「女優という仕事が好きなんです。」『吉祥天女』鈴木杏インタビュー
幅広い層から熱烈な支持を受け続ける吉田秋生の傑作コミックが遂に映画化。不思議な魅力で周囲の人々を虜にしていく主人公・小夜子を演じた鈴木杏さんにお話を伺った。
小さな頃から女優として活躍してきた鈴木杏。
本作では今までのイメージをがらりと変えるような役柄に挑戦し、見事にその成長した姿を見せてくれた。
今年20歳になった彼女は、まっすぐな言葉で質問に答える。
目標をしっかり見据えて輝くその瞳には何が映っているのだろうか。
——小夜子を演じる時に気をつけたことは何ですか?
「リアリティを出すことです。お話も小夜子自身もなかなか身近にはないものですよね。彼女は今までに私が演じたことのないタイプの女の子で、しかも男の子を翻弄していく…という私にはない要素を持っていました。リアリティがない”ウソの物語”になってしまうのが嫌だったので、どうすれば本当に存在する人間になるのかをずっと考えていました。」
——原作は読みました?
「『吉祥天女』の原作を読んだのは台本を読んだ後でした。でも実は「BANANA FISH」や「ラヴァーズ・キス」の大ファンなんですよ。もちろん「吉祥天女」の存在は知っていたので、映画化のお話を聞いた時は「え、あの吉祥天女ですか!?」って(笑)。まさか私が吉田先生の作品の中で生きれるなんて思ってなかったので、とても嬉しかったです。同時に不安もあったんですけどね。私でいいのかなっていう気持ちが大きかったです。」
——今回の作品では能を勉強されたそうですね。アクションシーンもありましたが、苦労したことはありますか?
「能の稽古は歩き方の勉強をしただけだったし、アクションもとても楽しんでやっていました。一番大変だったのはエクステをつけるのに6時間かかったことですね(笑)。私はあまり役作りをして現場に入ることは少ないんですが、今回はとにかく自分が小夜子を演じているっていうイメージが上手くできませんでした。監督からも何も考えずに現場に来て欲しいと言われてました。自分で勝手に考えてイメージが変に固まってしまうと怖かったので、エクステをつける以外はなにもせずに現場に入りました。」
——監督からの演技指導はありました?
「撮影中に「もっと感情を出して大丈夫」、だとか「今のところは抑えたほうがいい」、だとかの支持は受けました。微調整をしながらの撮影でしたね。」
——本作では喋り方も今までにないような感じで驚きましたが、ご自身で意識されたんですか?
「語尾が「〜でしょう?」みたいに普段使わないようなもので、独特だったんです。そこに合わせていくと、ああいう感じになりました。私は部屋で一人で練習するタイプではないので、現場で初めてセリフを言うことがほとんどなんです。今回もそうしてみたら自然にああいう風になりました。」
——監督からは小夜子というキャラクターについて説明はありましたか?
「あまりなかったと思います。ただ、この映画では青春映画という要素も強くしていきたいという話をされてました。現場に入ってみると、思っていたよりずっと小夜子が普通の女の子になる瞬間が多かったので、普通の女の子が叶小夜子にならざるをえなかったというのがわかったんです。現場でわかることも多かったですね。演じていくうちに役が自分に近づいていったという感じのことがあって、すごくおもしろい経験でした。」
——監督は女優さんを美しく撮ることに定評のある方ですが、どうでした?
「そういうところは実はよく知りませんでした(笑)。そういえば現場では角度に関して結構指示されましたね。そこまでちゃんと見られているという安心感がありました。」
——共演者の方たちもすごく魅力的ですが、共演してみてどうでしたか?何か心に残っているエピソードはありますか?
「ユイカちゃんとは金沢ロケのオフの時に兼六園や、ひがし茶屋街に行ったりしました。それがいいリフレッシュになりましたね。市川実日子さんとは久しぶりにお会いしたんですが、すごくおもしろい人で、いつも2人でふざけてました(笑)。小夜子はすごく孤独な女の子で、演技をしていても寄りかかるところがどこにもなくて、常に一人で闘っていなければならないところがすごく大きかったんです。だからユイカちゃんや実日子さんにはすごく救われました。」
——以前「カメレオン女優になりたい」とおっしゃってましたが、今回の作品でイメージした色はありますか?また、自身で持っている色があれば教えてください。
「私自身は透明でいたいと思ってます。私自身に色があるんじゃなくて、役によって自在に色を変えていけるという意味でカメレオン女優になりたいんです。小夜子は…難しいですね(笑)。オーロラみたいな、光によって色が変わるような感じがしますね。」
——子役時代からもう何本もの作品に出演されてますよね。日頃女優として気を遣っていることはありますか?
「女優さんのお仕事につながる全てのことが趣味なんです。人からは「よく勉強しているね、偉いね」って言われるんですが、映画とかドラマとか舞台を観ること全てが趣味なんですよ。小説やエッセイを読むのも好きだし、写真集を見るのも好きなんです。だからあまり気を遣っている感じはしないです。ただ、そういうものが全部つながっていってるのかなとは思いますね。」
——女優は天職だと思ってますか?
「う〜ん…どうだろう(笑)。自分じゃそんな大きなこと言えませんが、やっぱり好きです。」
——涼と暁、どちらがタイプですか?また、撮影中のエピソードを教えてください。
「暁くんの威張ってる感じは私も苦手です(笑)。ちょっと寂しげな人に惹かれちゃうので、涼くんなのかな。涼くんを演じた勝地涼くんとは何回も共演していて、お互いよくわかってるのですごく安心感がありました。だからお芝居の中で受け止めてくれる相手だったことにはすごく救われました。小夜子と涼くんの似てる部分が私と涼くんにもあるんじゃないかと思いました。深水くんとは初めての共演だったんですけど、初めて会ったときは背が高いなって(笑)。どんな人なんだろうって思いましたけど、すごく優しくて変わってておもしろい人でした。深水くんに演技でビンタするシーンがあったんですが、思いっきりヒットしちゃって。あの時の深水くんの振り返った顔が忘れられないですね(笑)。今回はすごくいい出会いをしたと思います。今でも皆と遊んだりしているんですよ。」
——20歳になられて、イメージを変えることを意識されてますか?
「私自身はあまり意識してないです。でも無理して大人の女性を演じようとは思わないし、できないと思うんです。歳相応のいろんなタイプの女の子を演じていけたらいいなって思います。」
——20歳になった時、どんな感じでした?
「こんな大人でいいのかなってすごく思いました。でもふっきれた部分もすごくあったんです。私は幼い時から大人に囲まれて仕事をしてきたので、10代の頃から考えることも大人びてみられたりすることが多かったんです。大人な部分と子供の部分のギャップが激しかったんだと思います。仕事では歳相応かどうかよりも、相手にちゃんと応えようとしていて。そうするとどうしても「10代のくせに生意気だ」とか思われるのかなっていう恐怖心もあったんです。だから素直に自分の言葉で話すっていうことが上手くできなかったんです。不思議ですけど、吹っ切れたっていう気持ちが大きかったですね。」
——大人になる上で大事なことは何だと思いますか?
「まっすぐでいること、だと思います。私の周りには、まっすぐでちゃんと童心ももっていて、その時その時を楽しめる大人が多いんです。すごく歳が離れていても若い世代の人間と、歳を意識せずに友達のようになれるんです。そういう人を見て、もちろん経験とか知識も大事だし、重ねていかなければならないと思いますけど、重ねても今のままでいるっていうことってすごく大事なんだなって思いました。」
——メッセージをお願いします。
「物語は複雑ですが、その中で若い三人の青春や揺れる心のような、この年齢特有のものがちゃんと出ればいいなと思って演じてました。小夜子と由似子のシーンで爽やかな気分になってもらえたり、最後にはちょっと癒されてもらえるように頑張りました。そういうところにも注目して観てください。」
執筆者
Tomoko Umemoto