6月23日、2005年に公開した『欲望』とともに、篠原監督の人生を変える作品となった『草の上の仕事』を含め初期監督作品をカップリング収録したDVDが発売された。監督に率直な感想を求めると「素直に嬉しい」とのご返事をいただいた。『RUNNING HIGH』でぴあフィルムフェスティバルで特別賞を受賞。その後、監督はずっと走り続けるように作品を作り続けてきた。息切れすることもなく、「こういう状況にいられることは幸せ」と、少年のような顔で話す篠原監督。次回作には、浅田次郎原作の『地下鉄に乗って』の公開を控えつつも、ニューシネマワークショップという映画学校で監督・俳優の卵を大勢使って作品製作するなど、精力的に将来の映画界を支えていく人材育成にも携わっている。これからのオリジナル作品への展望はもちろん、監督の過去・現在・未来像を探ってきた。






『欲望』お気に入りのシーンを教えてください。
「やっぱり2人が最初に交わるホテルのシーンですね。そのシーンでどれだけ生身で真剣に向かい合えるかが大事でした。でも僕の心配をよそに、板谷さんも村上さんも、演じているなかで、性的に結ばれない悲しみが自然に出てきてたので、とても印象深いシーンになりました。映画の中でも、最初の突破口を開くシーンとして大事なシーンでした。あと、冒頭のサバを食べるシーンもこだわっただけあって、みなさんに「よかった」って言われますね。最初は出されたサバが小さくて、骨が出てくるような大きなサバを買いに行ってもらったりしたんです(笑)。」

正巳が海に入っていく海のシーンがとても印象的でした。
「感情が入りやすいシーンでしたよね。板谷さんが村上くんを追いかけていくパッションが撮れたと思います。撮影時は海が冷たくて、ぱっと晴れ間が出たときに撮っていたので、村上君もがんばってくれました。ゆっくり沈んでいく様とかね。海中では思うようにいかない部分もありましたが、カメラマンも深く潜って、手が画面から切れていくカットを撮っておいてくれたので、象徴的に死んでいくシーンが完成しました。」

R−18指定になってしまって残念です。
「そうですね。板谷さんと大森君のシーンもほとんどが絡みのシーンだし、しょうがないんですが、3人とも裸になって、照れずにやってくれて、気合の入った撮影でした。最初からR−18は覚悟してました。上映禁止とのせめぎ合いのカットもありました。」

三島由紀夫のモチーフについては?
「原作に登場するような家は見つからなかったので、新築出会いパーティではなく、結婚披露や、出版発表パーティにしたんですよ。でも、三島由紀夫が死んでいった美学は、正巳が1番美しい時に死んでいくこととどこか一致するところだと思うんです。小池さんの世界にもそういうものを感じて、これは踏襲しなくてはいけないな、と思いました。」

言葉使いがとても秀麗ですが、まったく違和感を感じなかったです。
「村上君も言葉が正巳にとってどれほど大切か、ということがわかっていたと思います。ただ、そのつもりでどのように演じるかは本人しかわからない部分ですね。脚本に書いてある言葉をいかに使うか、意識的にがんばってくれたんだと思います。」

村上さんは役作りで体重を12kgも増やしたそうですね。
「肩のあたりに筋肉がある人がいいと伝えていたので、撮影に望む2ヶ月の間に、プロテインやジム通いをして鍛えてくれたようです。でも、撮影が終わって会ったら痩せちゃってました(笑)「怠け者なんです」って言ってました。」

『草の上の仕事』でのお気に入りのシーンを教えてください。
「パッケージ裏の写真で使われている、2人で寝そべっているシーンが好きかなあ。ここにひとつの核というか、物語の頂点があるような気がするんです。当時は「ゲイの作品ですか」とよく言われて、否定していたんですけど、今観るとそういう映画に見えますよね(笑)。2人を接近させて話していたのは、「男の接近の仕方がおかしいと」思って欲しくて、意図的にやっていたんですが、結果的にゲイだと思われてしまいました。夏の暑い日、肉体労働するとお酒を飲んだ時の高揚感とは違う、普段とは違う達成感を得て、人と向きあいたい、自分のことを語りたいという気持ちが、沸いてくる一瞬があっても、不思議はないと思ったんです。」

最初、芝刈り機を使ったホラー映画なのかと思いました。
「そういわれたこともありました。太田君が振り上げる芝刈り機を後藤君がよけるシーンも、「もっと近づけ」と言ったんです。実際観てみると、結構距離があるじゃないですか。でも、あの距離でも見ている方にはハラハラしてしまう感じがあるのかと思います。『昭和歌謡大全集』の時も、本当はもっと飛行機を近づけたかったんですけど、「だめです」って言われて、断念しました。さすがに、飛行機だと死んじゃいますからね。」

村上春樹さんの短編小説が映画を作るきっかけになったとお聞きしていますが。
「『午後の最後の芝生』という作品の職業設定が面白いと思ったのです。実際に芝刈師に興味もあって取材もしました。芝刈りの映画ってどんな風になるんだろうって思ったんです。草刈のロケハンをしていて、ふさわしい場所を見つられた時に、映画の場面のことを考えました。芝刈り機というのは箱型で、その下に鎌があるので、ただ撮っているだけでは、芝を刈っている様が見えないので、映画の中で使った形の芝刈り機を使いました。あの芝刈り機を使うことで、芝刈り師が芝を刈っている様をストレートに描くことができました。」

太田さんと役どころについてお話はされましたか?
「脚本の意図について、最初にオファーした段階からのってくれていたと思います。太田さんとは『バカヤロー』の頃に出会って、監督としての太田さんはけっこう寡黙な人物で、芸人としての太田さんとのギャップが面白かったです。現場には奥さんといっしょにきて、キャンプしてるような雰囲気でした。当時は、「タルコフスキーみたいな世界で撮りたいんですよ」とか言いつつ、太田さんも「タルコフスキーは大好きです」と参加してくれてたので、合言葉はタルコフスキーだったかな、と思います。」

草刈したところにはその後行かれました?
「1回行ったらモトクロス場になっていたので、それ以来行ってません。僕らが芝を刈ってたところを上手く使ってたんですよ。でも、製作したのが1991年なので、もう15年前なんですよね。大昔の出来事みたいですね。」

オリジナルの作品を撮るご予定は?
「ここ数年は原作ものの映画化が多かったですが、最初は自分の映画との距離感があっても、脚本ができ、俳優が決まり、ロケの具体性がみえてくると、だんだんと原作とははなれた、その映画独自の世界になっていく。オリジナル企画もいくつかあるので、そろそろ色々と玉を投げていこうかと。」

具体的な構想はありますか?
「『地下鉄に乗って』が終わって、ニューシネマワークショップの卒業制作を監督することになったので、23人の俳優を使った短編8本の大まかなストーリーを作りました。ある人が失踪してしまって、その人を探しに右往左往する人達の話なんです。8話目の30分ほどの脚本も書きました。僕は、愛欲や裏切りと秘密がばれたりするストーリーが好きなんです。『欲望』に近いところですね。全体では『紅幸』というタイトルで、2時間ほどあるんですが、学校側も気に入ってくれて、いずれ劇場公開できたらという話も出ています。様々な群像の中にひしめく紅い幸せっていうのがテーマです。」

継続的に作品を制作されてますね。
「頼まれればやってみようと思うんです、時間がある限り。それに結果として仕事がないと困るので(笑)。いろんなタイプのものをやっていて、こうじゃないとできないというわけではないので、いろんな仕事のオファーをなるべく受けます。作品の合間で、こういうことをやりたい、と思って脚本を作ろうとする時ももちろんあります。自分自身が本当にやりたいことをたまには見極めておかなければいけないと思うので、意図的に自分の企画をだせるようにしておかないといけないな、とも考えてます。けれども、映画監督は物語を作る物語作家とは違う能力のあり方をしているから、自分はどう映画にするかというプロフェッショナルでいれば、物語を作らなくてもいいだろう、と思うんです。物語は作れたら作ればいいし、描きたいものがあるなら描けばいい、なんとなく生まれてくれば描きたいなと思いますね。」

『欲望』と『草の上の仕事』を含めた初期作品集をこれから観る方にメッセージをお願いします。

「『欲望』は個人的な作品として楽しんでもらえるかと思います。英語字幕もついているし、映画館とは違う楽しみ方をして欲しいですね。個人的に好きな部分を何回もリピートして見ることができるのが例えばDVDの楽しみ方とするなら、『欲望』は夜中にひとりで静かにじっくりと何かにひたりながら、見ることができる作品かと思います。『草の上の仕事』はビデオになってますが、『RUNNING HIGH』『亀顔少年』はなっていません。『RUNNING HIGH』は初めてお客さんを意識して作った作品なので、26分セリフのないアクション映画として楽しんでもらえるといいな。『亀顔少年』は僕の原点がつまってますね。主人公が桃を食べるシーンも『female』のシーンにつながっているし、性的妄想の話ということろも、『欲望』とつながっているし。すべての作品とどことなくつながっていますね。」

執筆者

林 奏子

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