『男たちの大和/YAMATO』を興収50億円の大ヒットに導いた角川春樹プロデューサーの最新作『蒼き狼 地果て海尽きるまで』がいよいよ完成した。本作は総製作費30億円をかけた壮大なスケールで、モンゴルの英雄チンギス・ハーンの生涯を描き出す超大作である。オール・モンゴルロケ、2万7000人のエキストラを集結した即位式の場面など、大迫力の画面は一見の価値ありだ。

 そこで今回は、チンギス・ハーンを支える弟ハサル役を演じた俳優の袴田吉彦さんの独占インタビューをお届けすることにしよう。




オール・モンゴルロケということで、撮影に4ヶ月かけるという壮大なスケールの作品でしたが、この映画のオファーを受けた時はどう思いましたか。

「正直、困ったなぁと。1週間や2週間の海外ロケというのは今までにもあったんですが、それでさえ家に戻れないのはつらかったんですよ。それが今度は4ヶ月ですからね。ストレスがたまらないか不安でした」

実際にモンゴルに行ってみたらどうでした?

「最初は、行ったことのない国だし、街もあるので、わりと新鮮だったんですよね。ただ最初の1ヶ月で行けるところはだいたい行き尽くしちゃったんで。2ヶ月くらい経ってくると、今度はやることがなくなってくるんですよ。すると昼間からお酒を飲んだり、あとは馬に乗ったりとか。だんだんモンゴルの生活の方が慣れてきて。月1で東京には帰っていたんですが、その頃になるとモンゴルに帰りたいと思うようになるんですよね」

袴田さん演じるチンギス・ハーンの弟ハサルは、馬を自在に駆り、弓の名手として戦場で活躍する勇者でした。演じるのは大変じゃなかったですか?

「馬に乗ること自体は楽しかったんですよ。ただ、撮影に間に合わせなくてはいけないですからね。しかも乗るだけじゃなくて、特殊なことをやらなくてはいけないので、それは多少不安でしたけど。でもやるしかないので、半分は神頼みでしたね。
 日本では馬の練習が少ししか出来なかったので、モンゴルでは撮影の合間に、できるだけ多く乗せてもらっていました。今回は引きの画面以外はほとんどスタントがなかったんですよ。それなのに後ろに300騎くらいいるので、もしそこで馬から落ちたりでもしたら後ろの馬に踏まれて、もう大怪我どころではないですからね。そこは一番神経を使いました。
 それに弓だけでも難しいのに、馬に乗りながらですからね。でも弓が撃てなかったらハサルじゃないということで、プレッシャーはありましたね。それでもなんとか頑張りましたが」

ハサルの役作りはどうでしたか?

「ハサルって、ポジションとしては中間管理職なんですよ。上からも言われ、下からも言われ、それをまあまあとなだめる、みたいな。だから自分を出せる場面がなかなか見つからなくて、すごく苦労したんですよね。
 角川さんからは『もっと自分を出さなきゃダメだよ』と言われ。でもこの役は気持ちを押し殺さなければいけないので悩みましたね。だから唯一、戦闘シーンだけは、その押し殺した自分を解放できるところだったんですよ。アクションシーンの撮影に行くのは本当に楽しかったですね。ストレス解消というか(笑)。人間って危険と隣り合わせで、やるかやられるかという状況にあると、生きている熱い実感がありますよね」

あれだけの合戦シーンで、怪我をした人はいなかったんですか?

「最後まで怪我のないようにと思っていたんですけど、最後まであとちょっとというところで、テムジン軍の中のひとりが鎖骨を折ってしまったんですよ。馬に乗るときはみんな細心の注意を払っていたんですけどね。
 とはいえ、迫力あるシーンにしなくてはいけないので、チャレンジはしなければいけない。普通に考えたら流鏑馬(やぶさめ:疾走する馬から弓を射る弓術)なんて無謀ですからね。それでも出来たらかっこいいですからね」

逆に言えば、あれだけの迫力で、怪我をしたのは1人だけというのがすごいですね。

「でも帝国を作ったテムジン軍の側近たちは、これだけの戦をやったのに誰も死んでないですからね。実際には。自分たちでもやってみて、よく死ななかったなと。相当強かったんだろうなと思いますよね。
 チンギス・ハーンは後ろの方で指示を出している立場ですけど、ハサルとかボオルチュとかは最前線にいますからね。それで死なないんですからね。すごいなと思って。
 本当だったら即位式の時には側近たちはもっと傷だらけだったと思うんですよ。実際どうしようかという話もあったんですが、傷なしでいこうと。でも本当は傷だらけだったと思いますよ」




袴田さんにとって、チンギス・ハーンはどんな人だという印象がありましたか?

「知略家ですよね。頭いいんだろうなと思いますよね。でも本当は残っている資料を読んだ時点ではあまりチンギス・ハーンのことを好きになれなかったんですよ。何がいいんだろうと」

でもそれを反町さんがやると熱い感じがしますよね。

「本人も人間味溢れるように演じたいと言っていましたからね。だから反町君がやったときに、どこからあのようなスタイルを探してきたのか。あの時代にあれだけの人たちがついてきたわけですから、どこか惹きつけるものがあったんでしょうね」

資料には女性の視線から描いた映画とありましたけども、やはりこれは男の映画でもありますよね。

「本当にそうですね」

この中で好きな人物はいましたか?

「野村祐人さんが演じていたチンギス・ハーンの側臣ボオルチュですね。ぶっちゃけ言いますけど、本当はその役がやりたかったんですよ。やらせてくれと言ったんですけど、いろいろ話していくうちにハサルになったわけです。でも終わってみれば、みんな適材適所の役柄にいるんだな、ということが分かりましたけども」

確かに野村さんのボオルチェもすごくいい味を出してましたね。現場では野村さんとすごく仲がよかったとか。

「祐人さんのことはデビュー前から知っていたので、ずっと一緒に仕事したいと言ってたんです。それで僕がようやくテレビに出られるようになったと思ったら、今度は祐人さんが海外に行っちゃったので。また十何年ぶりに一緒に」

袴田さんから見た野村さんとは?

「祐人さんは僕の芝居の先生なんですよ。力のある人ですからね。本当に影響を受けています。今回も共演してそばにいてくれたということで、助けられた部分がいっぱいありました」

助けられた部分というのは?

「僕の芝居をモニターで見てもらっていたんです。それを見ながらアドバイスを。実際にハリウッドでもそういう仕事の人がいるらしいんですね。役者について、アドバイスをする人が」

監督じゃなくてですか。

「だからやってくれと頼んで。やっぱり自分がやってるのって外から見てると分からなかったりしますからね」

反町さんはどうでしたか?

「10年前に一緒にやっていたときよりもイメージが随分変わりましたね。お父さんになったからですかね。大人になった感じですよね。実際にモンゴルにいるときは意識的にでしょうけど、アニキ的な役割でした。年は一緒なんですけどね。結婚するとこうも違うのかなぁと思いました」



非常に団結力の強い撮影現場だったそうですね。

「このメンバーに巡りあえて、自分のこの先の考え方や進むべき方向をすごく感じましたね。でもそれはこの『蒼き狼』があったから巡りあえたということもありますからね。だからこの映画に出させていただいたことを非常に感謝しています。
 僕はモンゴルで誕生日を迎えたんですよ。誕生日パーティをしてもらって。そこで角川さんから誕生日プレゼントをもらったんですよ。向こうの画家の人が描いたチンギスハンと大群の水墨画を。そこに蒼き狼と書いてあって。それはすごく嬉しかったですね」

袴田さんにとって、角川春樹とはどういうイメージだったんでしょうか?

「最初、この映画の話が来たときはビビりましたよ。『やばいな。角川さん怖そうだな。大丈夫かな』みたいな(笑)。でも、実際は全然そんなことはなくて。アニキのような感じでしたね。
 撮影の後は毎日、角川さんの部屋に集まって、台本を読んだり、芝居の話をみんなでしました。でも、芝居の話は2〜30分くらいで、あとは世間話をしながら飲んでるだけなんですけどね。角川さんもそういうのが好きみたいで、率先して騒いでましたね。『角川さん元気だなぁ』とか思いましたけど。だからイメージは随分変わりましたね」

即位式のシーンは角川さんが監督を務めたそうですね。

「角川さんは見事にあの大人数をまとめましたからね。しかもあの人数を前にして、日本語で『みんな聞いてくれ! ありがとう。じゃあよろしく!』ですからね(笑)。角川さんのテンションはすごいですよ。
 こんなスケールで、実際にこれだけの人数を集めているんですから。これからの役者人生でもこんな経験はもうないでしょうね」

最後に観客の皆さんにメッセージをください。

「この壮大なスケールの映画は、今後ないんじゃないかと思います。だからこのスケールの大きさは映画館で見なければ話にならないですよ、ということを強調したいですね。もちろんDVDも思い出として買っていただきたいんですが(笑)。是非とも映画館に足を運んでいただきたいですね」

執筆者

壬生智裕

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=44652