2005年の正月映画として中国で公開され、あの『カンフーハッスル』をしのぐヒットを記録した『イノセントワールド—天下無賊—』が、このゴールデンウィーク、ついに日本で公開される。中国の正月映画には欠かせない人気監督フォン・シャオガンの快作。フォン監督が本作のヒットの後に手がけた『女帝[エンペラー]』も、この6月に日本公開が決まっている。
『イノセントワールド—天下無賊—』は、疾走する列車のなかで繰り広げられるサスペンス。チベットで大金を抱えた純朴青年に出会い、悔い改めて青年を守ると誓うスリのヒロインと、その彼女を前に青年から大金を盗んで見せると宣言するパートナーの男、そして、彼に対抗意識を燃やす窃盗団が列車という閉鎖された空間で繰り広げる攻防戦。主演は『墨攻』の記憶も新しいアンディ・ラウ、ヒロインは『ダブル・ビジョン』のレネ・リウ。このふたりにフォン監督の名パートナーであり『女帝[エンペラー]』の日本公開も控えたグォ・ヨウ、『ドラゴン・スクワッド』のリー・ビンビンらが絡む。正月映画らしい華やかなキャスティングだが、フォン監督作品としては異色でもある。先ごろ来日したフォン監督に、本作についてうかがった。






■人々が見たいと願う夢を描きたかった

——監督の映画は、以前『ハッピー・フューネラル』などが日本で上映されていますが、都会的な映画を撮られる方だと思っていました。が、今回は都会的とは言えない題材ですね。

「たしかにそうです。私は、今まで現実の世界を描いてきましたが、今回の『イノセント・ワールド—天下無賊—』は、私にとって現代の童話です。現実世界は、戦争や衝突もあり、決していいことばかりではない。だから、皆が夢を見たい。その夢を描きたかった。中国のことわざに“浪子回頭(金不換)”という、悪人が善行をして本来(の善人)に戻るという意味のものがあり、観客はそういう姿を見たいのです。現実世界はどこにも泥棒がいるけれど、皆、泥棒のいない世界の夢を見ている。スリが題材になっていますが、泥棒のいない世界を舞台にして泥棒のいない世界を描くのでは面白くないでしょう。たとえば、ふつうの善良な女性が良い行いをしても面白くない」

——泥棒が善人になる姿を描くためにチベットという場所が必要だった?

「悪いことをしている人たちにも善人になりたい欲求があるでしょう。でも、自分の力ではできない部分があり、そうなると宗教的な力を借りて善人になる。過去の悪行に対し、処罰を受けるのは当然だとヒロインは思います。そこで、自分は処罰を受けてもいいが、子供は罰を受けないようにと祈る。そういうことを描きたかった。だから、そこで宗教的なものとしてチベットが出てきたんです」

——チベットは高地で大変だったのでは?

「高地だと皆どうしても動きが鈍くなりますね。早く動くと息が切れてしまいます」

——列車でのアクションもスリリングで素晴らしいですね。撮影で苦労した点などは?

「もちろん工夫しました。車両のシーンはすべて北京に作ったセットで、屋根を吊り上げたり壁を外したりできます。スリのシーンについては、(当局から)リアルに描写するのはやめてほしい、皆がマネするからと言われたので、あまりはっきりと表現できませんでした」

■スケジュールの遅れにも協力的だったアンディ・ラウ

——主役にアンディ・ラウをキャスティングした理由を教えてください。

「それは、興行的なことです。アンディは、香港・台湾に限らず中国でもすごく人気のある俳優ですから。彼は、ひじょうに聡明で努力家です。私は今までの香港的なオーバーな演技ではなく、もっと自然な、もっと大陸の俳優たちのような演技を彼に望みました。彼は、大陸的な演技もうまかったですね」

——ヒロインのレネ・リウはどうでしたか?

「私は、レネ・リウの雰囲気がすごく好きだったんです。あの泥棒の役は、泥棒らしくない女性に演じてほしかった。レネが他の女優と違うのは、お金のために女優になりたいと言う人が多いなか、彼女はそうではないのです。家庭も裕福であるし、お金のためではなく、本当に女優業が好きなのですね。それに、たくさん本を読み、インテリジェンスもあると思います」

——アンディは香港出身、レネは台湾出身、グォ・ヨウらは大陸の俳優ですね。仕事はやりやすかったですか?

「どこの出身だろうと関係ありません。レネに限らず、ほかの俳優たちとも仲良く、順調に撮影をこなしました。特にアンディ・ラウは、本人もやる気満々で仕事はうまくいったのですが、撮影に60日かかりました。当初の契約は45日間でした。ですが、60日かかったのに文句も言わず、追加料金の請求もなく、とても協力的でした」

——今後はどんな作品を撮っていかれるおつもりですか?

「いい脚本があればどんな映画でも。今回の来日で北海道を訪ね、北海道の風景を見てラブストーリーを撮りたいと思い始めたところです。とてもいい物語ができそうですよ」

——北海道でロケ撮影をするということですか?

「とてもいい所ですから、北海道で撮影したいですね」

——北海道はどこに行かれましたか?

「釧路、阿寒湖、屈斜路湖、知床、網走。今朝は、知床から女満別空港に行って、途中北見もまわりました。本当にいいロケーションですよ。とても美しい。道端に鹿もいっぱいいて、雪が降ったり、止んだりして。人も少なくて、2日目に泊まったホテルでは貸切状態でしたよ(笑)」
 
 
 

執筆者

Kuniko Inami

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