青春時代の憧れや夢、そしてほろ苦い思い出。それは時を重ねることで美しい思い出に変わる。大人になってから子供の純真さに触れるとき、はじめて自分の失ったものに気付く。少年、少女から大人への階段を登っていくその境目で再び出会うアーチョウ(トニー・ヤン)とチェン・シンシン(チャン・チュンニン)。2人が成長していく過程は、見る者に様々な思いを抱かせることだろう。
役者と監督がアイディアを出し合い、時間をかけ大事に作り上げた本作品は2005年ドービルアジア映画祭でゴールデンロータス賞(最高賞)並びに国際映画評論家賞をダブル受賞している。
台湾の妻夫木聡と称され、数々の人気ファッション紙の表紙を飾り、前作『僕の恋、彼の秘密』で台湾のアカデミー賞である、台湾金馬映画賞新人賞を受賞した実力派俳優トニー・ヤンさん(主演:アーチョウ)に『夢遊ハワイ』の魅力をうかがいました。





——まだ体験していない兵役の不安と期待は?
実は台湾の男の子にとって、兵役は遠い世界の話ではなく、小さい頃は父親が話すのを聞いて育ち、大人になると今度は同級生で兵役についた人が話すのですごく身近な存在です。この撮影のときは男性スタッフのほとんどが経験しているので、当時の心境を教えてくれましたし、この映画の中で描かれた生活というのはすごくリアルで、退屈だったり、新人いじめをしたりというのはそのままです。

——脚本を読んだときの感想は?
実は全てが元の脚本とは違うんですね。監督にこの脚本はリアルに君達のありのままを出して欲しいと言われたので、撮影前の一ヶ月間、役者はほとんど一緒に生活して、ごはんを食べたりミーティングをしたり。ものすごくみんなの仲が良くなってから、あのままの状態で撮影に臨みました。ですからただ役者として映画に参加したというよりは、監督と4人の役者で一緒に作っていったという感じですね。

——共演者のホァン・ホンセン、チャン・チュンニンについて
シャオグェ役のホァン・ホンセンは前から知っていましたが、この映画で親しくなりました。本当にかわいいやつです。絵が得意で、撮影中も自分の心境など面白い絵を描いたりして、すごく細やかな心を持った男です。ただ結構くだらないジョークを言っていて、僕が彼をいじめていましたね(笑)。チェン・シンシン役のチャン・チュンニンはあんな美人で法律専攻の大学院生なんですが、子供っぽいというか何でも信じてしまう。子供がサンタクロースを信じているように、僕らが何を言ってもそれを信じてしまうというような純なところがあります。

——夢遊ハワイのタイトルについて
ハワイに行けると思っていたので、そうじゃなくてガッカリしました(笑)。監督に聞いたところ、監督にとってハワイは憧れの美しい所だというイメージを持っていて、そのような美しいものというのは場所に限らず誰の心の中にでもあるものだと思いますが、それが歳をとると共にどんどん美化されていきます。そうした童心の時に憧れたもの、純粋さ、映画が描こうとで、それを観ることで取り戻してほしいという思いがあります。

——台湾の受験戦争について
台湾では大学受験のほかに高校受験も結構大変です。僕は高校受験に失敗して高校の時は誰も期待してなかったので楽でしたが、小学校を卒業する半年前に引っ越すことになり、母が悩んで、あと半年だということで学校の先生の家に寄宿させられたんです。これが本当に僕にとっては苦痛で、家に帰ってもおとなしく勉強しなければならないし、問題を間違えると先生に怒られるので、トイレにこもって泣いていました。僕が勉強で一番大変だったのはそのときですね。

——自然な等身大の演技をする上で苦労したところは?
自分を演じるのは実は一番難しいことです。『僕の恋、彼の秘密』の時はチャレンジでしたが、いったん役を作り上げることができれば、簡単にその役の中に入っていけますが、逆に今回のような役だと、本当の自分とは何かをつかまなくてはいけない、その点ですごく感謝したいのは他の3人の共演者と監督が手助けしてくれたこと。彼らとのあ・うんの呼吸があったからこそすごくリラックスしてできたし、自分の一番純な部分とか芯の部分を出すことができたと思います。

——トニー・ヤンさんにとってハワイのイメージは?
太陽と美しい砂浜とビキニの美女です(笑)。

——アーチョウがチェン・シンシンに抱いた気持ちについて
アーチョウがチェン・シンシンに会いに行った時、かなり長い期間彼女と会っていないので、彼女が精神を病んでいることに驚きはしたと思いますが、彼にとってちょっと悲しいと思うことはあっても、すごくつらいことではなかったと思います。僕自身もアーチョウがチェン・シンシンにどういう風に対応していいか分からなくて監督に聞いたところ、彼女を子供だと思って、子供が欲しがっているものを全部与えればよいと言われました。確かに僕達が子供に対する時は心からの笑顔で接するじゃないですか。他の人にはそうはならない。アーチョウは彼女が泣けばあやしてあげるし、だだをこねれば慰める。それがアーチョウのチェン・シンシンに対する対応です。

——好きなシーン、苦労したシーンは?
これは一番僕が好きで、印象にも残っていて、実は撮影も大変だったシーンがあるのですが、アーチョウとチェン・シンシンがバス停でバスを待っているシーンです。監督は最初からこのシーンを撮りたかったのですが、どう表現するか決めかねていて、いいアイディアが浮かびませんでした。伸ばしに伸ばして、もうこの日撮らなければ後がないというときになって、照明もカメラも準備OKという状態になってもまだどうするか決まらず、しようがないから「君達そこで自分達で勝手に自由にアドリブで遊んでよ」と言われて、言われた僕達も困ってしまって、色々やって最後にハッとひらめいてやったのがあれなんです。監督も気に入ってくれて、僕らもすごくかわいらしくできたので満足したんですが、実際できあがったものを見た観客の評判も良くて、うれしかったですね。

——映画を観たときの感想は?
この映画に対して僕は特別な思いがあります。何度もこの映画を見ているんですが、毎回違う感じ方をするし、感動するシーンがその度に違うんです。人物どうしの関係、ストーリー、もう一ついえることは見る人によってすごく感じ方が違う映画だと思います。見てすごく面白いと思う人、さみしかった、また悲しかったという人もいると思うので、その人が映画を見る時の思いやそれまでの経験によって受け止め方が違って、いろんな見方ができる映画だと思います。だから僕にとっても同じで見る度にその時の心境によって、感じ方が違うんだと思います。

——実態に近い軍隊の姿を描いているのか?
かなり現実的だと思います。こっそり抜け出すなんていうのも新兵はダメですが、除隊に近いベテラン兵士の特権で、その辺は非常にリアルです。ただ前半の兵役生活はかなり厳しくて、上官とか先輩のいじめもあります。でも前半の厳しさがあるからこそ自分らがベテランになると新人をいじめるということになるそうです。ベテランの生活は乱れているように見えますが、もちろん基本の訓練というのはきちんとやらされています。

——映画のラストに病院を訪れたとき彼女は退院していますが、そのあと彼は彼女に会いに行くのでしょうか?トニーさんの考えは?
アーチョウとチェン・シンシンというのは監督の描き方にあるキーがあります。病気の時のチェン・シンシンというのは純な気持ち、何でも信じてしまう童心の代表です。アーチョウはもう少し成長していて童心を取り戻そうとしますが、
2度目に病院に訪れたとき病気が治って退院したことを喜ぶ気持ちはあるが、退院したということはチェン・シンシンはもっと成長しているかもしれない。病気が治ったチェン・シンシンは、一緒に海に行ったことを忘れているかもしれないということに対する切なさ。
実際病気が直ったのは、海に行ったことがきっかけになっていると思いますが、それを覚えているかというところが切ないところです。

——トニー・ヤンさんにとっての青春のイメージは?
僕の青春は結構楽しい青春っていう感じなのですが、青春ということではやっぱり初恋のことをどうしても考えます。初恋は美しいものじゃないですか。本当の初恋がそうだったかどうかは別にして、初恋に対して今振り返ると、例えばきれいな夕日のように美化されてしまっている。そういう純な思い出のような気持ちを監督から出して欲しいと言われたので、映画の中ではそのように演じています。

——トニー・ヤンさんの初恋の思い出は?
僕の初恋は小学校3年生の時で、クラスの女の子で、もちろん彼女はそのことを知らなくて僕も恥ずかしくて告白できなかったのですが、彼女に一度「好きな子いるの?」と聞かれて、「いない、いない」と言いながら机の下から指をさしたりしていました。今にして思うとすごくてかわいい初恋だったと思います。

——日本のファン交流の感想について
初めて日本のファンの皆さんに直接会うことができたのですが、緊張しました。聞いた話では80名位集まっていると聞いて、初めは信じられなくて配給会社が雇ったサクラじゃないかと思いました(笑)。でも実際会ってみたら皆さんとても感じがよくて、かわいらしくて、礼儀正しくて。僕が日本人の女性に持っているイメージそのままでした。

——映画の魅力について
テレビドラマはもちろんやらないという訳ではないのですが、今のところ重心は映画に置いています。僕も子供の頃から映画が好きで、実際に映画に関わってみると役者であろうとスタッフであろうと、ある意味病みつきになるものが映画にはあると思います。それだけのお金と時間とエネルギーを注いで、5ミリに封じ込めたものは本当に美しい。どんなジャンルの映画でも心血を注いで作ったもので、ある意味クレイジーになるものですね。

——次の作品について
次の作品では上海の30年代のギャングを扱っていています。自分の兄がギャングのボスで周囲から丁重に扱われているけど、実は情けない男なので陰ではバカにされているという役です。今までとはまったく違う役なので、ぜひしっかり演じて、違う面をお見せしたいと思います。
今台湾で準備していて、10月に上海で撮影に入ります。

執筆者

Miwako NIBE

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