて、<裏の章>では<表の章>で起きた事件を解明していく謎解きのような感じが面白いなって思いました。あと童謡がテーマになっているっていうのに興味が惹かれたっていうのもあるんです。想像してたのと違う、今までにないようなホラー作品だったのでやってみたいなって思ったんです。」

響子という女性は、音響分析官という特殊な職業の役で難しい専門用語も多かったですね。
「セリフを覚えるのはあまり苦ではないんですが、専門用語が多いので、それを日常的に使っているようにみせるのは大変でした。あとは、パソコンに向かって音を分析しているってシーンが多かったんですが、わたしは普段パソコンをあまりやらないので使うようにしてみました。童謡も聴いて、自分なりに色々想像してみたり。
現場には実際に音響分析官の方たちが何人か現場に立ち会ってくださって、機械やマイクなど普段本当に現場で使っているものをお借りしてやったので、使い方だったり細かいことをかなり本格的に教えていただきました。実際にこのお仕事をされている方は、ほんのちょっとした音でも背景やシチュエーションを分析することができるらしいんですよ。」

悲鳴を挙げて叫んだりだとか、トランス状態になったりだとかホラーならではのシーンははじめての芝居だったと思うんですが…
「福谷監督は自由にやらせてくれる方だったんですよ。初主演というのもあって逆に不安なところもあったんですけど、とにかく自分が思う響子というのを現場にもって行ってあとは監督やスタッフから言われたことをもとに直しながら演じていきました。
童謡の世界に入り込むことで響子自身が忘れていた過去の傷のような、意識していなかったパーソナルなものが浮き出てしまうようなシーンもあるんですけど、怖がるというよりも“音のプロ”として不思議な現象をあくまで科学的に分析しようとする姿勢は彼女の中で変わらない部分なので、そこを意識してブレないように演じるようにしました。」

B級ホラーのテイストもありながら、大きな音でこけおどし的な怖がらせ方をしたりとか、やたら過激なシーンでビックリさせたりするのではなく、理知的に計算された不気味さを漂わせてて、硬派なホラー作品ですよね。
「最近の映画ってすごくCGが多いじゃないですか。この作品も全くCGを使っていないないわけではないんですけど、ミイラだったり頭がない男の子に首をしめられるシーンがでてきたりするんですけど造形物に全部手作り感があって、なんか和みましたね(笑)。本当にみんなで共同作業で作り上げたって思えたので、現場はすごく一体感がありましたよ。あのミイラは写メールに撮って人に送ったりしたらすごく怖かったらしくあとでお怒りのメールが返ってきたりしました(笑)。」

映画の現場はあんまり経験がないということでしたが、テレビ番組のクルーに同行しているという設定では親近感があったんではないですか?
「津田(寛治)さんが演じていた番組のプロデューサーなんてすごく典型的な業界人チックな軽い感じというか。いるいるこういう人って(笑)。現場でも津田さんはすごく場を盛り上げてくださったんですよ。松尾敏伸さんとは一緒のシーンが一番多くて、仲良くなりました。ホラー映画だけど現場はすごくアットホームで楽しかったです。」

撮影は廃校で行われたそうですね。
「映画の設定と同じで元女子校だった廃校なんですよ。待ち時間とかに教室でポツンと待っているときは、怖いのでわざと陽気な曲をかけたりしてました。あとお手洗いに行くのも本当に怖くって。<表の章>ではトイレで色々事件が起こったりするのを知っていたので余計に怖かったです。」

今までに怖い経験はあるんですか?
「見るんですけど信じてません。どちらかというとたぶん霊感が強い方で、でもそれは言いたくないんです。見たくないっていうのと、信じたくないので。そのたびに「私つかれてる」っていうことにしてしまいます。あまり口にはしないようにしてます。」

映画に主演してみて新しい発見や意識が変わった部分はありましたか?
「わからない部分もすごくある中で、とにかくうまくやろうとしちゃいけないなって思ってました。私が思う響子を精一杯やることを考えてました。去年は歌を出したり、色んなことに挑戦しているんですけど、「いずれは女優に」「いずれは歌手に」みたいには思ってなくて、タレントとして色んな場を広げて行けたらいいなと思います。やってみなければわからない部分もあるので、今は興味があるものは色々やってみたいんです。
役割がある程度明確に決まっているなかで自分なりの表現で何かを伝えるというのがすごく好きで、向いているかなって思っているので、今回映画に出させていただいて、ある人物像を自分なりに想像しながら演じてみるっていうのは、楽しいって思いました。どんどんやってみたいです。お芝居することの楽しさはこの映画ですごく感じました。
福谷監督はホラー作品を多く手がけられているんですけど、撮影に入る前に悪魔憑きにあった方のホンモノの映像をみせていただきました。すごいんですよ。福谷さんは痙攣にすごくこだわりがある(笑)。みんなで痙攣の練習したりしたんですよ。トランス状態に陥ったクルーに私が襲われるシーンでは本当にすごく怖くなってしまって。「落ち着け、落ち着け」ってゆっているんですけどあれ私のアドリブというか本当にリアルな気持ちだったんですよ。」

執筆者

綿野かおり

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