“究極のスイング”を体得しようとする男、難馬(通称バナンバ)。
高校時代、野球部の紅白戦でエース石岡(安藤政信)のボールを頭に受けた日から10年間、バナンバはスイングのみを徹底して練習してきた。それ以外はなにもできない不器用な男。しかしエースだった石岡もひじを怪我し、引退を余儀なくされた。その日から、石岡は夢も希望もなくし、ただどんよりと毎日を過ごしていた。
同じ町に住んでいながら、会うことのなかった2人の再会は、バナンバと巨乳で飲んだくれの女エイコ(坂井真紀)が道端で言い争っているところ(しかも酒はあんまり飲まないほうがいいと言ってくれるバナンバをエイコは・・・)を、ふてくされた警官の石岡が見つけ声をかけたことで果たされる。

思い出されるのは、あの日の対決。

実際の世の中じゃありえないキャラの濃すぎる登場人物たちを2次元に描き出したのは、『童貞マンガを描かせるならこの人!』と世の青少年から絶大な支持を受けている古泉智浩。そして、彼らを3次元の世界にはめ込んだのは『鬼畜大宴会』で鮮烈なデビューをした熊切和嘉監督。音楽を担当したのは、熊切監督をデビュー時から支え、他にも山下敦弘監督、宇治田隆監督に楽曲提供している赤犬。この3人でしか成立しない映画版『青春☆金属バット』が誕生した!!






映画化が決まった時は?
古泉「それまでにも他の作品で映画化のお話をいただいていたんですが、実現していなかったので、今回もそうなるんじゃないかなあ、と思っていました。そうしたら熊切監督とプロデューサーの方がわざわざ新潟まで足を運んでくださったので、あれマジなのかなって(笑)。でもそのとき監督何もしゃべらなかったんですよ。この人大丈夫かな、って思っちゃいました。」

なぜ何も?
熊切監督「同行したプロデューサーの方がとても饒舌な方だったので。」
古泉「でも、もう別れ際っていう時に、監督が「良い映画にします!」とおしゃってくださって、鳥肌が立ちました。嬉しかったです。」

キャストの方々皆さんが新境地を切り開いたキャラ設定ですよね。
熊切監督「はっきりと作戦をたてたわけじゃないんですが、当たり前の人に当たり前の役をやってもらっても面白くないじゃないですか。プロデューサーの木村さんもそういう方なので、中途半端に役者をやっている人よりも映画出演は始めてのミュージシャンを思い切って使おうと思いました。」

監督から脚本の宇治田さんに提案した事は?
熊切監督「いつもいっしょに仕事をしているので今回も同じ様にやっていました。箱書きというシーンを組み立てるところからいっしょにやっていたので、提案というよりはふたりで作ったという感じですね。」

古泉さんからアドバイスされたことは?
熊切監督「映画では「青春☆金属バット」の“路地裏のバッター”を主人公にしていますが(単行本では、メインタイトルを「青春☆金属バット」としオムニバス形式のストーリー展開)、真夜中の聖火ランナーに登場する、放火犯2人組をどうにか組み合わせられないかと考えていた時に、古泉さんに台本を読んでいただきました。その時に、放火するにしても必然性があったほうがいいんじゃないか、とまっとうな意見をもらえました。かなり無理やり2人組をねじ込もうとしていたので、目が覚めました(笑)。」
古泉「でも、結末は町を燃やし尽くすような大火がいいんじゃないか、と提案したんですけどね(笑)。」
熊切監督「まあ、予算的な問題もありましたからね。」

現場はご見学されたんですか?
古泉「したんですよ〜。」
熊切監督「実はアンテナを届けにくる電気屋さんは古泉さんです。」

初めての普通の青春映画と謳われていることに対しては?
熊切監督「普通ってなんだろうとも考えてしまうんですけどね。」
古泉「今までのが異常すぎて、普通に見えるんじゃないですか(笑)。」
熊切監督「あはは(笑)。アキラも言ってたんですが、僕のってテーマが重くなりがちなので、古泉さんのやんわりしたテイストと重なって、良い按排になったから青春映画と呼ばれるようになったのかな、と思ってます。役者さんと音楽の力でさわやかになりました。下手するとこの題材でも重くなってしまったかもしれないところを、うまくバランスを取ってくれました。」
アキラ「まずキャストがすばらしい。」
古泉「映画見ながら音楽をつけるんですか?」
アキラ「そうやね。監督とも長いので、今度こういう映画撮るよって話がきて曲を作りました。メタルが一番よかったなと思います。」
古泉「オープニングかっこよかったですね!ババババーンって!!」
一同爆笑。
アキラ「野狐禅もともと好きやって、主題歌が野狐禅で嬉しかったです。よくとってつけたような主題歌ってあるじゃないですか。竹原は映画に合った曲を作ったと思います。」

監督は曲を聴いた時どう思いました?
熊切監督「僕は孤独な男に肩入れしちゃうところがあるんで、エイコと暮らし始めるバナンバを見ていて、後半どんどん石岡にいってしまったんですよ。どんどん悲しい曲をアキラにお願いすることが多くなって、「いつもと同じおなじやん!」って言われてました。僕がアキラに提案することっていつもお約束なことが多くて。でも僕も「そうしたいんだよ!」とか言って頭に血が上ってる状態(笑)。そういう時にアキラから、「金属バットだからメタルいこうや」とかシーンに合わせたレゲエ調だったりとか、毎回新しい提案をしてもらえたから、バランスもよくなって、新鮮な気持ちになりました。」
アキラ「映画でも重くしようと思えば重くできたものが、なんといってもこの古泉さんが原作だから・・・。音楽が付けやすかった(笑)。」
古泉「ほんとは何を言おうとしたんですか!?」
アキラ「いやいや(笑)。孤独なだけだと音楽も選ばれてきますからね。」

日頃見ないキャラ設定が面白いですね。
古泉「原作を尊重していただいて、嬉しい限りです。むしろ原作より魅力的に描いていただきました。」
女性キャラも皆濃いですよね(笑)。
古泉「女の人が弱音吐いたり、痛い目にあうのってかわいそうじゃないですか。主人公は基本的に痛い目にあわせたいんですけどね。エイコはマンガではすごく強いキャラなんですが、映画ではボコボコにされちゃうんですよ。そういうところに原作にはない世界の広がりを感じました。監督の才能がにじみ出た結果じゃないでしょうか(笑)。」
熊切監督「僕も凶暴な女性は好きなので、主人公が女の人に殴られて欲しいという願望はあったんです(笑)。でも女の子らしい可愛さもほしいなと思って坂井さんに出演を依頼しました。」
古泉「本当に坂井さんかわいかったですよね。」

撮影中かなり面白いエピソードがあったとか?
熊切監督「2人が対決するシーンなんですが、竹原くんも安藤くんも中学までばりばり野球をやっていたので、撮影前に安藤くんも竹原くんもかなり練習したんです。安藤くんのピッチングも相当速かったんですよ。」
一同:「へー!!!」
熊切監督「そしたら3球目で場外ホームランが出たんです!映画ではわかりにくいんですが、打った時の本当に喜ぶ竹原君とへこむ安藤くんの様子をそのまま本編に使いました。」
古泉「いい場面ですね!」
アキラ「ふたりとも顔よかったもんなあ。」
熊切監督「現場も楽しかったですね。『青春☆金属バット』はオレンジがテーマカラーなんです。『オレンジの空』がかなりキーワードになりました。台本上では夕方のシーンが多くて、スケジュール的に夕方の数が少なかったので心配だったんですが、ほぼ夕方に撮影することができてよかったです。」
アキラ「『青春☆金属バット』は好きな人とでも安心して見れる、初の“クマキリ”映画なんじゃないかな(笑)。」
熊切監督「そうだね。」
アキラ「親にも見せられる。愛のある映画なんですよ。ちゅうか、愛って何?」
熊切監督「原作者を前にしていうのもなんなんですが、ろくでもない人ばっかり出てきます。脇の脇まで(笑)。そういう人たちのことを好きになって僕も最後まで撮ったので、やってることはむちゃくちゃだけど、これから観る方達にも彼らのことを好きになってもらえるといいな。」
古泉「個人的には安藤さんが警官らしく自転車に乗ってるところが好きです。ふてくされてるのに自転車に乗ってるところがかわいいですよね。こういうところリアルだな、と思ってみながら笑っちゃいました(笑)。」
熊切監督「特に指示は出してないんですよ。各自みなさんがキャラクターを意識してくれたので、本当に面白い作品になったと思います。」

執筆者

林 奏子

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