5月16日〜27日に開催された第60回カンヌ国際映画祭。今年は60回を記念してウォン・カーウァイ、ヴィム・ヴェンダース、チャン・イーモウ、ガス・ヴァン・サント、ロマン・ポランスキー、日本からは北野武が参加した、5大陸25カ国から集められた著名な映画監督35人による「劇場」テーマにした3分間の短編オムニバス「To Each His Own Cinema」が特別企画によって上映されアニバーサリーイヤーらしくいつになく華やかなものとなった。
注目の日本映画勢だが、昨年のカンヌでは監督週間で長編が1本、批評家週間で短編が1本と、わずか2作品のみが公式上映され、寂しさが拭えなかったが、今年はコンペティション、招待上映、監督週間、批評家週間で各1作品、計4本が公式上映された。









◆オフィシャル・セレクションでは「殯(もがり)の森」と「素晴らしき休日」が上映!

 注目のコンペティション部門の最終上映作として5/26に上映され、次点のグランプリに選ばれた河瀬直美の監督&脚本&プロデュース作品「殯(もがり)の森」は、監督の故郷・奈良にある自然豊かな山間地を舞台に、妻を亡くした認知症の男性(うだしげき)と、子どもを亡くした女性介護士(尾野真千子)の交流を通して“生と死”を見つめた日仏合作の人間ドラマ。河瀬監督と尾野真千子、うだしげき、そして先輩介護士を演じた渡辺真起子がカンヌ入りを果たしている。1997年に長編初監督作『萌の朱雀』で、第50回大会のカメラドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で獲得した河瀬監督は、2003年には『沙羅双樹』をコンペに出品、2度目のコンペ挑戦での快挙となった。授賞式でプレゼンターのフランス女優キャロル・ブーケから祝福を受けた監督は、「映画を作り続けて来て良かった」と喜びを語った。

 映画祭60周年記念企画「To Each His Own Cinema」(世界中から選ばれた有名監督33組35人が映画をテーマにして撮った短編を編纂した2時間のオムニバス映画)に日本人で唯一選出された北野武監督は「素晴らしき休日」を発表。田舎の寂れた映画館に来た1人の観客(モロ師岡)の姿をコント風に描いた作品で、自作の『キッズ・リターン』を劇中映画として挿入。自らも映写技師役で登場した北野監督は、5/20の公式上映時に、羽織袴、チョンマゲのかぶり物姿で赤絨毯上に現れ、周囲の笑いを誘っていた。なお、「素晴らしき休日」は現在公開中の北野武最新作『監督・ばんざい!』と併映されている。 

◆監督週間と批評家週間では監督デビュー作の2本
「大日本人」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」が上映!

 さて、“ダウンタウンの松ちゃん”こと松本人志の監督デビュー作にして、企画・脚本・主演も兼ねた「大日本人」は、吉本興業が初めて本格的に映画界へ進出したことでも話題になった作品だが、一切の内容を明らかにしないまま、5/19に“監督週間”でワールドプレミア上映! 松本人志がある意味、全編を通して出ずっぱりであるとも言える本作は、平素は一般市民として暮らしているが、有事の時には感電によって巨人化し、世間を騒がす怪獣退治を代々生業としてきた“大佐藤”家の6代目の苦悩を描いたシニカルでシュールな異色コメディだ。物語の構成にも風刺が効いており、主人公に密着取材するTVカメラの映像を視点とする疑似ドキュメンタリーに仕上げている。
 観客と同席して映画を鑑賞し、上映後の感想を聞かれた松本人志監督は、「こんなに緊張して映画を見たことはない」と苦笑しながらも、次回作への意欲をにじませていた。

 5/23に批評家週間で上映された「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」は、CM界で18年のキャリアを持つベテラン演出家、吉田大八の映画監督デビュー作で、本谷有希子原作の人気戯曲の映画化! 閉塞感漂う田舎町を舞台に対照的な姉妹の壮絶バトルを描いた快作である。エゴ丸出しの姉に佐藤江梨子、姉に怯えながらもしたたかに生きる妹に佐津川愛美、家族の秘密の重圧に耐える兄に永瀬正敏、度を超したお人好しぶりが哀れな兄嫁に永作博美を配した吉田監督は、危ない人間模様をブラック・ユーモアを満載して赤裸々に描写。劇中に登場するホラー漫画とリンクする画面分割を施す等の新鮮な演出を披露、カンヌの観客に大ウケであった。監督と主演した佐藤江梨子&佐津川愛美が現地入り!

執筆者

Y. KIKKA