9人の仲間、食い違う記憶の行方は・・シチュエーション・ミステリー 『9/10 ジュウブンノキュウ』東條政利監督インタビュー
送り主不明の一通の手紙に誘われ、かつての高校野球部メンバー9人が7年ぶりに再会する。
近況報告やくだらないネタで盛り上がる9人だが、どこか辻褄が合わない。
とある空想的で非現実な洋館の一室を舞台に、じんわりと広がっていく不安と恐怖。
「何かがおかしい」
自分たちの思い出の大きな空白に気づくメンバーたちが向かう先にあるものは一体何なのか?
甲子園を目指し、人生の多感な時期を共有した仲間の友情とは?
実力派の若手俳優陣が迫力ある会話劇で魅せる、シチュエーション・ミステリー。初監督にして9人の個性を巧みに演出した東条政利監督にインタビュー
——すでに数々の話題作、有名監督の助監督を務めていますが、今回初監督をされて、助監督との違い、苦労したところは?
苦労というよりは、監督ということで自由度が増しました。 これは非常に幸福なことだと思いました。
——野球部を扱っていますが、野球の練習は?俳優の中に経験者は?
野球の経験者はいなかったんです。それでコーチを呼んで10日間ほど練習をしました。 僕はその練習には立ち会っていないんですが、撮影のときはみんなユニフォーム姿が様になっていました。
——タイムカプセルのキーホルダー、それぞれの意味は?
速水のRHは広末涼子のイニシャル、税理士の豊臣、通称“教授”は最初「そろばん」でしたが、高校時代の彼のもつ将来の夢を「そろばん」より大きなものにしたいと思いスペースシャトルに変えました。
——宝箱の秘密について
少年時代の夢の象徴だった宝箱をイメージしてタイムカプセルをデザインしてもらいました。『宝島』とかにでてくる宝箱です。また、タイムカプセルを音楽に関連づけたいと思い、オルゴールのように見えたらいいなとも思いました。このデザインについては夜の12時ころに日活に行って美術の斉藤さんといろいろ話して考えました。
——舞台となる洋館は?
空想的な、非現実な話をする部屋ということで洋館風な建物がこの作品にピッタリだと思いました。集まる洋館がどこにあるかという設定は特にしていません。『12人の優しい日本人』や古いアメリカ映画では『12人の怒れる男』のように話し合いを軸にストーリーを展開する映画が他にもありますが、それらの映画と比べて雑談のような自由な会話で作ろうとした映画だったんで、それぞれがばらばらにも話したりできるように、人が一つの部屋を移動してその部屋の中の色々な場所で話せるようにしたいと思いました。そのため、比較的自由に動ける広い部屋を探しました。
——岐阜県明星学園という設定は?
脚本のなるせくんが出身の岐阜県にしました。そのことで岐阜の地元ネタっていうのがでればいいなあと思いました。
——劇中の飲み物に青汁を出した意図は?
まずいとみんなに言わせたかったからです。あと、宜保くん一人が美味しそうに飲むというのが、彼のキャラクターを面白くするなと思いました。彼はあるシーンまで全くしゃべらないキャラクターだったんで、そこまで、どうやって彼を印象付けようかといろいろ考えたアイデアの一つです。他にも鼻をピクピク動かして返事をするとかしてもらいました。
——プチョン国際ファンタスティック映画祭で正式招待作品として招かれていますが、現地の評価は?
初日は200人ぐらい入る映画館で、6、7割入っていて、2日目は 行列ができるほどで、満員になってうれしかったです。1日目を見た人がインターネットの掲示板に書き込みしてくれて、そのおかげのようです。 反応も良くて、宜保くんが鼻で返事するシーンや、一人だけおいしく青汁を飲むシーンで笑いが起きていました。
——タイトル9/10について
題名を考えるのに非常に苦戦しました。原案者やサラマンドラピクチャーズの方々と何日も話し合いました。テーマの解釈が多様で複数であること、タイトルを聞いてクエスチョンを感じるようなものにしました。映画的で、感じて楽しめる映画になるといいなと。そういった意味で題名的にも挑戦的な映画にしたほうがいいなと思いました。そして、最終的に僕が提案した今のタイトルになりました。
——今後はどのような方向で映画を作っていきたいですか?
ジョン・カサヴェテスの映画が好きで、人の感情を俳優の芝居を通して観客に感じさせるものをつくりたいですね。ジャンルにはこだわっていません。
——これから映画を見る人にメッセージをお願いします。
僕は、10人目が誰だろうということで引きつけようとは全く思っていないんです。友達のために命を懸けられる思春期の、「男の友情話」であることを感じ取ってもらいたいです。そして且つ、ミステリーと会話劇。10人目がいないことによって9人の登場人物が何を感じているのか、脚本的な会話は遊びですが、そういう遊び的な一方で、あるシチュエーションの中での恐怖や不安を感じさせながら、観客を映画の中に導いていこうと。僕としてはいろんなことに挑戦した映画なので、他の人の反応を聞いてみたいなと思います。
若い俳優達と一緒に、リハーサルを通じて試行錯誤を重ねながら一つ一つの芝居を作ってきました。僕としてもこれが精一杯というところまでがんばりぬきましたし、俳優たちも同じ気持ちだと思います。とにかく、この登場人物たちを見てもらいたいと思います。同じ世代の若者達、しかもみんな男なんですか、その9人ともがそれぞれ個性的な一人の若者として映画の中に存在しています。映画を見終わった人にどのキャラクターの人が気に入ったか聞いてみたいなと思っています。作品的には、10人目が誰だろうというミステリーの要素はもちろんなんですが、本来いるはずのない10人目がいるかも知れないと感じたときに、9人それぞれがどういう気持ちでいるのか、9人の感じる不安とか恐怖とか、そういうものをどれだけ一つの部屋の中の9人の会話の中で作品として出せるかということに挑戦しました。9人の個性的なキャラクター、それぞれが感じている不安や恐怖、それが昇華して、友達同士の心のつながり、みたいなものも最後までこの作品を見たときに感じられればいいなと思いました。なによりも、この映画を見た人がどんな感想を持つのか楽しみですし、少しでも多くの人にこの作品をみてもらえたらうれしいです。
執筆者
Miwako NIBE