『自殺サークル』『奇妙なサーカス』『紀子の食卓』など、海外で高い評価を得る園子温監督最新作『気球クラブ、その後』。園監督自身が10年前に購入し、自宅の屋上で雨ざらしになったままの黄色いバルーンを見つけたことから始まったこの映画は、映画という場所以外で表現されることを許さない秀逸な作品となった。

黄色いバルーンが呼び起こした、”うわの空”ほどに澄み渡る青春。そんな世界を中心で生きたのは、11月に公開された園監督『HAZARD』にも出演した深水元基。
そして、その深水演じる北二郎など登場人物たちが所属する”気球クラブ・うわの空”と同じ名前を持つ熱気球クラブをもち、気球のフライトシーン撮影に全面協力した”熱気球クラブ・うわの空”代表・荒木威さん。
お2人に協力により、ここだけの対談が実現した。
前日には渡良瀬で気球に乗ったという2人が、興奮冷めやらぬまま、『気球クラブ、その後』、そして映画監督・園子温を語った。







—昨日は、天気大丈夫だったんですか?
荒木威(以下、荒木)「もう帰り道でざあざあ降りでした」
深水元基(以下、深水)「そうですね。前日の夜にみんなで鍋やって、朝6時起きで出発したんですけど、そのときも危なかったですよね?」
荒木「そう、パラパラ雨が降ってて。でも、飛ぶ直前になって止んだから平気だろうなって飛んだんだけど、その間は雨にも降られず。ほんとラッキーだったね」

—気球はどうでしたか?初めてですか?
深水「初めてでした」

—撮影中は乗ってないんですか?
深水「乗ってないですね。気球が飛び立つとこは間近では見ていたんですけど。乗れたときは、メチャメチャ感動しましたね。もう、浮いたときからすごかった。どんどん上がって、雲の中も入って雲の上まで行ったんですよ。雲が上に見えた状態から、その雲の上に抜けるまでっていうのを体感できたのが、ものすごい感動的でしたね。なんか、ラインが見えるんですよね」
荒木「雲海のね。雲の境目が見える」
深水「天国に行った、っていう気分ですね」

—園さんも撮影後に気球に乗りにきたんですよね?
荒木「そう、園組のスタッフの人と一緒に来て、同じ様に鍋やって次の日の朝飛んだ。大変でしたけどね。朝まで飲んでたから(笑)」
深水「朝までいったんですか?じゃあ寝ないで?」
荒木「そう、寝ないで朝まで飲んでて。園さん、寝させてくんないんだよね(笑)」
深水「(笑)園さん、タフですよねぇ。たまに電池切れで飲みながら寝てますけどね(笑)。で、復活するんですよ(笑)」
荒木「タイミングがうまいもんで、俺が寝ようとすると起こされんだよ(笑)」

—撮影中は、誰が乗ったんですか?
荒木「永作(博美)さんと、長谷川(朝春)さんですね。そこに僕が下に隠れて」

—確か、気球の撮影日数は・・・
荒木「一日のみですね(笑)」
深水「ほんとすごいですよね(笑)」
荒木「フライトシーンを撮る日は、一日のみしか設定されなかったから、もしあの日だめだったらもう予備日はなかった」
深水「予備日なかったんですか!?」
荒木「ええ、なかったんですよ(笑)」
深水「ハハハ!」
荒木「うちら基本的に週末しか人を集められないんで、週末しかやらないんですよ。撮影、1週間だけだったじゃないですか」
深水「はい」
荒木「1週間のうち週末1回しかないしね(笑)」
深水「すっげぇ〜。あの日、もし雨だったら、この映画には飛んでるシーンはなかったんですねぇ(笑)」

—ポスターとかの写真もなかったんですよね?
荒木「なかったでしょうね」
深水「飛び立つところと、長谷川さんと永作さんの空の上での会話とかもですよね」

—あのシーンはかなり大事なシーンですよね(笑)
荒木「うん。たぶんやるとしたら地面にゴンドラ置いて(笑)」
深水「うわぁ〜(笑)」
荒木「たぶんそういう風にやったんじゃないのかな。うまくいっちゃったから、うまくいかなかったときのことなんて考えてないのかもしんないけど(笑)」

”この『気球クラブ、その後』みたいに、気球の活動自体が描かれたものっていうのは今まで一回もない”

—荒木さんは映画をご覧になったんですよね?
荒木「はい、見ました」

—どうでした?
荒木「いやぁ、やっぱりいいですよ。ほんと。大体、熱気球って映画の中では道具として使われるんですよ。だから、この『気球クラブ、その後』みたいに、気球の活動自体が描かれたものっていうのは今まで一回もない。しかも、結構リアル。実際に気球をやってるほうから見ても、遜色ないというか親近感が沸くシーンがいっぱいある。それが面白いんですよね。気球やってる人はたぶん、みんな見に来ると思いますね」
深水「みんなで鍋を食うとか、ワイワイ下から追いかけるとか、なんかノリが似てますよね」
荒木「似てますね。とくに学生チームは本当にああいうノリですね。でも、園さんには鍋の話はたぶんしてなかったと思うんだけどな。鍋のシーンあるじゃないですか?」
深水「はい」
荒木「後から何で知ってるのかって聞いたら、『これはもうわかったんだよ』って。『気球って言ったら鍋だろう』て言ってた(笑)」
深水「(笑)。どこまでほんとか(笑)」
荒木「ハハハハ。でも、実際本当によくやるんですよ。昨日もやったしね。うちらの気球クラブは、基本的に簡単なんで鍋やるんですよね」

—園さんとはいつごろお会いになったんですか?
荒木「撮影が10月の初めで、実際にスタッフの人から連絡が来たのがその2週間くらい前。最初はメールで連絡がきて、『ちょっと気球のこと教えてくれませんか?』みたいな形で言われて、『まぁいいですよ』って軽く電話で返事したんです。そしたら、次の日くらいにちょっと打ち合わせみたいのがあるから来てくれないかって言われて。それで監督の家に遊びに行って、そこで気球の話をした。それが初めて会ったときですね」

—園監督とお会いになってどうでしたか?
荒木「最初はあまり喋らないんですよね?」
深水「あぁ、そうですか」
荒木「そうそう、最初は喋らなくって。俺、園さんのことあまり知らなかったんですよ。『自殺サークル』のことは知ってたんですけど、違う人が原作を書いていると思ってた。その日に初めて会って、スタッフの人が何人かいるし、最初はあまり喋らないしで、誰が監督なのかわからなかった(笑)」
深水「はい(笑)」
荒木「話している内にわかったんだけど(笑)。で、そのときに初めて、みんなで監督の家の屋上に雨ざらしになって腐ってた黄色いバルーン(*気球クラブのメンバーが、そのバルーンに電球を入れて飲み会をする気球バー。この『気球クラブ、その後』は園監督が自宅でそれを見つけたことから始まった)を広げた」
深水「あぁ。初めて会ったその日に広げたんですか?」
荒木「そう、その日に。俺も手伝って。中から腐った水が出てきたりしてる中でびりびりはがして(笑)」
深水「気持ち悪いですね(笑)」
荒木「もう、映画の中にでてくるのなんかきれいなもんだよ。ほんとにあれの3分の1以下の体積でびちゃーってなってた」
深水「園さんもよく10何年か前に気球を買いましたよね(笑)。でも、あの気球バー、中に電球いれたらすごいきれいですね」
荒木「うん、きれいですよね。あんなものが映画の中ではすごいきれいに変わっちゃうんだからびっくりした」
深水「あんなことは実際にはしないですよね?」
荒木「うん、絶対しないね。あれは本来は気球じゃないんですよ。アドバルーンなんです。だから普通、大きさ的にあれに人は乗れないですね。でも、あれに人を乗っけて飛ぼうという発想で、園さんも買ったからね(笑)」
深水「園さんも買うときにそうゆうのを知らされずに買っちゃったんですかね?乗れると思って買ったんですよね(笑)」

”出来上がるものが全然わからない”

—(笑)。深水さんは、園監督とのお仕事が『HAZARD』から2回目だと思うんですが、まず、深水さん自身は『気球クラブ、その後』のときはどのように北二郎という人物を演じていったんですか?
深水「一番意識したのは、癖がない人。ほんとに普通の人。で、やっぱ誰もが通るような青春時代を送ってる人にしたかった。誰もが共感できるような」

—それはなぜですか?
深水「持っているものの一部分として、誰もが共感できるキャラクターでありたかったんですよね。ちょっとでも癖がはいると、シンパシー沸いてもらえなかったりだとかするかもしれない。だから普通の人を演じようってずっと思ってました」

—監督の演技指導などは今回なかったと聞いたんですが、園さんは『HAZARD』のときと比べて変わられましたか?
深水「演技については何もなかったですね。園さんは、作品によって違うらしいんですけど、テンションが違うんですよ。テンションというか、園さんの現場のいかたというか。なんか『HAZARD』のときはみんなノリで『ワーッ!!』っていう絵だったので、監督自身も現場でそういうノリなんですよ。でも今回の『気球クラブ、その後』のときは、ものすごいおとなしいなっていう印象なんですよね。青春映画をじっくり撮ってるっていうテンション。僕はその2つしか一緒ではないんですけど、やっぱり他のスタッフさんに聞くと、みんなそう言っていますね」

—他の監督と比べて特有のものってありますか?
深水「ほかの監督とは、もう全然違いますから(笑)。なんだろう、園さん特有のものは、出来上がるまで、何を撮っているのかよくわからないところかな(笑)。でも、大丈夫なのかな?っていう不安は全然ないんですよ。もう、監督にまかせれば、絶対いいものができるっていう確信がある。実際、この『気球クラブ、その後』のときも、当日出来上がった差込の台本が多くて、最初の台本とは出来上がったものが全然違うんですよ」
荒木「あぁ、そうですね」
深水「現場で当日渡されて、それに目を通して」

—美津子と村上の最後のほうのシーンも最初なくて、差込できたというのを聞きました。
深水「はい。あれは台本になかったですね。で、出来上がって、ああそういうことなのかって。これは他の現場では絶対ないですね。多少の差込はあったとしても、台本と同じくらいの差込が毎日あるっていうのはまずない(笑)。だから出来上がるものが全然わからない。映画の合間に僕のナレーションがあるんですが、そのアフレコ行ったときも、これをとりあえず読んでくれって台本渡されて。『気持ちとかどういうとこにいれるんですか?』って聞いたら、『いや、棒読みでいい』って(笑)」

—じゃあ、撮影しているときは本当にわからないですね。
深水「美津子っていう人物に関してもそうなんですよ。僕台本読んで、飲み会のときに彼氏の村上さんがいるのに、二郎とキスをするって知ったとき、『なんだ、この小悪魔的な女は』っていう風に思って(笑)。なんていう不思議な人なんだろうっていう風にずっと思ってたんです。でも、映画を見れば、やっぱり彼女の気持ちがわかるじゃないですか。映画を見終わると、村上へのあまりに深い想いとか、美津子が昔ながらの我慢している女性なのかなってわかるんですよね」
荒木「台本見ただけじゃ、誰がどういう風な人だっていうのはわかりにくいですよね。出来上がってみて繋がる」

”村上は子供みたいな青さを持ってる。でも、その青さがすごいきれい”

—“うわの空”っていうチーム名に関してもそうですか?確か、最初は違う名前にしようとしていたんですよね?
荒木「そうですね。チーム名については、違うものがいいって言うので、撮影中ずっと監督が考えてたんですよ。ただ、“うわの空”っていうのが最終的に残って『使っていい?』って言われて。結構嬉しかったですね、“うわの空”が使ってもらえて」

—あの名前かなりいいですよね。
深水「うん。いいですよね」
荒木「うち(熱気球クラブ・うわの空)のメンバーもみんな気に入ってますね」
深水「映画の中でもやっぱりしっくりきますもんね」

—村上と“うわの空”がぴったりですよね。
深水「そうなんですよ」
荒木「話しを聞かないとか、何かに夢中になって注意がいかないだとかそういう“うわの空”って意味もあるけど、実際には“空の上”っていう意味もちゃんとある。いい意味の“うわの空”っていうものがある」
深水「村上ってすごい魅力的な人ですよね。子供みたいな青さを持ってる。何かに夢中になると彼女もほったらかしにしてしまう。でも、その青さがすごいきれいですよね。うらやましい」
荒木「俺もああいう人は結構好きですね。確かに映画を見ると村上っていう人間と、“うわの空”っていう言葉がピッタリくる。監督が、ぴったりいくように作ってるんですよね」
深水「そういえば、監督言ってたんですけど、やっぱこれが『テニスサークル、その後』だったら(笑)、全然青春を感じない。やっぱり、気球だからこそ、青春を強く感じる」
荒木「普通にやってるから、そう言われるとそうなのかなっていう気がしちゃうんだけど、確かになかなかできることじゃないですよね。
結構すごいなぁと思うんだけど、本当に気球のことについては、監督の家に言って話したことしか話してないんですよ。その中で、途中から酒も入って飲み始めながら話したんだけど、たぶん2時間とかそれくらい。それだけの話なんですよね。『気球クラブ、その後』の台本の文章もらって、人間関係がメインだって話だったから、人が入った写真だとか結構持ってきて見せて。最初はそれだけしか話してないから、きっとちょっと実際とは違う風になるんだろうなと思ってたんですよ。でも、そこから園監督が作って広げていった世界が、実際の気球クラブの世界と同じように広がっている。俺が話してないのにちゃんと実際に見たみたいに広がってる。鍋もそう。だから面白いなと思って。かなり現実味があるというか、嘘がない。実際やってる人からみても、違和感がない」

—じゃあ気球をやっている人にも自信を持って薦められる映画ですか?
荒木「そうですね、気球やってる人に関しては全員見てほしいんですよ。でもそれ以外の人に関してもやっぱりいろんな人に見てほしいですね」
深水「ほんと、幅広く見れるから、中学生からおじいちゃんおばあちゃんまで。これから青春を送る人でも、また何年かしたら、『ああ、あの映画はそういうことなのかぁ』っていう風に共感もできると思う」
荒木「うん。深水くんが言っているみたいにジャンルを問わずに見てほしい。気球やってる人の中でも、同じように学生の頃バリバリやってたんだけれども、今はやめちゃったりだとか、社会人になってできなくなっちゃったりって人も、やっぱり普通にいるんですね。クラブが潰れちゃったってことも最近よくあることなので・・・。実際に気球をやってる人、卒業しちゃって離れちゃってる人にも見てほしいし、またそうじゃなく、気球じゃなくてもそういう風に青春真っ只中の人にも何かを感じてもらえるしそれに青春をちょっと過ぎちゃった人もちょっと前に戻って懐かしい頃の想像ができる。だから見る時々によって誰に感情移入するかっていうのは、たぶんその立場によってどんどん変わってくるんですよね。園さんの映画っていうのは結構そういうところがあるんですけど、何度見ても結構面白いんですよ。ひとつの立場の人でも、立場が変わったらもう一度、見直してほしい」

執筆者

林田健二

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