殺害後、死体を芸術的に装飾する猟奇殺人事件が発生。
そこに偶然に呼び集められたかのような4人の若者。
戦慄の恐怖が幕を開き、謎が謎を呼ぶ。
犯人は一体、だれ…

「殺しの芸術家、その最大の武器は“恐怖”」

手塚眞監督作品『ブラックキス』。
前作『白痴』の後にもうちょっと楽に観れる映画を、そして『白痴』で出会った仲間たちとまた何か一緒にできたら…という想いで作られたという本作は、“偶然”と“必然”をキーワードに様々なトリックが仕掛けられ、観る者を最大の緊張に追い込む。

キャストは主演の川村カオリ、橋本麗香はじめ、他にもあんじ、安藤政信、オダギリジョー、小島聖、松岡俊介、奥田瑛二、草刈正雄と個性的な面々が集まり、作品により一層深みを与えている。

「自分の得意分野である」と手塚監督が自信を持って繰り広げるホラーの世界をぜひ劇場で体感せよ!

$RED ☆『ブラックキス』は、2006年1月28日 新春 Q-AXシネマ オープニングロードショー $








—-まず、本作を撮ろうと思ったキッカケは?
6年前に『白痴』という10年がかりの大作を完成させたんですが、それが終わった後にもう少し楽に観れるエンターテインメント色の強いものを作ろうと思ったんですね。『白痴』に沢山魅力的な俳優が勢揃いしていましたのでその人たちとまた一緒に何かできないかな、と思いこの企画を思いついたんです。『白痴』で偶然知り合った仲間とまた何かをやるのもおもしろいなと。自分は、偶然性によって人が集まりそこで何かが生まれてくるという事を何か表現できればいいなと思ったんです。だけどその一方で子供の頃からホラー映画が好きだったので得意分野でやってみたいとも思ったんです。

—-本作『ブラックキス』は構想に6年を費やしたそうですが、どの部分で1番苦労しましたか?
これは少し専門的な話になってしまいますが、今の日本映画って2種類のタイプがあって、1つはメジャーなエンターテインメント大作で沢山宣伝もするし、沢山有名スターが出ている映画。もう1つはインディーズと言われていて若い監督と俳優でお金をかけずに作られる映画で、エンターテインメントというより短編小説と言うか…エッセイ的な映画が多いんです。僕はその両方を兼ね備えた映画を作ろうと思ったんです。インディーズで若い人たちと作るけど、エンターテインメント性もちゃんとあって観て楽しめるものをと。でも日本ではそういった映画がとても少なくて企画もなかなか成立しにくいという現状がわかりました。だから本作を企画として成立させて撮影に入るまでがすごく時間がかかったんです。出来上がった作品は2種類の内どちらかに属すると思いながら作っていたのにどちらにも属さなかったという事なんですよ。

—-本作は最初『ブラックキス』ではなく、『シンクロニシティ』というタイトルだったそうですが何故変更したのですか?
本当言うともっと逆で最初が『ブラックキス』だったんです。作っている途中で『シンクロニシティ』に変えて、また元に戻ったという感じです(笑)。ただ怖いだけでなく、偶然の関係性で私たちが集められ巻き込まれていくという人の繋がりをもっと描こうという気持ちで『シンクロニシティ』にしたのですが、完成した作品を観たらやっぱり怖い映画だから『ブラックキス』の方がしっくりくる感じがして戻したんです。それに『シンクロニシティ』という言葉はまだ日本で馴染みが薄いのでわかりにくいと思いまして。それもおもしろいかとも思ったんですが、本作を観た周りの方から「これはわかりやすいタイトルの方がいいんじゃない?」という意見もあったので『ブラッキス』に決定しました。そうしたら偶然にも『ブラックジャック〜』(手塚眞監督)と時期が重なってしまって…(笑)。これは本当に偶然の一致なんですよ。
※ シンクロニシティ—-虫の知らせのような、意味のある偶然の一致。心理学者ユングが提唱した概念。共時性。同時性。同時発生。

—-手塚監督は数字では“6”が好きだという事ですが、本作でも“偶然”と“必然”の間を飛び交うように数字が登場しますね
映画の中では“9”という数字が登場します。この数字は元々魔力のある数字と世界的に言われているので使ってみました。でも6も3つ集まると悪魔の数字なんですよね。『オーメン』とか(笑)。数字ってすごくおもしろくて数字そのものにすごく力があると昔から言われているんですね。それで数字に込められている様々なテーマもあって、そういったものもストーリーに取り入れ、数字に纏わる神秘性と人が出会う神秘を合わせたらおもしろいかなと思ったんです。それは多分両方共同じ意味と言うか、同じような事なんじゃないかなって気がしたんです。僕は偶然の一致って実は偶然ではなく、そうなるべくしてなっているんじゃないかと思うんです。必ず繋がっちゃう何か意味があると…。だから例えば人の出会いや、誰がいつ出会って、これから知り合って〜とかも全部意味があると思っていて今回もそういったテーマで映画を作りたいと思ったんです。

—-主演を演じた川村カオリさん、橋本麗香さんのキャスティングについてお聞かせ下さい
前作『白痴』を撮る時、1人女優さんを探していてなかなか決まらなくて沢山の人に僕はオーディションでお会いしました。川村さん・橋本さん・あんじさん、『ブラックキス』にメインで出演している若い人たちはみんなその時に会っているんですよ。そこで、『白痴』を作り終えた後に、3人に次回作の時はまた出てもらえますか?と聞いたらみんな「ぜひやりたいです」と言ってくれたのでその時にもう約束していたんです。でもあんじさんだけはその時返事に詰まっていましたね。と言うのは、あんじさんはモデルを辞めてミュージシャンになりたいと思っていたからです。でも後になって、今度は演技に目覚めたらしく俳優になりたいと思い始めるようになっていたようなので、彼女だけ出られないのは可哀想だと思い(笑)、彼女のために役を作りました。あの役は非常に得な役だと思いますよ。すごく存在感があるでしょ?川村さんと橋本さんは主役という事で最初から決めていたので彼女たちに合わせて脚本は書いていました。2人共もすごく魅力的で才能もあるし、彼女たちの人生そのものがおもしろいから彼女たちには自分たちがやっている事を何か振り返れるような、そんな役もいいかなと思ったんです。

—-サイコ・ホラーという事で現場の雰囲気はやはり張り詰めていたのでしょうか?
緊張感があって張り詰めているような感じにしようと思ったんです。その方が俳優さんもリアリティある芝居ができるんじゃないかと思ったので、映画の結末は誰にも見せませんでした。一部のスタッフしか知らないんです。だから、全員誰が犯人で自分が最後にどうなるかを知らぬまま撮影をしているんですね。そうすると段々不安になってくるし、自分が知らない事があるままで芝居をするのはすごいプレッシャーにもなるし、本当に自然と緊張感が高まりましたね。でも意外な誤算もあって、僕は監督だから自分は大丈夫だと思ったんですがみんなあまりにも緊張感が高まり過ぎて、自分も巻き込まれてしまいました(笑)。自分もどんどん不安感に襲われてしまったという感じはありましたね。それに監督に対するみんなの目線が怖くて…。僕だけが結末を知っているからみんなの目線はまるで僕が犯人かのように見るんですよね。“1番悪いのは監督だ!”って(笑)

—-では監督が犯人謎解きの部分を白紙で渡した行為は効果覿面、監督が意図した事は大成功だったという事ですね
そうですね。それは演技にも出ていると思うし、スクリーンにも映りこんでいるので(俳優さんの視線など)それがお客さんには伝わると思いますね。
僕が狙った事ではあるんですが、狙った以上に効果が出たなぁという感じです。

—-手塚監督は今年の東京ファンタスティック映画祭で1000円ホラーというものを上映していましたね。本作と予算に差はあれど監督の作り出す世界に思わず引き込まれてしまいました。そういったホラーの世界観を作り出すコツなどがあれば教えて下さい
ホラーに限らず映画の演出って少し手品に近いものがあって、手品って必ず種があって本物ではないんですね。もちろんホラー映画も本物はどこにも映っていないし、起こってる事は全て嘘の事なんですが、それを本当に事のように見せかけるテクニックを色々と使わなきゃいけないんです。お客さんの心理を先読みして作っていくというテクニックです。僕は子供の頃から怖いものが大好きでそういったものばかりずっと観てたのでテクニックが体に染み付いてしまったのであまり深く考えた事はないんですが。計算してどう?と言うよりは自然に作ってくとできてくるといった感じなので。本作で言えば、何が起こるかわからない、先が読めないって事にしておくのが1番怖くするテクニックです。
それにお金=内容ではないので、お金かけたら良いものができるわけでもないし、かけなかったからできないというわけでもない。ただ、お金をかけたらかけただけのものにはなるし、やっぱり映画ってお客さんに豊かな気持ちになって欲しいという想いがあるので、あまりせこいものを観せるよりは、ちゃんとお金をかけて丁寧に作った映画のほうが良いとは思いますね。

—-手塚監督は、映画・アニメ監督の他にも小説を出したり、CD等の企画・プロデュースもされていたり本当に色々な顔を持った方だなぁという印象ですが、今後の方向性としてはどのようにお考えですか?
これが不思議な事に僕自身は、今の話を裏返すようで申し訳ないんですが映画しかやりたくないんですよ。1番好きなのは映画で、映画だけでやっていきたいとは思ってるんですが、色々な仕事のお誘いがある時に全部おもしろそうだなと思っちゃうんですよね。だから自分の中で1番大切なのは映画だけど、それ以外の事はやらないというのではなく、それ以外の事もやってみる。それは先ほど僕が話した、「どんな偶然でも受け入れてみたい」という気持ちからです。そうやって関係を持てるのであれば、映画に限らずどんな仕事でも関係を持ってみたいなと思って。そこでもし得た知識や考えが映画に還元されれば1番いいんじゃないかなと思うんですよね。

—-最後に、本作をこれから観る方々へメッセージをお願いします!
本当に怖い映画なので、怖いものが苦手な方は十分覚悟して観に来て頂けたらと思いますが、ただ怖いだけでなくちゃんとストーリーもあるし、そして僕が1番表現したかったのはそういった若い人たちがどういう関係を持っているかという事なので、そんな事も少し感じてもらいながら観終わってくれると嬉しいなと思いますね。

執筆者

Naomi Kanno