自由というのは自分で勝ち取るものだけど、自由になったからといって幸せになるとは限らない。一度だけの人生。好きなように生きた方がいいと思います『バッシング』小林政広監督インタビュー
04年にイラクで起こった日本人人質事件をヒントにし、2005年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映された『バッシング』。
帰国した女性が周囲から激しい批判を浴びながらも、自らの意思で再び中東へ向かうまでをリアルに描いたドラマだ。
2005年の東京フィルメックスでは”描かれたテーマの重要性とそれに合った映像スタイル”が高く評価され、見事グランプリを受賞した。
この『バッシング』の小林政広監督に、映画に込めた思いを語ってもらった。
—— この映画のヒントとなっている、2004年に起こったイラクでの日本人人質事件を知った時の率直な感想と、この事件を題材にした経緯は。
「事件が起きた時は、バカな奴がいるなあと思いました。元々政治的なことを映画に持ち込むのは好きではない。でも、事件後にだんだんとイラクには核兵器はな
かっただとか、ただ単に戦争をしたかっただけなのではという、ぼろがどんどん出てきた。その時に、あれはなんだったんだろうか。俺も含め、間違えた方向へいっていたのではないかと思うようになった。だから彼女の立場に立って、もう一度自分で再検証しようと思い、脚本を書き始めました。」
—— この題材を扱うことについてスタッフの反対もあったようですが。
「やりたくないと言う人もたくさんいた。でも、自分の中で納得できる脚本ができたのだから、なんとしてもやろうと思いました」
—— 脚本を読んだ出演者達の感想は。
「皆喜んでくれました。皆どこかで反抗したい部分はあったんだと思う。ただ、自分が発言すると矢面にたってしまうから言えない。役者は人の言葉を通じて演じることが出来る。皆が言いたかったこと代弁してくれてると思ったんじゃないかな。」
—— 『この国じゃ、皆が恐い顔をしている。私も、恐い顔しているんだと思う』というセリフが印象的でした。このセリフはどのような時に出てきたのでしょうか。
「イラクの人質事件があった当時、皆恐い顔をしていた。飲み屋に行っても、皆しかめっつらをしてると思った。誰も笑わない。今もそうなんじゃないかな。」
—— 他人は自分を写す鏡とよくいいますが、主人公が恐い顔してるから周りも恐い顔に見えたというとらえかたをしたのですが。
「そうとも言えますね。誰も僕のことわかってくれない。何を悪いことしたんだって、すねてたのかも。自分が恐い顔してたのかもね。(笑)」
—— 東京フィルメックスなど映画祭で上映されましたが、観客の反応はどうでしたか。
「20代女性に評判が良いです。若い子は、”思っているけど言ったらああいう風になってしまうのでは”という有子と同じ悩みを抱えてるんだと思う。作品を観た在日の子に 『何で私が考えていることが分かるんですか』と言われた。俺が昔、トリュフォーを観て『なんで自分のことが分かるんだ』と思ったように感じてくれているのでは。自由にやりたいと思っても、自由にできない。ただ、自由というのは自分で勝ち取るものだけど、自由になったからといって幸せになるとは限らない。けど、自分の一度だけの人生なんだから、皆好きなように生きた方がいいと思います。」
—— かなり初期から占部さんの主演を決めていたそうですが、占部さんの魅力は。
「変わっている所かな。彼女にはキャラクターがある。日本の女の子ってキャラクターがなさ過ぎると思うけど、占部さんは、家庭環境などいろいろとあって、変に壊れている部分がある。だから面白いし、芝居もうまい。」
—— 大塚さんもここ最近の作品によく出演していますが。
「彼女は女優であり、芸大を出ていて、アーティストでもある。だから作り手の気持ちを分かってくれる人です。」
—— 映画の中では”閉塞感”というのを感じますが、これは日本独特なものだと思いますか。
「イラクでの人質事件みたいなことは、どこの国でもあること。ただ報道されていないだけ。海外のマスコミも、このようなことが自分の国であるというのを報道すると叩かれる。だから言えてないだけだと思います。」
—— 『バッシング』も含め、数年にわたってカンヌに出品されていますが、カンヌにこだわる理由は。
「第2作『海賊版=BOOTLEG FILM』でカンヌのディレクターのジャコブさんが、カンヌでやらないかと言ってくれた。彼だけが俺の作品を評価してくれた。ジャコブさんに作品を観て貰いたいというのがあってカンヌに出品しています。直接感想とかは聞いてませんが、上映してくれてるということは観てもらえているということなので。」
—— 今後ドキュメンタリーを撮りたいとのことですが。
「音楽のドキュメンタリーを撮ろうかと思っています。被写体を追い詰めてゆくドキュメンタリーはあるけど、そういうのはやりたいと思わない。その場の空気を撮るようなドキュメンタリーを撮りたいです。」
—— 最後にこの作品を観ようとしている方にメッセージを。
「一度きりの人生、勇気を持って生きていって欲しいです。作品は、若い人に観に来てもらえればと思います。」