下北沢を舞台に漫画喫茶で出会った女子2人の“ちょっぴりハッピー”を描く、いまおかしんじ監督の『かえるのうた』が1月14日(土)よりポレポレ東中野でレイトショー公開されている。
彼氏と喧嘩した朱美が深夜の漫画喫茶で「がんばれ元気」を取り合ったことから出会ったキョウコと奇妙な共同生活をはじめる。漫画家をめざすキョウコと子供を生んで幸せな家庭を育てることを夢見る朱美。まったく正反対なふたりだけれど、一緒にいるとなんだか“ちょっぴりハッピー”だ。しかし、心の中にある寂しさに慣れてしまっている2人は、なかなか素直になれない。彼氏に浮気されたり、それでもまたくっついたり、援助交際でお金をもらって日々をすごしたり。日常のスペクタクルを淡々と描き、そして最高にハッピーなラストへと映画は進んでゆく。
前作『たまもの』で注目を集めたいまおかしんじ監督は、本作を「もう深刻なものなんて、何一つ要らない。ぬるい屁のようなものを思いを込めて描きました。」とユーモラスに語るが、アイデアは亡くなった友人と自分とをモデルに男2人の物語を描こうとしたところからだという。「365日のうち1日でもいい日があったらそれでいいじゃないですか」と人生を語る姿に、心の奥にある赤い小さな炎をみる思いがした。





— 今回女の子2人が主人公の友情ものというアイデアはどこから?
「普段常に、こういう映画がつくりたい!というものを持っているわけではなくて、ぼんやりと意識の中にあるくらいで、今回は監督する話が来てからさてどういう話にしようかなと、毎日近所のファミレスにずっと座って考えてました。最初に考えたのは『猿の惑星』みたいな猿人間の話だったんですけど、あまりに面白くなかった(笑)。そうしてるうちに公開も迫ってきてちょっと追いつめられた状態で考えなきゃいけなかったんです。そのときふと思ったのが、男二人の話をやろうと。
大学の時からの友達の川島伸夫さんという方がいたんですが、車に練炭を積んで自殺をしてしまったんです。仕事のストレスで30代すぎてからアル中になっちゃって実家の島根に帰っていたんですが、電話ではよく話をしていたり、病院に入院してからもお見舞いにいったり、変わらずバカ話をしてたんです。それで亡くなった時、僕の気持ちのやり場として「女の人は悪いんだ」と思うことにしたんです。彼は恋愛をしたことがなくて、いわゆる素人童貞だったんです。誰か一人くらい女の人いなかったのか!と思ってしまって。そういう出来事から女性を信用できない男二人がなんとかして女の人とうまくいくようになっていく日々のことを考えてみたんです。でもやっぱり話としてもなんか生々しかったし、ピンク映画なので女性を主人公にしてみたんです。男に絶望している女二人の話。」

— ちょっと前だと『テルマ&ルイーズ』とか、最近では『下妻物語』や『NANA』みたいに、女2人が主人公の映画って、今流行りですよね。そういったジャンルについて意識したことは?
「『ゴーストワールド』とかいわゆる女の子のバディものも色々観ましたね。でも僕が思うのは、女性を主人公に撮るにしても、どこかに自分が共感する所があるってことですよね。男性に対して信用がおけないと思ってる主人公たちなんだけど、だったら恋愛しなきゃいいのに、それではどこか寂しい。そういう感情は僕も持っているし、そういうところが好きです。そういう風にシーンの1つ1つを組み立て作っているので、その結果自然と自分のオリジナルの部分が作品にでているんじゃないかと思います。」

— ほわっと女の子っぽい雰囲気の向夏さんとクールな平沢里菜子さんという主演のお二人のコンビのバランスがかわいいですね。いまおかさんはあまり演技指導などされないとお聞きしましたが・・・
「あんまり自分の思い通りになって欲しくないんです。撮ってて思ってもないものがどこかにフィルムに写ったりするのが面白いですよね。そういうのは現場で見つけていく作業になっていくんです。シーンごとに正解の芝居っていうのがあるとしたら、それに近づけていくことをするんだけど、天気のシーンなのに雨降っちゃったけど、それがかえってうまく行ったり。やってみないと僕もわからないし、役者さんもカメラマンもそうだと思うんです。そうやってみんなでちょっとずつ正解に近づいてなにかを掴んでいきたいんです。自分でもわからないけど、絶対に譲れないものってゆうのがあると思うんで、それをみんなでみつけていけばいいと思います。それを一言でいうと「放っぽりっぱなし」なんですけど(笑)。」

— 彼氏の浮気相手がゴスロリ服の女の子って設定には膝をたたきました(笑)。ゴスロリの子と浮気されるのってなんかいや〜な感じですよね。
「ははは!実感としていやな感じってことですよね。ピンク映画ではセックスシーンを増やすために主人公以外の女性も出さなきゃいけないんですけど、セックスシーンのためだけにいる役というんじゃなくて、その人にも人生があって毎日を生きているということがキャラクターとして欲しくて、しかも何回でてきてもすぐその人だったわかるようにということでゴスロリにしました。」

— そのゴスロリちゃんとの修羅場がフランスパンでのチャンバラ!
「ケンカって傍からみてると単純に笑えるんですよね。駅で酔っ払い同士がケンカしているのとか。「てめー!」「てめーって何だよ。さん付けしろよ!」「服つかむなよ!」とかどんどん最初の原因からずれていっていったり。なんかそういうのが脳裏にあったんですかね(笑)。」



— 向夏さん演じる朱美がカエルグッズを大量に持ってて、挙句の果てにはかえるの着ぐるみまで登場します。観た人必ず聞かれるかと思うんですが、なぜカエルなんですか?
「最初は完全に思いつきです。着ぐるみが出てくるところをシナリオに入れていくうちにどんどんカエルがストーリーにつながっていっちゃったんですよ。坂道を登るシーンでは普通に歩いたりしないでカエル飛びになっちゃったりとか。別にカエルじゃなくてもよくて、犬でも狸でもよかったんですけど。役者さんたちにはカエルは神様なんだよ、なんて適当なこと言ってました(笑)。
朱美があんなにカエルグッズをいっぱい持ってた心理をあとづけで考えてみたんですが、彼氏とケンカした時にカエルのぬいぐるみがきっかけで仲直りしたり、何かいいことがあって、そのうち嫌なことがあるたびにお守りのようにカエルを買ってくるようになるんです。いやなことがある度にカエルがどんどん増えていったんじゃないですかね。そういう気持ちのそのベースには寂しさがあるんです。深夜に漫画喫茶にいくっていうのもそれは眠れないからなんですよね。 」

— ちなみに漫画喫茶はよく行かれるんですか?どんな漫画をお読みになりますか?
「よく行きます。寂しい人間なんで(笑)。好きな漫画はいましろたかしさんです。大好きです。」

— いましろさんといえば個人的には「ハードコア」(原作:狩撫麻礼 画:いましろたかし)を是非いまおかさんに映画化していただきたいと常々思っているんですが…。
「あー!いいですね。是非やってみたいです。いましろさんには『デメキング』を勝手に映画にしちゃって謝りに行ったときに、知り合ってそれ以降釣り仲間なんですけど、ものすごく面白い人なんです。書いている漫画はすごくばかばかしくってぬるいものなんですけど、それを生み出す為にどれだけの血ヘドを吐くような思いをしているのかっていうのがお話してて分かるんです。だから僕も今回の作品で、もう深刻なものなんて一つもいらない、なるべくぬるい屁のようなものを真面目に、思いを込めてやりたいと思ったんです。」

— 十年後の主人公たちの再会のラストシーンは脇役からチョイ役までこれまでの登場人物たちがなぜか再集合して、下北沢の駅前で歌って踊ってというパーティー感がハッピーだけど泣けますね。
「最初の第一稿ではああいうラストではなかったんですけど、ちょっとシンプルすぎたので変えたんです。映画ってどこで終わればいいんだろう、っていつも思うんです。たまたま考えた末に出てきたのが「十年後に彼女たちがまた再会して踊る」っていうのだったけど、この映画でひとつ見つけたいものがあるとすれば、ここで終われると思ったんです。だってさぁ、やなことは嫌じゃん。いいこと見たいね。365日、一日くらいいいことあったっていいじゃん。というのが僕の切なる願いなんです。
亡くなってしまった友人の川島さんと僕が十年後に街でばったり会うんじゃないかなんて考えてみたりするんですよ。人生の中でそういう日が一日でもあったらいいんじゃないか。援助交際していた男たちも十年後もどんなにへタレでも多分どっかで生きているんだろうし、主人公たちも未だにバイト生活だけどなんとか好きな漫画を描きながら食えていけてるし、シングルマザーでも子供に服作って生活している。そういう中で再会したら、その日はいい一日なんじゃないかと思うんですよ。あんまり能天気な嘘は描けないけど、歌って踊ってるっていうのはギリギリ共感できるんじゃないかと思って。」

— 1月20日から開催される「ガンダーラ映画祭」にも作品が出品されるとか。『南の島にダイオウイカを釣りにいく』というドキュメンタリーですね。
「ダイオウイカっていうのはなかなか釣れなくて、デカイんです。足だけとか、死体がどこかで見つかったりとか。ガンダーラ映画祭ってユートピアを求めて映画を撮るんですけど、僕は釣りが好きなのでカメラをもって一人で撮りました。なんかばかばかしいことが時々したくなるんです(笑)。」

— 一般映画を撮ることに興味はありますか?
「すごくやりたいんです。今のところそういう話は来てないんですけどいずれはやりたいです。やりたいなって思いつづけているとそのうち形になるんじゃないかと思います。動きが遅いとよく言われて、バンバン企画書書いていっぱい撮れとよく言われるんですが、時間がかかるんですよね。一般映画だけじゃなく、ピンク映画でもなんでもいいんですけどいろんな仕事をしながら手を抜かないで仕事をしていれば…と思ってます。日々手を抜かないように生きていきます。手を抜いてばっかりいるのでもう、反省っすよ・・・。たくさんのお客さんにみていただきたいので、今回みたいに一般公開されるのはすごく嬉しいことですね。」

執筆者

綿野かおり

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