息をのむような美しい自然の中で、狩人と犬との絆を描いた感動作『狩人と犬、最後の旅』。
監督は、06年3月にシベリア横断8000キロ走破という偉業を成し遂げるなど、現代のジャック・ロンドンと称され、冒険家としても有名なニコラス・ヴァニエ。数々の冒険をつづった著書や写真集、ドキュメンタリーは多くの賞を受賞し、ヨーロッパ各国で絶大な支持を得ている人物である。
映画の主人公、ノーマン・ウィンターと監督は、カナダ北極圏横断中に偶然出会ったという。監督はノーマンの生き様に深く感銘し、映画化を即決した。
ノーマンと犬たちの絆を壮大な自然の中で描き、文明社会に生きる我々に人間の原点を思い起こさせる『狩人と犬、最後の旅』のニコラス・ヴァニエ監督に、映画に託した思いを語ってもらった。





—— 長編デビュー作で“狩人”を題材に選んだ理由は。
「以前からこの題材の映画を撮りたいと思っていました。主演のノーマン・ウィンターとは、カナダを横断してる時に出会いました。ノーマンは自然と人間との調和を体
現しており、まさに私の理想とする生き方をしていました。ノーマンは映画の出演依頼を快く受けてくれました。私は映画を製作する上で、ただ自然を賛美するものではなく、自然と人間の調和を描きたいと思っています。」

—— 探検家として、フィルムメーカーとして今後達成したいことは。
「私は25年間冒険をしてきましたが、この3月に最後の探検として、シベリア横断を終えました。これからは、自然と人間の調和についての映画を作っていきたいです。つい最近、次回作となるラップランドの遊牧民を描いた作品を書き終えました。」

—— 犬が素晴らしい演技をしていますが、撮影の時、犬はどのように協力してくれましたか。また、ノーマンには犬との絆をどのように伝えましたか。
「映画撮影では、犬は監督に従わなければいけません。なので、出演しているのは私の犬です。映画制作は2年を費やしましたが、ノーマンと犬は半年で慣れました。出演した犬の中でも、ウォーカーは素晴らしく、難しいシーンも難なくこなしてくれました。ノーマン、ウォーカー、監督の私がこの映画の立役者と言えます。」

—— 氷が割れるシーンは実際のノーマンの体験とのことですが、脚本はどのように作られたのでしょうか。
「ノーマンと私がやりたかったことは、全て実際に起こったことを再現することでした。なので、私達2人は、今まで経験してきたことをリストアップし、それを大きな線にしました。」

—— 今後はフィクションを作りたいとのことですが、フィクションの利点は。
「私は20年間、ドキュメンタリーを撮ってきましたが、ドキュメンタリーで、実際に氷が割れた時に撮影するのは困難です。再現できるのがフィクションの利点といえます。手法はフィクションですが、私は実際に経験したことを観てもらいたいと思っています。野生のクマがノーマンの前に現れるシーンでは、商業的な映画の場合は、ノーマンとクマとの格闘をドラマチックに描くでしょう。でも私は敢えて実際に起こること、つまり狩人がクマと遭遇したらどうするかを描いています。」

—— ノーマンはとても自然な演技をしていますが、どのように演出したのでしょうか。
「ノーマンは演技ではなく実際に再現をしているので、演技指導はしていません。マイナス40度の中で、手がかじかんで火がつけられないシーンでは、ノーマンは実際にマイナス40度で手がかじかむのを待ってから撮影をしました。なので、あれは演技ではなく、実際に彼がその状態になっているのです。」

—— 今まで観てきた中で、影響を受けた映画はありますか。
「黒沢明の『デルス・ウザーラ』や、一年かけてロッキー山脈を横断した時は、ロバート・レッドフォードの『大いなる勇者』を思い浮かべました。」

—— 挿入歌が印象的です。
「『素敵なレディ』は、狩のエスプリ精神に通じていると思ったので使いました。」

—— 私達は自然と人間の共存について、学校では学びませんでした。地球環境を守る為に今後我々はどのようなことができるでしょうか。
「フランスの国民教育庁(日本でいう文部省)では、持続可能な自然教育プログラムの教材として、私の映画が使用されています。子供たちは、自然には限度があるということを自覚しています。我々もまず自然には限度があるということの自覚することから認識すべきだと思います。」

執筆者

t.suzuki

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