直木賞作家、石田衣良の同名小説を映画化したユニークでパワフルなオタク活劇がDVDで発売された。

何かと注目を集める街「秋葉原」を舞台に、5人の個性的な若者たちが弱小ベンチャー企業「アキハバラ@DEEP」を起業する。そんな彼らの行く手に立ちはだかる巨大IT企業に立ち向かうため、そして彼らの大切なものを守るため、若者たちは勇気を振り絞る……。

成宮寛貴、山田優、忍成修吾など、人気の若手俳優を中心に、荒川良々、寺島しのぶ、萩原聖人、佐々木蔵之介など、個性派が脇を固める豪華なキャストが出演。

今回はそんな痛快娯楽作のメガホンをとった源孝志監督にお話を伺った。










■幸運なことに原作者の方には恵まれてます!

この作品は源監督としては異色な感じがしたのですが?

「映画に関して言うと、確かに『東京タワー』『大停電の夜に』はストイックな感じでしたね。でも、僕はテレビドラマでもこういうタイプの作品をやっていたので、実は不得意というわけではないんですよ。お笑い番組や歌番組もやっていましたから」

『東京タワー』『CHILDREN』など、源監督は原作ものを多く手がけてきたイメージがあります。

「いえ、むしろ僕は原作ものを手がける方が珍しいんですよ。テレビドラマを演出するときは、オリジナルものが多かったですからね」

そうだったんですか! 原作のある作品を映画化することについては、どう感じていらっしゃいますか?

「たとえば長い原作を2時間にまとめようとすると、原作者が意図しているものと離れてきちゃいますよね。それにできるだけ広いお客さんに見てもらおうとすると、どうしても原作が持っているマニアックな部分は吸収されてしまう。だから原作ファンからすると、『なんだ、映像版は全然駄目じゃん』とか言われちゃうんですけど、そう言われるとしゃくにさわるでしょ(笑)。

 だから原作物にはいつも臆病になるんですけど、、中には石田衣良さんや江國香織さんのように、『映画は映画ですから勝手に味付けしてオッケーですよ』と言ってくださる方がいるんです。だから原作者の方からNGが出たことはないですね。原作者の方にはいつも恵まれてるんです」

石田衣良さんの小説が映画化されたのは今回が初めてと聞いて、意外でした。

「『IWGP』なんかは、テレビとかでしかできない感じですからね。これは悪い意味じゃなくて、ある種の乱暴で薄っぺらな感じがありますからね。出てくるのも、哲学的な子でもなく文学的な子でもない、今時の子だし。
 自分たちの高校時代や中学時代を振り返ってみてもそうですよね。厚みがないというか、薄っぺらで。欲望の分だけギラギラしていたり。そういうのを出す場合、ある種テレビの持つ、いい意味での奥行きのなさがいいのかもしれない。この映画もあえてテレビ的に撮ったというわけでもないんですけど、感情の流れはシンプルに、と思いましたからね」

秋葉原という街を描くにあたってリサーチはどのようにされたのでしょうか?

「たまたまチーフの助監督が理系の大学だったんです。だからよく教授に秋葉原に買い物に行かされていたらしくて、裏道とかもすごく詳しいんですよ。なので、その助監督とふたりで地味に歩きました」

山田優さんが働くメイド喫茶はものすごくゴージャスでしたね。

「実際にメイド喫茶にも行ったんですけど、あのチープな感じを再現しようと思うと、何か違うんですよね。だからどうせなら嘘ついちゃえと思って。外国人があれどこにあるの? と思わず聞いてしまうようなものを目指したんですよ。あんな豪華なグランドコスプレ喫茶なんてないでしょ。あれは60年代のグランドキャバレーのイメージなんで。美術館がクラブになったりするような、ウォン・カーウァイやリドリー・スコットの映画のようなああいう虚構が欲しかったんですよ。映画は虚構を楽しむものですからね」

そういう意味では彼らの本拠地となる事務所のオンボロ感も良かったですね。

「たまたまとり壊し寸前の物件を見つけて、そこを撮影が終わるまで壊さないでくれと頼んだんです。意外と神田って過疎化が進んでいるんですよ。昭和30年代に作った、中途半端に古いテナントがたくさんあって。そこがけっこうガラガラなんですよね。ああいう感じを出したかったんです。
 撮影が終わったらとり壊したみたいで、もう今は更地になってますけどね」

■山田優は将来的にユマ・サーマンみたいな女優になるといい

俳優さんたちをいわゆるオタクに仕立てあげるのはどうでしたか?

「最近の若い俳優さんというのは、みんなマイペースで、一人上手なんですよ。みんなケータイをいじったりとか、本を読んでいたりしてますからね。だからみんな基本的にオタクなんですよ(笑)。(荒川)良々なんかは見るからに究極の一人上手でしょ? みんな勝手に好きなことをやってますから、その感じをそのまま現場に持ちこんでますね」

山田優さんしかり、寺島しのぶさんしかり、女性の強さが目立つ映画だったと思うのですが。

「それは石田さんの原作がそうでしたからね。別に役割分担をしたわけでもないんだけど、一番キャラクターにマッチした人を選んだら自然とそうなったんですよね。たぶんこのメンバーの中でケンカしたら、一番強いのは優ちゃんだと思うし(笑)」

山田優さんのトレーニングはどれくらいやったんですか?

「1ヶ月半くらいでしたかね。ただ彼女もアクションの経験はあったので、とりあえずムエタイのトレーニングを。だから初めて2週間くらいは筋肉痛だったらしくて。『今日、練習見に行っていい?』と聞いたら、『今日は足が上がらないんで、見に来ないでください。もうちょっといいコンディションの時に見に来て欲しい』とか言われて。彼女、そういう見栄っぱりなところもあるんですよね(笑)」

最新作の『プルコギ』(GW、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー)でも見事なアクションを見せていたので、この映画でアクションに目覚めたのかなとも思ったんですが。

「やはり身体能力が高い人ですからね。同じ『CanCam』のモデルでも、エビちゃんや、もえちゃんとかとは、肩の切り方がひとりだけ違いますからね。男っぽいなとか思って(笑)。だから、将来的にはユマ・サーマンみたいな女優さんになってくれるといいんじゃないかな、という感じはすごくするんですけどね」

ユマ・サーマンみたいな女優に、というのは同感です。

「チャン・ツィイーやミシェル・リー、コン・リーなんかも、みんなアクションは得意ですからね。女優はああじゃなきゃというのはありますよね。でも、特に日本の女優さんは、身体的なことは二の次という感じがどこかにあると思うんです。
 でも、寺島さんとか、優ちゃんとかはすごく身体能力は高いですよ。思った通りの位置に次から次へと移動して、こちらの撮りたいような動きをやってくれますからね」

カメラを動かしてもフレームに収まるということですね。

「でも、忍成(修吾)とかはたまにちょっと外れたりするんですよ(笑)。優ちゃんや寺島さん、それから平井の役をやってくれた舞台俳優の今井朋彦さんなんかは、一発でいい位置に来てくれますね」

山田優さんと戦った寺島しのぶさんはどうですか?

「僕が監督した映画には全部出てもらっているんですよ。原作にはない役でしたけど、本人は格闘マニアなんでこの役をやってもらいました。
 ただ、ちょうどこの撮影が終わったらすぐに『愛の流刑地』の撮影が入ると言っていたんですよ。あざや怪我を心配したんですけど、気にしなくていいですよと言われて。女優だな、と感心したんですが(笑)」

では、最後にこの映画の見どころを教えてください。

「駄目なところがいっぱいある人間の美しさというか、駄目な奴が頑張る話が僕はけっこう好きなんですよ。草食動物が肉食動物に噛みつくといったね。ヤギとかがライオンに、無理して思いっきり腰をひけながら、一生懸命噛むといった。そういうエネルギーに溢れている作品だと思うので、単にオタクの話ということではなく、そういう部分を見ていただきたいですね」

執筆者

壬生智裕

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