”第2のキム・ギドク”と呼ばれる新鋭イ・ユンギ監督。彼が自身の経歴を飾る長編第1作目に選んだのは、チョンヘという一人の女性の日常—地味で、感情を表に出さない、しかしだからこそ美しい一人の女性を、丹念にそして清らかに映し出した『チャーミング・ガール』。それは、釜山国際映画祭での最優秀新人作家賞をはじめとする数々の栄誉で賞賛されてきた。
そして、彼が映し出すチョンヘを演じたのは、女優キム・ジス。14年もの女優キャリアを持ちながらも、本作が映画初出演となる彼女。記者会見で「今まで出たいと思う映画に出会えてこなかった」と語った彼女が、ようやく出会えた映画『チャーミング・ガール』。彼女もまた、世界各国の映画祭で数多くの賞を受賞した。
そしてついに、10月7日、2つの才能が織り成す『チャーミング・ガール』が日本公開を迎える。その公開を前に、数々の映画評論家たちを唸らせた2人が、『チャーミング・ガール』の魅力を語った。






キム・ジスさんは映画初出演となりますが、ご感想は?
まず、この映画は2004年の夏に撮影をいたしまして去年、韓国では公開になった映画なのですが、この映画に出演するにあたって自分に負担がなかったかと言うと嘘になります。なぜならば、少女時代以外のほとんどのシーンを、自分が一人でドラマを引っ張っていかなきゃいけない。そういった心理的な負担がかなり大きかったことは否めません。ただ、撮影現場に入ってからはだいぶそういうものはなくなって逆に心が軽くなっていったと思います。私は10年以上のキャリアをもっていますが、そのキャリアに傷がつかないように立派に務めていこうと心に留めて、作品に望んでいったと思います。

郵便局員という主人公の仕事をかなり手馴れた動作で演じていましたが、何か役作りをなさったのでしょうか?
そのシーンはたくさん登場しますが、同僚役のほかの女優さんたちも手馴れた動作をしないといけないので、実際に郵便局員たちの動きを撮影して、そのビデオを監督に渡されて見ました。その後に、実際にみんなで郵便局にいってどんな動きをしているのかを見て、撮影の時は必ず一人後ろにいて、今の動きはおかしいとかチェックをしていました。

背中や横顔など、チョンヘの全てを映さないようなアングルが非常に多かったのですが、特に意識した部分なのでしょうか。
私がいろんな映画をみたときに、でている俳優の感情をより感じることができるのは、横顔ですとか後姿からなのです。他にも正面から撮ったり、ズームアップしたりというシーンがでてきたましたが、例えば、普通に日常生活で人を見たときも、その人が疲れていたり、気落ちしている時に、前から見るよりも後ろから見るとその人に哀れな気持ちやかわいそうという感情を受けたりということが多いと思います。だからそういったシーンが多くなりました。
実は、他の俳優さんもそうなのですが、ずっとカメラが後ろから追っているので、ある日、「今日もまた後ろから撮るんでしょ?いつ前から撮るの?」ってキム・ジスさんから言われましたよ(笑)

生きることに積極的とはいえない一人の女性の生活を丹念に描いた作品ですが、作品のアイデアはどこから?
まずこれは短編小説が原作になっていますが、これを読んだときに、主人公の女性の生きる姿勢がすごく自分と似ているなと思いました。積極的に生きてはいないけど、なんとかちょっと頑張ってみようかなという姿勢ですね。その後、原作者とあって話していく中で、どんどんそれが固まっていきました。また、小説の中にはないのですが、自分の周りの身近な人たちですとか経験をちょっと膨らまして、それを起用して映画にしていきました。例えば、テレビをつけたまま寝てしまうところですとか、何もせずに部屋に座って髪の毛を拾ったりというところを、いろいろ自分の経験や周りの人を観察しながら踏まえていきました。面白くはないけれどもそれをいれることによって、より現実味を帯びてくるのではと思いまして。チョンヘは猫を飼いますが、私も一人暮らしをしていたときに猫を飼っていましてチョンヘみたいな行動をしていました。

キム・ジスさんと、ファン・ジョンミンさんをキャスティングしたのはなぜですか?
簡単に言うと、初の長編の映画ということもありますが、自分がキャスティングしたと言うよりもお二人にキャスティングされたという気がします。まずシナリオを見たときに、私自身もスタッフもみんな、だめだこりゃと(笑)。何も起きなくてつまらないし、これをいいと言ってくれる俳優さんはいるんだろうかと思っていました。チョンヘも、ファン・ジョンミンさんが演じた作家も、俳優からするとおかしな役ですよね。ちょっと言葉を喋って出て行ってしまって、助演にもならないようなちょっとしか出ない役で。そうしたらシナリオを読んで、そこからいいところを感じてくださってお二人から連絡をいただきました。お二人のお力添えでやっとこの映画をとることができたと思います。はじめは新人を起用しようと思っていました。そうしたらお二人のような人気のある方に演じてもらえて。こんなに人気の人を使っていいのかと思いながら、心の中ではよかったやっと映画が取れるなんて喜んでいました(笑)

地味で、セリフが少なく感情も押し殺したような女性を演じる上で苦労したことは?
常に主導のカメラで追っかけられていて、自分の1メートル以内に必ずカメラがありまして、それによって、慣れなかった頃はカメラに自分が縛られているような感じがしました。とても窮屈で演技がしづらかったですね。自由に演技をしづらいと言いますか。
あとはキャラクターで言いますと、常に無表情で自分の感情をほとんど表さないのがチョンヘですよね。でも、演じる際に何も考えずにただいるだけでは演技になりません。チョンヘというキャラクターになってなにを考えるのか、チョンヘというキャラクターだとこのときに何を感じるのか、とても悩みました。例えば、作家を食事に招待して、来なければ、私自身はすごく怒ると思いますが、それをチョンヘは表さない。外に表現しない。そういうところで女優キム・ジスと、キャラクターのチョンヘが調和をなさないんです。衝突するような相容れないものを感じてそれがなかなか大変でした。

もし女優でなければ、どんな職業に?
実は私いろんなことができるタイプではないんですよね。絵がうまくかけるわけでもないし、運動神経はいいほうではない。歌が上手いわけでもないし。他の事はあまりできないんですよ。
そういうことを言うとみんなあまり喜ばないんだよ。謙遜しているように聞こえるから早く何か考えろ(笑)
じゃあ私は建築家に。笑
そういえば小さい頃、将来の夢にアナウンサーと答えたことがあります。なぜなら国語の時間に読むときに先生に読むのがうまいからアナウンサーになったらいいわねって言われて。それにテレビをを見ていて海外特派委員とかがとてもかっこよく見えて。

アナウンサーやってももっとよくなっていたかもしれないけど、現時点では女優以外にもいろいろできると思いますよ、札幌でスノーボードのコーチをしたり(笑)
そうですね(笑)スノーボードとても好きなんです。

執筆者

林田健二

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