ハリウッドデビューも決定!南米の恐るべき才能 『タブロイド』セバスチャン・コルデロ監督インタビュー
「極限の状況に置かれた人間、彼らが取る行動、そこに興味を引かれるんだ」ーーエクアドル映画『タブロイド』のセバスチャン・コルデロはこう語る。本作は連続殺人犯とスクープ欲に取り付かれたTVレポーターの、悪魔的な葛藤を描いたものだ。最近の南米といえば、知られざる才能の宝庫として映画界が注目しているが『タブロイド』はそのムーブメントを助長しそうな完成度。「真犯人は誰か?」の前半戦から、「鬼畜とは誰か」を問わずにいられないラストまで骨太のサスペンスを堪能できる98分間である。出演には『ムーラン・ルージュ』の曲者俳優ジョン・レグイザモや『トーク・トゥ・ハー』のレオノール・ワトリングなど実力派ぞろい。公開に先がけ、ハリウッドも目をつけた(ハリソン・フォード出演で既に準備に入っているのだとか)若き俊英監督のインタビューをお送りする。
※『タブロイド』は1月21日、VIRGIN TOHO CINEMA六本木ヒルズでロードショー!
−−実在した連続殺人事件にインスパイアされたとか。
ある新聞記事がきっかけだった。犯人の妻は夫が善人でよき父親だと信じて疑わず、殺人など犯すはずはないと警察に訴えていたんだ。凶悪な犯罪を犯した人物も普通の人の側面を持っていたという事実に惹かれた。『タブロイド』はそこを発展させたものだ。実をいえば犯人だけじゃなく、この映画の登場人物はみんな二面性を持っているのさ。
−−舞台は南米エクアドル。ガラパゴス諸島を有するこの地は観光写真のイメージでは広がる青い空という感じがしますが、本編では鬱々とした天気が続きます。この暗い空と暗い村が一定の効果をあげていると思いますが、ロケハンを含め、天候などで苦労した点は?
そう、青い空、南米といえばそうイメージする人も多いみたいだけどエクアドルの朝は曇天から始まるんだ。普通、天候というのはポジティブに使われるものだけど、この映画では逆手を取った。鬱々した空は犯罪者の相棒のようなものだからね。
実はエクアドルには雨季もあるし、洪水も多い。ロケで使った村の川はよく氾濫するし、周囲の草も伸びっぱなしと、ロケハンから二ヵ月後には景色が変わっていたくらいだ。ビニシオの隠れ家はその際たるものだったね。あの小屋を見つけたとき、「これだ!」と思ったけれど、ここがまた行くたびに奇妙な草が伸びて雰囲気が変わるのさ(笑)。つけ加えるとこの映画にとって水の要素も不可欠だった。冒頭でビニシオが罪をあがなうかのように水のなかで体を洗っている。水は象徴的なものなんだ。
ーー水で清めるといえば『地獄の黙示録』を思い出します。あの作品も二面性をテーマにしたものでしたが、本作に影響を?
それは無視できないかも。なぜって原作のジョセフ・コンラッド著『心の闇』は僕の愛読書だからね。執筆中はそれほど意識していなかったつもりだけど、書き上げてみて無意識のうちに影響を受けていたってことがわかった。
ーー集団リンチのシーンはすごかったですね。演出上の留意点は?
あの場面では特にドキュメンタリータッチを強調したかった。あたかもその場で本当にことが起こっているかのようにね。カメラを肩にかつぎ、スピード感溢れる絵作りを意識したよ。
ーーさて、監督を目指したきっかけは?これまでの映画体験を教えてください。
9歳の時にエクアドルからフランスに引越ししたんだけど向こうで『インディ・ジョーンズ』を見てね。ものすごくショックを受けた。その時から映画に関わりたいと思うようになったんだ。影響を受けたと感じる作家もたくさんいる。フェリー二にポランスキーにクロサワ。『タブロイド』は70年代のアメリカ映画にも影響されてるね。ちなみに99年に撮ったデビュー作はブニュエルの『忘れられた人々』にインスパイアされたものだったよ。
ーーデビュー作も本作もエクアドルで撮影。大学時代はロスで映画を学んでいたそうですが、エクアドルに戻った理由は?
それはね……。すごく、個人的な理由があって。つまり、恋に落ちたんだ(笑)。前の妻になるんだけど。そのおかげで第一作、第二作が撮れ、今の僕があるんだと思う。
ーーエクアドルの治安はいいとは言えないようですが、実際に怖い目にあったことは?
誘拐事件や連続殺人事件は多いよね。この映画でもそうだけど。ただ、僕自身は車を盗まれたくらいかな。皆が思うほどは怖い町ではないと(笑)。
ーー次作はハリウッドで。主演はハリソン・フォード、そして、やはり追いつ追われつの事件ものと聞きます。これは監督にとって普遍的なテーマなのでしょうか?
極端なシチュエーションに置かれた人間の、行動や心理がすごく気になる。いわゆる、モラルへのジレンマというのか。デビュー作も『タブロイド』もその過程で純粋さを失っていく、という点にサブテーマがあった。次回作は初の歴史ものになるのだけれど、現代に通じる部分もきっと多くなると思うね。
執筆者
terashima