世界一のレベルを持ち300年以上の歴史を持つパリ、オペラ座バレエ。バレエの神に愛され、最高位のダンサー・エトワール(星)として輝きを放ち続けるニコラ・ル・リッシュが、俳優として画家を演じ、雲の上で華麗な舞を見せる。

今までのフランス映画とは一味も二味も違う『オーロラ』の魅力と、夢のような空間の舞台裏に迫る。

<ストーリー>
踊ることを禁じられた国に生まれた、類稀な踊りの才能を持つオーロラ姫は、傾国を救うため異国の王子との婚約を迫られる。美しいオーロラに求婚するため、自国の舞踏団を率い、舞踏会に挑む隣国の王子たち。しかし、彼女が愛したのは見合いのための肖像画を書いた名も財もない絵描きだった。やがて家臣の企みにかかり、国王の逆燐に触れた絵描きはオーロラの目の前で処刑されることに…。







——『オーロラ』はニルス・タヴェルニエ監督が情熱を傾けた作品ですね。
『オーロラ』はニルス・タヴェルニエ監督にとって、とても大事な企画だったんです。監督としてのキャリアの中でも重要な作品になったようです。この企画は実現するまでに、とても長い熟成時間を必要とした映画です。というのは普通の映画とは違いますよね。典型的な映画ではないということで、お金を集めることが難しかったようです。

——他の映画との違いや魅力はどこにあると思いますか?
この映画には独特なトーンがありますよね。例えば童話的なもの、ダンスを扱っていたり、画家の絵画を扱っていたり、独特なトーンの「オブジェ」だと思っています。そして、フィクションであるにも関わらず、おそらく45分くらい踊るシーンがあるんじゃないでしょうか。これは今まで出会ったことがないと思います。
もう一つ言い添えると、夢幻的な映画であることも大切なところです。リズムもとても独特で、第一部、第二部という風に言えば、第一部は、どんな人間がいて、どういう状況にいるかをまず提示し、後半で話が急展開して現実の世界から次の世界に移る。これは、ロマンチックバレエのリズムにも似ています。

——映画の撮影現場の舞台で踊ることは、いつもと違った感覚だったのでしょうか?
これはとても違う体験でした。見られている感覚がカメラの場合は近いんです。私がダンスをしているステージはかなり大きな場所が多いですし、オーケストラピットがあったりして、観客の距離が遠い。しかも、ステージというのは一つの箱のような感じで、照明が当たって、真っ暗闇の客席がある。一つの箱の中で演じているというような感覚があります。それに比べて撮影の場合、みんなが僕をずっと見ていて、みんなの顔が見えてしまう。かつ、そこにカメラが自分の中身をとらえようとしてじっと見つめている。ステージには舞台裏があって僕達がいつ出て行くかを決めます。映画の場合は「アクション」という声がかかると、そこで動きださなければならない。そういう違いがありました。

——この作品は、ご自身の中に何をもたらしましたか。
僕にもたらしたことを量的に測ることはとても難しいことですが、この撮影で可能になった事としてあげられることは、今までになかった出会いです。まず、ニルス監督をよく知ることができました。彼の世界感や、彼がどういうものに感性が動かされるのかを深く理解することができました。そして、撮影スタッフの働きぶりにも感動しました。スクリプター、小道具、照明、いろんな人達が撮影現場というステージの中で一番よいものを作りだそうとして、まるで振り付けされたダンサーのように働いている姿を目の前にして、とても感動したし、高く評価しました。それ以外には、犬と馬と共演しました。これは初体験でした(笑)。

——舞台の出演で来日、その映画、もともとこういう方向に進んでいたんですか?
私は演劇が好きなんです。フランスにはパリ・オペラ座と同じくらい大きなコメディーフランセーズというメゾンがあるのですが、そこの人たちに知り合うチャンスに恵まれました。『出口なし』演出家のギヨーム・ガリエンヌとは、偶然以前から友だちでした。実は以前、コメディーフランセーズから戯曲の演出依頼を受けたことがあります。この時僕は俳優として演じてはいませんが。この頃から僕の演劇への関心、視線というのが親密になっていきました。『オーロラ』の撮影が全て終わった時に、ギヨームから全く関係のないところで、たまたま話がもちかけられたんです。だから『オーロラ』と『出口なし』は全く別の物なんです。

——この作品では俳優、ダンサー以外に演出面でも関わっていたのですか?
まさに陰の仕事ですよ(笑)。とはいってもニルス監督がこの企画を温めてクランクインするまで6年、7年ぐらいかけて、じっくり彼がやってきたいと思っていたことを実現した企画だったので、彼自身が頭の中に全て持っていたんです。もちろんダンスの部分で、かつ、僕が関係する部分に関しては、質問に答えて彼の問題を解決するような助けはしましたが、何よりもニルス監督の構想が大事でした。ある一つのシーンで、即興でダンスしてくれないかと言われたところがあって、別に最初からシナリオで決められていたわけではなくて、スタッフ達と一緒に仕事をする喜びを表現するために、まるで食いしん坊な人がよくばってつくったというところがありました。

——オーロラに恋をするまなざしが印象的でしたね。
一番初めにやるべきメインの仕事は、ニルス監督がイメージした通りのバンジャマンの役割を理解することでした。これが私にとっては一番大事で、そのあとは自然に演じようとしました。この映画には寓話的な要素がたくさん含まれていて、マルゴという女優自体も若いダンサーです。ですからバンジャマンは、オーロラに生まれる女性性とダンサーの誕生に立ち会っているといえます。ジャッジをしようとするのではなく、優しく目の前の人を理解しよう、好きになろうという視線です。それはバンジャマンという人がとても瞑想的な人だからです。

——バンジャマンの中にはどのくらいニコラが存在してますか?
分からないです(笑)。この映画に限らず、私が関心を持って取り組んだ企画全ての共通点として、自分を反映できるものを選んでいると思います。画家とダンサーという違いはありますが、彼と僕に共通点があることを望みたいですね。その感性というのは、相手を分かろうとする姿勢、相手に対する穏やかな視線を持っていることを願いたいです。

——一番好きなシーンはどこですか?
屋根裏部屋のシーンはとても好きです。ずっと閉められた箱を開けて、神秘的な物を発見する。パリ・オペラ座の小屋自体が好きなんですが、何かミステリアスで秘宝がある屋根裏部屋に入っていくような感覚があります。ですからパリのオペラ座も芝居小屋も好きですね。

——共演のマルゴ・シャトリエさんとはどのように接していったんですか?
この企画において、ニコラ・ル・リッシュという人物を消してバンジャマンに成り切ることが大事でした。バンジャマンだったらオーロラをどう見ているかという関係性で彼女を見ていたような気がします。バンジャマンは画家で、年齢の上でも外界と接触が多く、オーロラより経験がある。ですから彼女とはバンジャマンとして誘導し、ダンスに寛容性を示しました。それはさておき、マルゴと私の関係はとても良かったですよ。それにマルゴが踊っていたダンスは、観客に向けてというよりカメラに向かって踊っていたので、それを正確に判断するのはちょっと難しかったですね。

執筆者

Miwako NIBE

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