『夜のピクニック』主演・多部未華子 インタビュー
『博士の愛した数式』(小川洋子)、『東京タワー オカンとボクと時々、オトン』(リリー・フランキー)などの大ベストセラーが受賞した本屋大賞。その第2回で受賞したのがこの『夜のピクニック』(恩田陸)である。そのベストセラーの原作を長澤雅彦監督が映画化したこの作品で、複雑な人間関係を背負う貴子を演じた多部未華子。17歳とは思えぬ繊細な演技で、僕らの心を掴む彼女を今回インタビューしたわけだが、そこにいたのはあの見事な演技からは想像もできないような等身大の高校2年生の”女の子”であると同時に、その逆で17歳という事実に驚きを隠せないほどの落ち着きと、明確な意志を持ち合わせた”女優”であった。インタビュー終了時、彼女自ら、何歳も上の記者達に「ありがとうございました」と深く頭をさげに駆け寄る彼女に、”女優”としての気品を感じた。これは、今後日本映画界の中心に腰を据えるであろう一人の女優の、些細ではあるが17歳の頃を記した記録の一つである。
撮影前にミニ歩行祭を提案されたってことなんですが、普通に練習してても大変な距離だと思いますが、実際に経験されていかがでしたか?
大変でした。足だけが痛くなるんじゃなくて、全身痛くなるので、体力的に大変でした。キャストの子達と会うのがまだ2回目だったので、始めはすごくみんなとまどっていて、一日話が続くかどうかかなり心配で当たり障りのないことから話していったんです。でも、だんだんだんだん夜になってくるとどんどんどんどん仲良くなって、みんなの本当の性格がよくわかってきて、一日だけしか一緒に歩いていないのに、すごい仲良くなったので不思議でしたね。
じゃあ、やっておいてよかったっていう感じですか?
はい。なかなかできない体験だし、今ではいい思い出です。
キャストの方とはどんな話をされたんですか?
進路の話とか、学校生活、仕事の話だったり、将来の夢とか、恋愛の話とかいろいろですね。まさに映画の中で話しているような感じでした。
でもだんだん口が聞けなくなったりとかしてきますよね?
仮眠を2時間くらいとったんですけど、仮眠後の早朝はもう疲れちゃって。それまで何時間とずっと歩いていたので、逆に2時間止まると辛いし、足がちゃんと伸びなくなって、気持ちも高揚してるから寝れなくて。しかも、だらだら話しながらいたので、仮眠明けは本当に辛かったですね。
最後のどのあたりが一番辛かったですか?
ゴールが見えてきたあたりは、意外と元気ではしったりとかしてましたね。でも男性メンバーはほとんど脱落(笑)。女性がメンバーは全員区間ごとにバスを使わずできたんですけど、男性メンバーはバスに乗っちゃったりして。女性のほうが強かったですね(笑)
一番辛かったのは夕方とやっぱり仮眠明けです。
そのミニ歩行祭はなぜ提案されたんですか?
疲れを体験したかったっていうのと、キャストの子達とまだ一回しか会ってなくてその後撮影だったんですが、それだと高校三年間の最後の行事っていうコミュニケーションがぎこちないまま終わってしまうと思ったので、親交を深めるためにやりたかったんです。それと行事が好きで、原作を読んだ時に歩きたいなって思ったので(笑)
その原作の感想はどうでした?
原作を読んでいたのが、貴子の役だと決まってからだったんですね。だから貴子視点でずっと読んでいました。だから、貴子だけじゃなくて登場人物たちがすごい大人びてるなって感じましたね。自分の友達を見えないところで支えたりとかできるものなのかなって感じたり。
実際ミニ歩行祭をやられて特に仲良くなった方とかいますか?
親友の美和子役をやった西原亜希ちゃんですね。もう夜中とかずっと二人で歩いてましたね。
映画を撮ってから友達に対する考え方とか変わったことはありますか?
親友っていいなってすごい思いましたね。美和子と貴子の関係がすごくいいなって思って。あと学校を楽しもうって思いましたね。“今しかない”っていう戸田忍のセリフが印象的だったので。学生生活って人生の中でわずかな時間なんだって、それが身にしみてわかって、残りをもっと楽しもうと思いましたね。
今までの学生生活で歩行祭みたいに思い出に残っている行事はありますか?
行事が大好きなんで(笑)全部思い出に残っているんですけど、体育祭ですかね。みんなで何かをすることが好きなので、合唱コンクールとかも好きですね。
今回真夏の撮影でしたが、撮影中はどうでしたか?
楽しかったことは、撮影が終わった後にキャストの子と遊んだことですね。茨城の水戸って遊ぶところが限られていて(笑)カラオケか、丸井か、ご飯を食べに行くか、マッサージかその4つくらいしかなくて(笑)それをめぐってました。閉まるのが早いんですよね。だからホテルに戻って、みんなで明け方までずっと話して、眠くなったら川の字になって寝たりとか。長い修学旅行みたいな感じでしたね。
でも、夜の撮影が結構多かったので、普段寝てる時間に起きて撮影はやっぱり辛かったですね。あと、昼はすごい暑かったし。
石田卓也さんが演じた西脇融とは、恋愛関係以上に難しい関係だと思うんですが、演じる上で工夫した部分はありますか?
工夫したところは、特になくて、強いて言えば、考えすぎないところですかね。撮影前にいろいろ考えても仕方ないかなと思ったので、そのことについては特にはあまり考えずに臨みました。
この作品は自分にとってどんな作品になりましたか?
高校2年生の夏を全部これに費やしたので、特別これといったものはないんですが、心に残る作品になりました。
演じた貴子はどんな女の子だと思いますか?
クールで、何も考えてないようだけど、ちゃんと明確に自分の意志をちゃんと持っている女の子ですね。
この歩行祭に自分が参加するとしたら、必ずもっていこうっていうものはありますか?
う〜ん・・・、ドライマンゴー?(笑)ちょっと今食べたいなって思って。おいしいですよ(笑)
今回のこの映画の一つの見所が、中心人物以外の濃いキャラクターをもってる生徒たちだと思うんですね。万歩計の歩数をいつも気にしている女の子とか、いろいろ。その中で、お薦めというか、お気に入りのキャラクターはいますか?
キャラだけで言ったら私は高見(昼間は弱々しいのに、夜になるとハイテンションにロックを大声で語りだす生徒)が好きですね。
高見を演じた柄本明さんは普段どういった感じなんですか?
柄本君は普段は、おとなしい方なんです。私はあんまり話さなかったんですが、実はロックを全然知らなかったみたいで(笑)、監督と猛特訓したみたいですよ。
もし自分の友達にするとしたら全部のキャラクターの中で誰がいいですか?
美和子ですかね。本当に好きな性格のキャラクターです。落ち着いてるところが好きです。
映像もすごいきれいな作品でしたが、好きなシーンはありますか?
景色で言うと、夕日のシーンですね。セリフだと、戸田忍のセリフです。あとは、貴子がゴール直前に美和子に言う“ありがとう”が好きですね。」
多部さんにとって高校生活ってどんなものですか?
あと1年ほしいって感じです。友達と喋っている時が、一番楽しいですね。友達が変なことして笑っている時が一番幸せです。
これからどんな女優さんになっていきたいですか?
具体的にこの人って方は考えていないんですけど、今まで共演した方々が、演技の上手さよりも、普段の行動において尊敬できる方ばっかりだったので、そういうところを見習っていきたいと思います。
執筆者
林田健二